人気の店になることはうれしいことです。行列ができればなおさらで、行列が行列を呼ぶこともあります。ですが一方、ご近所トラブルになることもあり、最近では店頭にある予約リストに記帳をさせたり、整理券を配り、時間になったら再度来店してもらうという店舗も増えました。
そこで、「もっと効率よく売り上げを伸ばしたい」とか、「近所に迷惑をかけずに集客したい」といった悩みを持つ人気の飲食店に、並ばせずに利用を促進するシステム、飲食店版ファストパスが注目されています。
今回はこのファストパスの仕組みや導入のポイントについて解説していきます。
ファストパスとは?
何時間も行列に並ぶ代表と言えば東京ディズニーランドです。以前は「並ぶのも楽しい」と言われていましたが、時間を有効に使いたいと考える人が増え、行列に並ぶ時間をスキップできるファストパスが登場しました。現在はさらに進化し、「ディズニー・プレミアアクセス」というアプリを使ったシステムになっています。これは有料の優先案内サービスです。
現在は「タイパ(タイムパフォーマンス)重視」と言われる時代。時間を有効に使いたいと考える人は行列を嫌います。そこで誕生したのが、ディズニーランドのシステムに似た飲食店版ファストパス。最近登場したものですが、注目を集めています。
飲食店のファストパスは、スマートフォンアプリやウェブサイトを通じ、事前に席や料理の予約ができるもの。そしてお客が店舗に到着すれば、待ち時間なしでサービスを受けられるというものです。
これまでの予約システムと同じでは?と感じた方もいるかもしれませんが、この優先利用サービスは有料であること。また、行列ができる店にこそ使われている点が大きな違いです。
飲食店のファストパス利用イメージ
では、飲食店のファストパスがどのようなシステムか、お客側と店舗側の両方の立場からイメージしてみます。もちろん、ここに書くのは一例なので、すべてが同じというわけではありません。
お客の立場からみたファストパス
これまでの予約システムと似たようなシステムです。スマートフォンアプリやウェブサイト経由で予約をします。
ただし、通常の予約と大きく違うのは以下です。
①予約手数料が必要なこと
②キャンセル料がかかる
③短時間ながら待つケースがあること
予約手数料については、ファストパスが有料の優先案内サービスであるため、必要な費用となります。お金を払って優先権を買うイメージです。店舗の登録数が最も多いTableCheckのファストパスサイトでは、300円~500円程度が多いようです。
キャンセル料も必要なことが予約サイトに明確に書かれています。ただし、店舗によっては予約時間まで余裕があれば無料なこともあります。この場合も、予約手数料は戻ってこないのが基本です。
待ち時間については、あらかじめ席が空いているのではないので、少しですが待つこともあります。あくまでも優先案内サービスのため、待っている人の一番先頭になれる権利と考えるとよいでしょう。
店舗側からみたファストパス
次は店舗側からのイメージです。
予約の受付開始時期については店舗で決められます。予約日の前日からなど、時間が短い設定も可能です。ファストパスの購入は先着順。元々人気店ですから、利用希望客は多いはず。この予約開始時間を明確にすることで、あっという間に予約が埋まる店舗もあります。
予約できる席数は時間ごとに決めておきます。昼の忙しい時間を避けることも、あえてその時間を予約のみにすることも可能です。当然ながら、店内のうち、いくつかだけを予約席とすることもできます。
またファストパスは、これまでの予約システムとは違い、予約時間に近くなったら案内するべき席を空けておく必要はありません。なぜなら、いつでも列の先頭になれる権利だからです。もちろん、いくらでも待たせてもよいわけではありません。
キャンセル料については、請求するのが当然というスタンスです。しかも、利用した方が安い(料理よりもキャンセル料の方が高い)ケースも多く、「それでも利用したい人だけのサービス」という強気のスタンスが却ってお客の支持を得ていると感じています。当然ながら、キャンセルはほとんどないようです。
もうひとつ強気なところは、予約時間に現れなければ即キャンセルになること。こうすることで回転しない席リスクをなくしています。
ファストパスを飲食店で導入するメリット
ここからはファストパス導入のメリットを考えます。
お客の待ち時間の削減
ファストパスを導入する店舗は、(時間帯によって)行列ができるところです。行列は繁盛店の証とも言えますが、中には数時間待たせてしまうケースもあります。多くは外で待つため、暑かったり寒かったりして、お客を待たせることに申し訳なさを感じるケースもあります。
また近所の人からのクレームにつながることもあり、お客を整理するために従業員を外に立たせているケースもあります。
これを避けたいと、店頭にリストを置いて記名させたり、整理券を配ったりして、指定の時間に再度足を運んでもらうケースもありました。しかし、これは余りお客からの評判はよくありません。なぜなら、近くに時間を潰す場所があるとは限らないからです。
そこで、WEBを使ったファストパスが有効となるのです。システムを使うことで、事前に店舗に足を運ぶこともありません。そのためお客は時間を有効に使えるようになります。
効率的なオペレーション
ファストパスでの予約の際に注文や支払いが完了していると、店舗での手間を減らすことができます。また、あらかじめ注文の内容が分かっていると、事前に準備をすることが可能となり、厨房運営がスムーズになります。
最近は人件費の高騰から、人員の余裕がない状態で店舗運営をしているところが多くなっています。それでも休憩は適切な時間にとらせなければなりません。あらかじめ予約でお客の入りを把握し、オーダーの数も理解していれば、休憩を適切に回すことも可能となります。
競争力を強化する

ファストパスを導入している店舗は、まだそれほど多くありません。例えばラーメン店であれば、インバウンドも多く利用しますが、彼らは長時間並ぶことに価値はありません。効率的に日本を周り、できるだけ多くの体験をしたいと思っているので、あらかじめ時間を指定できるシステムは有料であっても大歓迎というわけです。
また、彼らは事前にネットなどを使って行きたい店を見つけておく傾向にあるので、そのときにファストパスのシステムがあることは非常に有利に働きます。
オーナーの中には、「新しいお客を優先することに抵抗感がある」と言う声もありますが、常連客をすべて廃除するわけではありません。次の利用時に、「ファストパスをはじめたので、時間のないときに利用してくさださい」とすれば、かえって利用機会が増えるかもしれません。
実際、導入店舗では、「並ぶ時間がなくて利用をあきらめた」という声も聞かれます。例えば家族が帰省したとき、「あの店で食事をしたい」となればファストパスを購入すればよいわけです。
ファストパスを飲食店で導入するデメリット
ファストパスに限ったことではありませんが、導入にあたってはデメリットも理解しておく必要があります。
初期投資と維持費用
ファストパスシステムの多くは飲食店のポータルサイトを利用しています。そのため導入するには、登録料や利用料が必要なことが多くなります。また、独自のシステムを構築する場合、システムの設置や機器の購入にかかる費用が必要で、定期的なメンテナンスやアップデートにも費用がかかります。
この費用負担をできるだけ軽くするには助成金の活用などが考えられます。まずは国や自治体の助成金を調べるとよいでしょう。
またシステムを導入したものの、誰も利用しないのでは意味がありません。場合によっては広告宣伝費も必要なケースもでてきます。
管理の問題
多くはポータルサイトを通じで予約され、WEBを通じて店舗に知らされます。しかし予約が入っていることに気づかないケースもあり、トラブルにつながります。
これを防ぐためには、ファストパスの予約システムと連動したPOSレジを導入するなど、他のシステムとの連動も確認しておく必要があります。
顧客層が変わってしまう可能性
ファストパスシステムは、WEBを使って飲食店の予約をすることに抵抗がない人には魅力的です。ですが、そうでない顧客には敷居が高くなってしまい、足が遠のく結果になる可能性もあります。
ただし、高齢者だからモバイルが苦手などという決めつけは通じないケースも増えています。サービスのメリットを説明することで「やってみようかな」と考える人もでてくるでしょう。
また、すべての席(時間帯)をファストパス対応にしなければ、これまで同様、ネット予約が苦手な人にも利用してもらえます。その点はしっかり説明することが重要です。
ファストパスを独自に実施した店
ここまでは、ポータルサービスを活用したファストパスを紹介しましたが、独自に導入した事例があるので紹介します。
その店舗はご夫婦で経営しているテイクアウト中心のサンドイッチ屋です。駅前商店街にあり、近くにビジネスビルが多いこともあり、ランチタイムになると行列ができていました。
会社のランチタイム利用の人は急いでいる。一方主婦の人は時間的な余裕があるということで、有料優先サービスを思いつきます。ただし、並んでいるお客さんを抜かして店内に入ることに抵抗があるようで、なかなか定着しなかったそうです。
そこで、店舗の入口にロープを設置して2つにわけ、「有料お急ぎレーン」と通常レーンにわけることで優先サービスを利用する人が徐々に増えていったそうです。
お急ぎレーンの利用料は1回につき100円。単価が600円ほどの店舗です。オーナー夫婦の人柄もあり、トラブルや不満の声は一切ないそうです。
これを導入したことで、お客の時間を大切する店舗と認識されるようになったそうで、うれしい副作用として、出勤前の時間帯に利用する人が増えたとのこと。飲食店にとって好感度を上げるのは簡単ではありませんが、見事にはまったケースだと言えるでしょう。
飲食店がファストパス導入時に考えるべきこと
今現在、ファストパスのサービス提供を行っているところは限られていますが、注目度が高いことから、今後増えるものと予想されます。導入にあたっては、どのような点を重視すればよいのでしょうか。
顧客のニーズを考える
まずは、店舗側の都合ではなく、お客側が求めていることが何なのか知ることからはじめます。待ち時間は適切か、待たせることによってお客がどのような不利益を被っているのかを考えます。
また、すでに利用している顧客だけでなく、新規客についても考えます。どうすればより多くのお客に利用してもらえるか、真のニーズはどこにあるのかを考えます。
コストバランスを考える
どんなに素晴らしいサービスでも、高額な導入費用や維持費が必要なのでは意味がありません。飲食店経営では利益を出すことは当然すぎる条件です。
それでも、あれこれと考えているうちに、導入することが目的化してしまうのも珍しいことではありません。そうならないためには、費用対効果のコスト意識は常に忘れないようにしてください。
運用のしやすさを考える
運用のしやすさも重要なチェック項目です。せっかく予約をされても、店側が気づかないでいるとトラブルにつながり、悪評になる可能性もあるからです。これは店長だけでなく、すべてのスタッフがストレスなく使えることが条件です。
わざわざ予約確認をするためにパソコンを開くようはことは避けるべきで、日常業務の中にスムーズに溶け込むシステムを選ぶ必要がでてきます。そうなると、POSレジなどと連動したサービスが最適かもしれません。
すでにPOSレジを導入しているなら、連携可能なサービスを探すか、この機会にPOSレジ自体を変えてしまうのが得策なこともあるでしょう。
データ化を考える
売り上げを上げるにしても、下がりはじめたときに対応策を考えるにしても、勘ほど不確かなものはありません。そこで必要なのはデータです。どんなメニューが人気なのか、どの時間帯が混雑するのか、何人連れが多いのかなど、データを活用することで気づかなかった盲点を探し出すことができます。
そのためには、わざわざデータをとらなくても、POSレジに連携するなどしてデータを蓄積しておき、必要な時にデータを呼び出せるのが理想です。
まとめ
行列ができる飲食店で活用が広がっているファストパスを紹介しました。
ファストパスを導入することで、店舗運営がスムーズになることはもちろん重要です。加えて、お客の時間を大切にしていることを伝えることが重要で、だからこそお客はお金を払って優先してもらう権利を購入するのです。
これまでの予約と似ていますが、実は大きく違うファストパス。行列ができることで発生するトラブルや手間を解消してくれるシステムです。この機会に導入を考えてみてはいかがでしょうか?
