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弁護士からの賠償金請求通知。どう対処するべきか? 【飲食店トラブル】

飲食店を経営しているとさまざまなトラブルに遭遇します。クレームには当然、誠意ある対処をしなければなりません。ですが中には、どう対処することが正解なのか分からないものもあります。そのひとつが弁護士からの通知です。

今回はある飲食店に届いた通知書を参考に、飲食店がどのように対応するべきかを考えます。

今回事例として挙げるケースは実際にあったことですが、全てのケースが今回の対処法が正解というわけではありません。あくまでも参考事例ですので、誤解なきようにしてください。

突然届いた弁護士からの通知書

今回紹介する飲食店は都内にあるバーです。店内には 18年前からダーツが1台設置されています。これは専門業者が設置したものです。

事故(事件)が起こったのは2024年1月28日。弁護士から通知が来たのは3月3日付でした。簡易書留で送られてきました。

内容は以下のとおりです。

ダーツ上部に設置されていたモニターが落下し、通知人の頭部を直撃したために、過料 8日を要する 頭部挫創の障害を負いました。(中略)
治療費  16420円
通院慰謝料 通院 8日間 7万46666円
休業損害 日額 20697 円 ×欠勤1.5日=3万1045円
合計12万 2131円を本書面をもって請求いたします。」

この事故は実際に発生しています。スタッフの記憶に鮮明にありましたし、POSレジでも確認できました。

事故の内容は、ダーツで遊んでいたお客の頭上に、ダーツの上に設置していたモニターが落下。これが お客のおでこにあたって出血し、スタッフが救急車を呼んでいます。

店舗が選択できる5つの対応

このような通知が来たとき、店舗側がとる対応としては以下が考えられます。

1 素直に支払う
2 保険会社に連絡し対応してもらう
3 まず事実確認を行う
4 弁護士に依頼する
5 無視する

「1.素直に支払う」

は自腹で払うことを意味します。多くの飲食店は保険に入っているので、これは決して正しい選択とは言えません。ですが実際には、狼狽して支払ってしまう人もいるのであえて書かせていただきました。

「2.保険会社に連絡し対応してもらう」

とは多くの飲食店は保険に入っています。この場合、「店舗向け賠償責任保険」が適用されるので、保険会社に対応を依頼するのが妥当です。ちなみに、今回紹介している店舗も保険には入っていたそうです。ただし、保険会社に連絡することはありませんでした。具体的な対応は後述します。

「3.まず事実確認を行う」

とは相手側の弁護士に連絡することを指します。ここで注意しなければならないのは、感情的になって文句を言うのではないということ。相手側の言い分を聞き、こちらの主張をします。何より大切なのは、冷静な対応となります。

また、金銭を請求されたら、満額を払うしかないわけではありません。事実確認をした上で、保証割合を決めたり、満額支払うにしても、ある程度納得して支払うための事実確認です。

「4. 弁護士に依頼する」

とは、自分の側も別の弁護士をたてるということです。自分の側にも弁護士がいれば、あとは弁護士同士で話をつけてくれます。賠償額が高額であれば最も有効な手段となりますが、今回のケースは12万円の請求です。顧問弁護士がいたり、保険に弁護士特約があれば別ですが、そうでなければ費用を考えなければなりません。
最後は、

「5. 無視する」

です。仮にこれが、裁判所から送られる「訴状」であれば無視することはできません。ですが今回は通知書。これは、相手方に主張を知らせる書面です。知らせることが目的なので、通告書自体には法的効力はありません。その意味からは、無視することも可能です。
ただし、この段階で何らかの対応をしなければ、正式に訴えられる可能性もあります。それを考えると正しい選択とは言えません。

事実確認と、店舗側の主張をしてみた

さて、この店舗がどのような対応を選択したかと言えば、「3.まず事実確認を行う」でした。

もちろん店内でケガをしたのですから、店舗側に責任があることは間違いありません。それについては治療費も慰謝料も支払うつもりだったそうです。ただし、通知の中身はあまりにも一方的で、当時の事故の状況とかけ離れている印象が強かったために、まずは確認をする必要があると考えたそうです。

もちろん、通知書を受け取った直後は、「12万円なら払ってもよい」と考えたそうです。しかし、冷静に内容を読み返してみると、納得できない部分が散見されたそうです。中には事実と異なっている部分もあったそうです。

具体的には、来店時、すでに酔っていたことにはまったく触れていないこと。実は同行者が「前の店で2人でワインを1本飲んだ」と言っています。そのような状態でダーツをしたため、ダーツの扱いがぞんざいで、悪ノリと思われる行動が見受けられたそうです。

これはスタッフが感じただけでなく、事件発生当時、店内にいた常連客が「あのお客さん、ダーツを壊しかねないから止めた方がいいよ」と言っています。また、スタッフはもちろん、常連客も注意をしたそうです。

また、通知書の中では、「モニターはブラウン管テレビ状で相当程度の重さ・ 大きさがあるものであったにもかかわらず、特段の固定もされずに高所に単に置かれていただけの状態でした。(中略)貴店には、落下などの危険を防止する措置を怠った過失がある」と書かれていました。

実際にはブラウン管テレビのわけはなく、液晶モニターに落下防止のための木枠をつけ、業務用の両面テープで貼り付けていたそうです。

他にも、店舗側が責任をとりたくないために、ケガをしても何もしなかったかのような書かれ方だったようですが、救急車を呼んだのはスタッフ。しかも、「病院には行きたくない」と言う当人を説得して消防に通報したのが事実です。

冷静になって読み返すとあまりにも一方的であり、状況を正しく理解していない請求だと感じたので、質問を投げかけることにしました。

それにあたり、以下の点を確認しています。

①ダーツを設置した業者に、同様の事故が起こったケースがあったかの確認
②常連客に事故発生時の状況確認

①については、同じ設置方法を多くの店舗でやっており、事故につながったことはないとのこと。
②については、「何かあれば自分が第三者として説明してもよい」と言ったそうです。

また、質問は文書で送付しています。内容は、酔った状態で来店し、注意しても辞めなかったなどの状況説明。その結果、通常では考えられない事故が起こったが、正しい対応はしていたこと。故に、「決して賠償金を払わないという主張ではなく、書面の内容であっても100%払わなくてはならないのかとの疑問を持ってる」と書いたそうです。

失望した弁護士からの回答

こちらからの質問を送った数日後、弁護士から再び簡易書留が送られてきました。封を開けると、前回の文章の内容をコピペし、文字を大きくした内容に、賠償金の振込先が書かれていただけでした。質問への回答はなし。しかも、宛先であるオーナーの名前を書き間違えていたそうで、失望感しかなかったそうです。

当然ながら、この弁護士はケガをしたお客側の弁護士であり、その言い分を通す役割をもっています。それであれば、「店舗側の言い分なんか聞いてないから払え!」とでも書いてあれば納得するのに、文字サイズを大きくして送ってくるだけとは・・・

この後、再度同じ質問をしたそうですが、返信は「請求の損害額を支払うご意向はないとの趣旨で間違いないでしょうか」と書かれていたそうです。また、「当方ではご質問事項への回答は予定しておりません」とも。

そこで再び返信したところ、最後の書面が届きます。これは弁護士が感情的になっていることが文面から伝わってくる内容で、最後に、「本通知に対する回答は不要です」と結ばれていたので、回答はしていなそうです。

民事か刑事か? 強気に出られた理由

この話をすると、よく強気にでたなと感じる人が多いようです。実際、2回目の通知がコピペできたことから、「そっちがその気なら・・・」と考えたのも事実だそうです。

しかし、強気だったのは、感情論以外の部分があります。

これ以降、何らかの手段にでるとすれば、2つが考えられます。刑事告訴と民事訴訟です。

(刑事)告訴とは、捜査機関に対して犯罪事実を申告し、犯人の処罰を求めるものです。通知書には「被害届」を提出したと書かれていましたが、これは被害の事実を申告するだけの効果しかありません。仮に、告訴状や告発状が受理されれば状況が変わってきますし、警察は要件が整っていれば受理しなければなりません。ですが現実には、「預り」状態にして、正式に受理しないことが多くあります。その状況を知っていたことと、常連客が状況を証言してくれる確約を得ていたので、告訴にはいたらないし、仮に告訴されても問題ないと判断したそうです。

続いて民事訴訟ですが、これは法的な権利義務の争いについて、裁判所に申立をして、判決によって紛争を解決するための手続きです。一般的には「裁判」と言われていますが、これを行うには弁護士が必要です。しかし、賠償金12万円のために代理人になる弁護士はいないでしょう。

弁護士を雇わない場合、示談や調停、仲裁という手段になりますが、訴えを起こす側がこれを行うのは精神的な労力が必要ですし、請求額のすべてを受け取れるとは限りません。それを考えると、ケガをした側が何らかの動きにでる可能性は低いと考えたそうです。また仮に訴えられたとしたら、すぐに解決金12万円を払うつもりだったそうです。オーナー曰く、「それなら納得できる」そうです。

他の飲食店のおどろきの例

この記事を執筆するにあたり、他の飲食店オーナーにも話を聞いたところ、意外に似たケースがあることを知りました。例えば、雨の降った日に店内で転んで骨折したお客に50万円を支払った例や、ビルの階段を踏み外してケガをし賠償金を(ビルの大家負担)払った例などです。

また、気になる例もありました。その飲食店は自動ドアに手を触れることで開くドアなのですが、近づけば開くと思っていたお客が体当たりし、頭部から出血。そのときケガをした人が、「飲食店は保険に入ってるはずだから、そこから払えば痛くもかゆくもないだろ!」と言ったと言うのです。

その後、店内に設置されたカメラを確認したところ、不自然な動きとタイミングでドアに体当たりしているようにしか見えなかったらしく、当たり屋のような人がいることに驚きました。

決してお客を疑いの目で見ることがあってはなりませんが、いろいろな人がいることを理解した上で保険に入ることと、後日でも確認がしやすいようにPOSレジなどへの入力が重要です。

まとめ

今回はバーに届いた通知書の例を参照しながら、飲食店のトラブルについて考えました。

もちろん事故の内容や状況、賠償金によって対応すべき方法は変わってきます。ただ、弁護士からの封書が来たことに動揺し、支払わなくてもよいお金を払わない心構えは必要ではないでしょうか。備えあれば憂いなし、です。



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