飲食店への導入が進むPOSレジシステム。近年は、単にレジを置き換えるだけでなく、オーダーエントリーシステムをともなったものが注目されています。 もちろんお客からすれば、注文のしやすさが重要です。しかし店舗にとってはオーダーエントリーシステムのすべて。つまり、スタッフが注文を入力するハンディを含め、注文が厨房にどのように伝わり、どのような流れで調理をサポートするのかが重要となります。 これまでは一般的な飲食店でのオーダーエントリーシステムの導入が広がる一方で、高級店での導入は進んでいませんでした。その理由は、細かな対応が難しかったからです。
ところが最近になって、オーダーエントリーシステムが進化し、高級店のサービスにも対応できるようになったと注目を集めています。今回はオーダーエントリーシステムの最新事情と導入の仕方を探っていきます。
オーダーエントリーシステム活用メリット
まずは、デジタル機器を使ったオーダーエントリーシステムのメリットを見ていきます。ここで言うオーダーエントリーシステムとは、注文するときに卓上に設置されたタブレットやお客のスマホ(モバイルオーダー)、またはスタッフが入力するハンディで受注し、注文を即座に厨房に伝えるシステムのこと。
今では、ファストフード、カフェ、レストラン、居酒屋、回転寿司など、さまざまな業態で導入が進んでいます。 受注内容は、タブレットなどに表示することもあれば、紙に出力して管理する場合もあります。
ここではまず、オーダーエントリーシステム全般のメリットとして、代表的なものを3点あげます。
【メリット1】 オペレーションの効率化
飲食店ではスピード提供が重要になります。そのためには注文をいかに素早く厨房に伝えるかがキーになります。 紙の伝票に書く場合、その注文用紙を厨房に持っていかなければなりません。小さな店舗であれば大きなタイムラグにはなりませんし、声で通すこともできるでしょう。しかし、一定の規模以上になると難しく、オーダーをすぐに厨房に知らせることが可能なデジタルのオーダーエントリーシステムは時間の短縮となります。
また、キッチンディスプレイを使う場合、料理の提供状況を一目で把握でき、複数のスタッフで連携しやすいというメリットもあります。厨房とフロアは分かれていることが多く、お互いの込み具合を瞬時に把握することが難しく、サポートに入るべきかを判断できない店舗もあります。
その点、キッチンディスプレイを複数の箇所に設置していれば、それぞれが混雑具合を確認することができ、サポートもたやすくなります。
【メリット2】オーダーミスの削減
文字には個性やクセがあります。しかもオーダーを受けるときは急いでいることが多く、手書きの場合、ますます読みにくい文字になってしまいます。こうなると、文字の読み間違いや伝達ミスが発生しがちに。オーダーエントリーシステムであれば、このミスは防げます。
【メリット3】データ分析が可能
オーダーエントリーシステム活用の大きなメリットのひとつが、注文時間や調理時間、提供時間などをデータとして残せることです。これは商品提供時にタイムリーに把握できるだけでなく、後から確認できるようになっていて、業務改善に活用できます。混雑時間帯や売れ筋メニューの把握、新商品開発など多岐に渡って活用できます。
個別応対が苦手だった旧来のシステム
オペレーションを劇的に変えてくれるオーダーエントリーシステムですが、苦手とすることもありました。そのひとつが、細やかな対応です。
オーダーエントリーシステムは、オーダー1つに対して1つの表示が一般的。これに決まった内容の変更を加えるのが精いっぱいです。例えば牛丼屋であれば、「牛丼」の注文に定型的な「つゆだく」「つゆなし」「タマネギ抜き」などの選択はできます。それらのボタンを設置すればよいだけですから。 ところが、「可能なら脂身を少なく。無理なら普通で大丈夫」となると対応できなくなります。また、フレンチの場合、まずはコースを注文し、続けて「アミューズ、前菜、スープ、魚料理、ソルベ、肉料理、サラダ、チーズ、デザート…」と選んでもらうと対応できません。 もちろん、まったく不可能ではありません。オリジナルにプログラムを開発したり、汎用版をフルカスタマイズすればできます。ただし、非常に高価で、中小規模の店舗では費用対効果が落ちるため、導入する店舗がなかったわけです。
なぜでしょうか?
その理由のひとつはオーダーエントリーシステムが汎用性の高さを求め、「標準的な飲食店オペレーション」を想定して開発されたことにあります。厨房内に設置するディスプレイによっては、表示範囲を設定できるものもありますが、所詮は表示するかしないかを選べる程度。 まして、「全メニューからアレルギーのある食材を抜く」「料理の提供順を変える」などの要望がある場合、それを書き込むことができないどころか、要注意オーダーとして色分けすることすらできないものがほとんどでした。
これに対応するためには、オーダーを入力した後に厨房に口頭で伝えるという非効率的なことをしなければなりませんでした。また厨房でも、出力されたオーダー票に手書きでリクエストを書き加えたり、キッチンディスプレイを使っている店舗では記憶にたよるしかありませんでした。
細かな対応ができるので高級レストランでも導入可能に
高級なレストランは料理の味だけでなく、顧客体験や接客の質が重視される業態であり、ただ効率化を求めるだけでは客離れを起こしてしまいます。そのためオーダーエントリーシステムの導入を見送るところが多くありました。しかし一方では導入のメリットも享受できず、ジレンマを感じる部分だと言われてきました。 ところが最新のオーダーエントリーシステムは、接客の質を落とさない工夫がされ、細やかな対応ができるようになり、高級レストランでも導入可能になってきました。その具体例を紹介します。
コース内容の個別印字が可能に
コース料理では、商品の提供時間が違いますし、提供順を変えたい場合などもあります。そのような場合、ベストタイミングがわかるのはホールにいる接客係のみ。厨房からはわからないことがほとんどです。 そこで、最近のオーダーエントリーシステムの中には、接客担当から調理開始の指示が可能になっているものがあります。これにより、お客の要望を聞いたり、食事の進み具合を見ながら厨房に指示がだせ、お客は最適なタイミングで料理を堪能することができます。 また伝票を印字して使いたい場合も、コース内容の個別印字や出力順など柔軟に変更できるものもあります。
これを活かせば、コース料理だからデジタル化は難しいと感じていた店舗でも導入ができます。
オーダー時にコメント入力ができる
これまで苦労していた店舗が多かったのが、メニューのコメント付けです。高級な店舗では、お客のこまかな要望に応える必要があります。例えば、嫌いなものを省くだけでなく、「ソースを別添えにする」「少量にする」「器を温める」など、要望は多岐に渡ります。
これらの要望に応えるために、自由に書き込めるメモ機能が付いたものが出てきています。これにより、ミスなく調理ができ、確認作業もスムーズになります。
客席単位の管理から顧客ごとの管理へ
これまでのオーダーエントリーシステムでは、お客をテーブル単位で管理するのが普通でした。もちろんそれで十分な業態もあるでしょう。しかし高級レストランなどでは、一人一人のお客に正しい商品をサーブしなければなりません。前述で言えば、「〇〇を抜く」というメニューを作り、要望のお客に届けることがサービスだからです。これは旧来のシステムが苦手としていた分野でした。
最新のシステムでは、テーブル単位ではなく、テーブルポジションの設定が可能になっています。これにより、お客一人ひとりのリクエストにミスなく正確にサービスを提供することが可能になります。
商品情報を即座に確認できる
オーダーを聞いていると、細かい質問を受けることがあります。例えばアレルギー情報や商品の特徴など。そのようなとき、スタッフの記憶力に頼るのでは限界があります。
最近のシステムでは、商品説明欄が設けられているので、スタッフはそれを見て説明をすればよく、こだわりポイントや含まれている食材、アレルギー等の情報を正確に説明できるようになっています。
また、お客がモバイルオーダーする場合もこれらの情報を表示することができるので、売りたいものを売りやすくなっていると言えるでしょう。
高級レストランでの導入方法

進化したオーダーエントリーシステムを導入している高級店が増えています。その例を挙げながら、高級店ならではの活用方法をみてみましょう。
都内のコース料理が中心の高級フレンチ店は、オーダー提供のタイミングのズレが大きな問題でした。特注やリクエスト対応(アレルギー、苦手食材)も増えており、ワインのサーブのタイミングと料理提供を合わせる必要もあることから、手書き伝票では対応が難しかったのです。 そこで、コース対応型のシステムを導入。シェフとホールがタブレットでお客情報を共有するようにしました。ワインペアリングの進行状況に応じ、料理を出す順序を調整できるようにしたそうです。
成果としては、サービススタッフの記憶負担が軽減され、ホスピタリティに集中できるようになり好評なようです。 また、老舗料亭でも導入が進められています。外国人富裕層やVIPの増加により、多言語対応と顧客対応力の強化をしつつ、日本らしい風情やおもてなしの雰囲気は損ねられないと、現状を変化させなくてもよいシステムの導入を目指しました。 具体的には、スタッフは客席では手元のメモに書き、バックヤードに入ってからシステム上に入力します。実はこの手法を採用している高級レストランは多く、メモなどに入力するために気まずい間が空いたり、無機質な雰囲気を避ける目的があるようです。
メモをそのまま厨房に渡すより多少時間がかかりますが、料理提供の流れがスムーズになるのでメリットは多いと言います。ほかにも、来店履歴やアレルギー情報、海外のお客の通訳希望など、顧客情報とあわせてデータ保存することで、より細やかな個別対応を可能にしています。 高級店は予約客だけを受け付けていることも多く、スピード重視ではないのなら、このスタイルもお勧めです。
翻訳が必要な場合、タブレットのメニューなどに翻訳したものを載せていれば、多言語対応も可能になります。
まとめ:デジタルであたたかさの感じられるサービスを
近年ではさまざまな分野でデジタル化が進んでいます。飲食店でも同様でしたが、その目的は効率化や人件費を抑えるためのもの。そのため、キャッシュレス決済やタッチパネル注文、配膳ロボットの導入が先行してきました。 しかし時代は進み、デジタルが飲食店の根幹であるサービスの向上にも役立つようになってきました。それが今回紹介したオーダーエントリーシステムです。 飲食店はサービスを提供する場です。これからの飲食店に重要なのは、効率とおもてなしのバランスを両立させること。適切なDXを使いながら、温かみのあるサービスで顧客満足度を高めることが真の競争力となる時代です。
新しいデジタル技術がより細やかなサービス提供の役に立つ時代がやってきました。この機会に最新のオーダーエントリーシステムの導入を考えてみてはいかがでしょうか。
ライタープロフィール
原田 園子
兵庫県出身。
株式会社モスフードサービス、「月刊起業塾」「わたしのきれい」編集長を経てフリーライター、WEBディレクターとして活動中。 https://radasono.wixsite.com/portfolio


