飲食店を開業しようとするとき、最初に直面する大きな課題が「物件探し」と「資金」です。内装がない状態のいわゆるスケルトン物件を賃貸し、内装と外装を一から作り上げるとなれば、内装工事や厨房設備の導入に多額の費用と時間がかかり、開業事業の初期段階からリスクを背負うことになります。 そんな中、注目されているのが「居抜き物件」。飲食店は実に多いのです。居抜き物件は、前の店舗が使っていた設備や内装を引き継ぐため、初期投資を抑えつつ短期間で開業できる大きなメリットがあります。
本記事では、居抜き物件の探し方から契約時の注意点を網羅的に解説し、失敗を防ぎながら最短ルートで飲食店をオープンするための実践的なノウハウをお届けします。
なぜ今、居抜き物件が注目されるのか

飲食店経営を志す人や複数店舗展開を考えている人にとって、物件探しは最大のハードルの一つです。スケルトン状態の物件を借りてゼロから造作すると、どれくらいの費用が必要だと思いますか?
もちろん物件や内外装の作り方にもよりますが、一般的には小さな店舗でも数百万円、中規模店舗でも数千万円単位の投資となることもあります。飲食店開業は敷居が低い業種だと言われますが、大きな初期投資が必要な業種でもあります。初期費用をどう抑えるかがその後の成否を分けると言っても過言ではありません。
その点、居抜き物件ならすでに設備や内装が整っているため、初期投資を大幅に削減でき、スピーディに開業へ進めることが可能です。 近年は物価高などの影響もあり、飲食店の入れ替わりが激しくなっています。駅前や繁華街でも居抜き物件が市場に流通しています。さらに、自治体や商工会議所などの支援制度もあり、開業に伴うリスクを下げながら挑戦できる環境が広がっています。
なぜ初期投資が抑えられるのか

新規開業にかかる最大のコストは「内装工事」と「厨房設備」です。特に厨房設備の中でもグリストラップ(排水設備)に費用がかかります。
グリストラップとは、厨房の排水口に設置される「油脂や食材カスを分離・回収する装置」のこと。調理や洗い物で流れる排水には油や食品残渣が多く含まれており、そのまま下水に流すと配管の詰まり・悪臭・害虫発生の原因になります。これを防ぐため、グリストラップで排水を一度ためて油分や固形物を浮かせたり沈めたりして分離する仕組みで、法律でも設置が義務付けられています。
これは一定以上の容量の層を厨房の床下に設置する必要があります。つまり、床の下に穴を空けるか、厨房全体の床を高くする必要があるわけで、費用が高くなるのは想像できるでしょう。 その点、居抜き物件であれば、グリストラップはあって当然の設備なので、コストは大幅にカットできます。 また、内装工事のうち、エアコンが設置されている点も大きく影響します。業務用のエアコンは天井に埋め込むタイプが多いのですが、これは1台100万円以上します。設置にも費用がかかりますし、大家に室外機の設置許可をもらわなくてはなりません。
居抜き物件ではこれがすでに設置してあるので、大きなコストカットになるわけです。 他にも、ダクトや冷蔵庫、製氷機、焼き台などが残っていれば、その分の投資が不要になります。内装や什器も利用できれば、数百万円の節約は十分可能です。資金に余裕があれば、運転資金や広告費、さらに万一に備えた保険加入にも回すことができ、経営の安定性が増します。
居抜き物件は開業までのスピードが速い

新規店舗を一から作る場合、設計、施工、消防・保健所の検査、営業許可取得まで半年以上かかるのが一般的です。これに対して居抜き物件は、基本的なインフラと内装が揃っているため、軽微な修繕や看板の取り付けだけで数週間から数か月でオープン可能です。
スピード感は、飲食店開業において極めて重要です。なぜなら、時間が長引けば長引くほど、家賃や水光熱費などの固定費が経営を圧迫するからです。短期間で開業し、いち早く売上を立てることは、非常に重要なのです。
居抜き物件を探す前に決めておくべき条件

最近は好立地の居抜き物件も市場に多く出回るようになっています。一方で、「居抜き物件を活用してすぐに開業したい」というニーズも高まり、人気物件は数日で(中には数時間で)決まってしまうこともあります。 筆者の知り合いの飲食店オーナーは、「物件探しは戦いだ!」と言っていて、なるほどなと感じます。この戦いに勝利するためには、どんなことを準備しておけばよいのでしょうか。
以下に、最低限決めておくことを示します。「居抜き物件だから、出てきた物件にあわせて考えよう」と思っているとしたら、それは失敗に一直線です。
店舗コンセプトとターゲット層
飲食店は「誰に」「どんな価値を」提供するのかが最重要です。大衆的な居酒屋、若者向けのカフェ、健康志向のランチ業態など、コンセプトを固めることで物件選びの基準も明確になります。これは事業計画書の基盤となり、融資や保険加入時にも説得力を持たせる要素にもなります。
物件によって若干変わることがあったとしても、ゴールが見えているのといないのとではチェック項目がちがってくるはずです。居抜き物件だからこそ、コンセプトとターゲット層は明確にしておきます。
必要席数・厨房規模・設備条件
例えば客単価4,000円で1日2回転を想定する場合、20席なら売上目標は16万円/日となります。こうした逆算から必要席数を決定し、厨房規模や設備の条件を具体化しておくことが重要です。
立地条件(駅近・商圏・競合状況)
立地は飲食店の成否を分ける要素です。駅からの距離、人通り、周辺の競合店舗を分析することで、安定した売上が見込めるかどうかを判断します。開業事業においては、この分析が「閉店リスクを減らす最大のポイント」と言えます。 ただし、駅前だから成功して、2等地・3等地は失敗するというわけではありません。それぞれの店舗コンセプトやターゲット層、席数などによって、何が成功に結びつくのかは違ってきます。
情報収集の5つのルート

では、居抜き物件はどのように探せばよいのでしょうか?
代表的な方法を紹介します。
- 不動産ポータルサイトの活用
一般的なサイトから専門サイトまで、検索条件を工夫すれば効率的に情報を得られます。幅広い地域で探すことができるのが最大の特徴です。 - 居抜き物件専門の仲介会社
業界特有の造作譲渡契約に強く、あらかじめ価格が表示されているところも多く、交渉もスムーズ。規模の大きい物件にも強いのが特徴です。 - 地元の不動産業者(地場・商店街経由)
それぞれの地元に根差した不動産業者は扱っている物件数は少ないものの、未公開物件の情報を得られることがあります。 - 知人・業界仲間からの紹介
信頼できる物件情報は、口コミや紹介で得られることも多いです。出店したい場所が決まっていても伝手がない場合、営業中の飲食店などに入ると、近隣の情報を教えてくれる場合もあります。 - 自らの足で探す「現地ウォーク」
ネットには出ていない情報を得るために、商圏を歩き、閉店予定の張り紙などを直接チェックすることも有効です。
居抜き物件をネットで探すときの検索&比較テクニック

ネット検索で物件を探すときは、「居抜き+地域+飲食店」といった具体的なキーワードが有効です。飲食店とわざわざ入れるのは、居抜き物件には美容室などの他業種もあるからです。また、飲食店は専用サイトも多く、それをヒットさせるためでもあります。
これらのサイトの特徴として、掲載写真が多いことがあげられます。写真からは厨房の清潔さや内装の劣化をチェックするとよいでしょう。間取り図では動線や収納スペースを確認します。さらに、家賃、保証金、造作譲渡料を比較し、総コストで判断することが大切です。
会員制のサイトもあります。イメージにあった物件はなかなか出てこないこともあるので、登録しておくとよいかもしれません。
居抜き物件専用サイト
居抜き物件を専門に扱っているサイトを3つ紹介します。
居抜き店舗.com https://www.i-tenpo.com/
都内と東京近郊に強いサイト
Tempodas https://tempodas.com/description/
全国の情報が検索でき、周辺のマーケットデータも表示してくれる
テンポスマート https://www.temposmart.jp/
関東版と関西版に分かれているのが特徴
契約手続きの前に、必ず現地内覧を

気になる物件を見つけたら、必ず足を運び内覧をします。不動産屋によっては、「今すぐに手続きを」と言われることもありますが、物件調査をしないのは危険です。居抜き物件だからこそ、内覧をしてください。
その時には以下のようなことをチェックします。
- 配管・排気設備の状態:交換費用が高額になりやすい部分なので念入りに
- 厨房機器:後で入れ替えをする機器がある場合、廃棄の代金なども確認
- 電気容量・ガス・水回り:営業中に不足すると大きな問題に。特に古い建物の電気容量は念入りにチェック
- 臭い・換気・騒音:客足に直結するため必ず確認
- 視認性と人通り:看板の見やすさや歩行者数は売上に直結。少し離れた場所からチェック。店頭に案内用の看板が設置できるかも忘れずに
店舗の営業時間が深夜になる場合、夜中にも確認にいくことをお勧めします。時間帯によって客層が変わる場所もあります。
造作譲渡料の交渉術

造作譲渡料には相場がないと言っても過言ではありません。そのため、前オーナーの言い値になりがちですが、近隣店舗の価格を調べ、修繕費用を見積もることで交渉材料にできます。仲介会社を通じて情報を収集し、交渉してください。
筆者の知っているケースでは、当初、前オーナーからの提示額は400万円だったものを、150万円にまで下げたケースがあります。また、それほど安くはならなかったものの、不要だった厨房機器をすべて撤去した上で(費用は前オーナー持ち)の引き渡しに成功したケースもあります。あきらめずに交渉してください。
倒産・閉店のリスクを回避する共済制度と保険

どんなによい物件だったとしても、予想外の理由でやむなく閉店となるケースがあります。前の店舗が近隣店舗と酷いトラブルを抱えていた場合もありますし、取引先が倒産したことで売り上げを受け取れない場合もあります。 そのようなケースを想定し、「中小企業倒産防止共済制度」などを事業安定のための保険として加入しておくのもよいでしょう。
中小企業倒産防止共済とは、飲食店(サービス業)として開業事業の対象となっているもので、取引先企業が倒産した場合、積み立てた掛金総額の10倍の範囲内で回収困難な売掛債権等の額以内の共済金の「貸付け」が受けられる中小企業倒産防止共済法に基づいた共済制度です。 他にも、飲食店では火を取り扱うので火災保険への加入は必須です。この保険は、火災以外にも水災や風災、地震、雪災など自然災害による被害も想定したコースがあります。天災後に営業を続けるために修繕をすることの他、居抜きで借りた場合でも撤退するときは原状回復義務があるケースもあるため、火災や自然災害による修復を考えるようにしてください。
また、第三者のケガや食中毒発生時の損害などの賠償責任に備える保険も必要でしょう。 さらに、休業による売上減少に備えた保険もあります。食中毒の発生により、一定期間の店舗休業を余儀なくされた場合、店舗休業保険などへの加入が助けとなります。店舗づくりに必要なコストを居抜きでカットできた分、これらの保険に入っておくことも賢い選択だと言えます。
まとめ:居抜き物件を見極め、最短で開業するため

居抜き物件は、初期投資を抑え、開業スピードを速める有力な選択肢です。ただし、物件選びや契約条件を誤ると、想定外のリスクを抱えることになります。
さまざまな情報網を活用し、さらに店舗運営のリスクを保険でカバーすることで、安定した開業事業を進めることが可能です。スピードと慎重さを重視しつつ、理想の店舗を見つけてください。
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ライタープロフィール
原田 園子
兵庫県出身。
株式会社モスフードサービス、「月刊起業塾」「わたしのきれい」編集長を経てフリーライター、WEBディレクターとして活動中。 https://radasono.wixsite.com/portfolio


