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[事例でわかる] 飲食店ならではのアウトソーシングで効率経営を目指す。

どのビジネスにしても、厳しい経営環境が続いています。特に「人」を使ってサービスを提供する飲食店は、人件費の高騰が直撃。原材料の高騰もあり、これまでの常識が通じなくなっています。そんな中でも、オーナーは知恵を絞り、さまざまな工夫をしているのではないでしょうか。

「もう店内で実施できる方法はすべて試した」と言うならば、次の一手は店舗の外へ。それがアウトソーシングです。

今回は飲食店ならではのアウトソーシングを事例を交えながら紹介していきます。

アウトソーシングとは?

アウトソーシングとは、英語の“outsource”に由来する和製英語だそうで、「アウト(外部)」と「ソーシング(資源利用)」を組み合わせたものです。社内の業務を、社外のリソースを使って行い効率化を目指す手法はさまざまな企業で採用されています。

ただ、アウトソーシングと聞くと、事務系の業務を指すイメージを強く持ってる方も多いようで、「飲食店には関係ない」と言われることもあります。しかし、改めて考えてみれば、外部の資源利用をすることによりスタッフの負担を減らすのですから、飲食店でも願ったりかなったりのはず。

特に飲食店は人を多く使う業態です。人件費が高騰する中、少しでも負担を減らそうとロボットを導入するところも増えましたが、なかなかハードルが高いのも事実です。それなら、アウトソーシングを考えてみてもよいはずだと思っています


飲食店が行うアウトソーシングの例

では、他業種にはない飲食店らしいアウトソーシングの例をいくつか挙げていきます。

仕込みを外部委託した串焼き屋

包丁のない厨房として知られるサイゼリアは、すべての食材がカット済みで、小分けしたり、温めたりするだけで提供できるようになっています。それを実現しているのはセントラルキッチンですが、小規模のチェーンや単独店舗では設備の整った施設をつくることはできませんし、ノウハウもありません。

そこを補うものとして、半調理品を販売している食材メーカーもありますが、味に満足できなかったり、個性を出しにくくなったりという問題がでてきます。

同じような悩みを抱えていた串焼き屋は、オリジナリティが高い商品を仕込むのにかかる時間をなんとか短縮できないかと思っていました。その店舗の営業時間は17時から24時。正肉やねぎま、レバーなどの焼き鳥と、いろいろな野菜を薄くスライスした豚肉で包む串焼きが自慢の店舗でした。

串焼きは看板商品だったのですが、仕込みに時間がかかるのが難点。仕込みの量によっては、肉巻きと焼き鳥の仕込みだけで、2人の料理人が4時間を費やすこともありました。20年前にオープンした店は、この負担を厨房スタッフ(社員とベテランバイト)が勤務時間を長くすることで補ってきたのですが、現実的にサービス残業になっていて、時代にそぐわないと考えるようになりました。

かと言って、営業中に焼き台を経験の浅い人材に任せるわけにもいかず、仕込みにかかる時間を短縮できないかと考えたわけです。

この話を長年、肉の仕入れを任せてきた肉屋の店主に話したことが、串もののアウトソーシングのきっかけとなりました。実はこの肉屋は取引先が減っており、新しいことをしたいと考えていたタイミングで、双方の利害が一致したわけです。

実際には料理長が肉屋に出向き、肉巻きのつくり方を教えました。肉屋は肉の扱いはプロ。職人希望の新人に教えるより何倍も早く習得したそうです。発注単価は、焼き鳥は1本あたり20円。肉巻きは種類によって、30円から60円に設定したそうです

結果的に、残業は大幅に減少。大きなメリットを手にすることになりました。

掃除をアウトソーシングした居酒屋

飲食店では必ず発生する片付け。皿やグラス、調理器具を洗い、調理台を拭き上げて殺菌し、ホールやトイレも清掃しなければなりません。これは衛生面に直結することであり、手を抜くわけにはいきません。

この後片付けをアウトソースした店舗があります。このオーナーは元々、「後片付けに調理や接客のスキルはいらない」と片付け専門のスタッフを雇っていました。ラストオーダーの頃に出勤し、もくもくと清掃をして帰る。同じようなことをしている店舗もあるかと思います。

ところがこの店舗にピンチが訪れます。当初の営業時間は12時半まで。12時にラストオーダーとなり、その時間に清掃スタッフが現れ、厨房内から片付けはじめ、お客がいなくなったらフロアとトイレを掃除。4時頃に鍵を閉めて帰るようになっていました。

ところが、この店舗が入居していたビルのセキュリティシステムが一新され、夜中の1時以降は無人にしなければならなくなりました。1時に片付けを完了させるには、店舗を11時に閉めなければならず、売り上げの減少が心配されました。隣の飲食店は怒って閉店してしまったようでした。

そこでオーナーはあらゆる策を考え、片付けを便利屋にアウトソースすることを考えつきます。しかも、清掃を朝に変えたのです。ビルは朝は5時から入室可能だったため、これを活用することにしました。

店舗の営業は変更なく12時半まで。12時にラストオーダーを聞くと、可能な限り食器類を洗い、シンクに湯をはり、調理器具を付けます。生ごみは夜のうちに処理するものの、洗いきれないものは洗剤の入ったシンクに。タオルなどは一か所に集め、ネズミなどがこないようにバケツに入れます。最低限の片付けをして、時間内に店舗をでます。

そして朝5時になると便利屋が来て、3時間かけて片付けの続きをやります。シンクにつけられた調理器具に熱湯をかけて温度を上げ、洗いあげていきます。タオルを洗い、空いたスペースに干す。前日に洗いきれなかった食器を洗い、所定の場所にしまいます。もちろん、ホールもトイレも清掃します。

最初はゴキブリやネズミなどが発生するのではないかと心配したようですが、実際には生ゴミの処理を夜のうちに行うなどのルールを設けることで、この問題はクリア。それどころか、誰もいないところでマイペースに仕事をこなせるため効率がよくなり、以前より厨房もキレイになるという副産物もあったといいます。「時間があったから」と更衣室までキレイになっていたときは感動したと言います。

ちなみに、清掃のアルバイトに支払っていた時給は1000円。ところが深夜料金のため、1250円となっていて、1日あたり4時間で5000円でした。一方便利屋は、週6日契約で安くしてもらったこともあり、時間あたり2000円。3時間ですから1日あたり6000円となります。しかも、必ず誰かが来て清掃を行ってくれる確実性もあります。

事務仕事のサポートをアウトソース

次は、伝票整理など、手間がかかる部分をひとまとめにしてアウトソースした店舗の事例です。このオーナーは3店舗を経営していました。八百屋・肉屋・酒屋は月末締めの翌月払いとまとめて行っていましたが、近隣の店で購入するものもそれなりにあり、その都度払うこともあったようです。

また、飲食店は従業員が多く、勤怠管理をして確実に給与を支払ったり、残業管理も必要となります。これは各店の店長の業務となっていて、ギリギリの体制で営業するようになったため、大きな負担になっていました。

そこでオーナーは、経理は税理士事務所のサービスを使い、人件費管理は専門業者に依頼しようと考えました。ところが、どうしても割高感がぬぐえず、また漏れてしまう業務も多く、もっと柔軟なバックアップをお願いできないかと考えるようになりました。

そしてたどり着いたのが、何でも依頼できる事務処理能力の高い個人に依頼すること。どこかの企業にアウトソースするのではなく、個人に依頼する方法を選んだわけです。

もちろん経営判断はオーナーがしますし、税理士も雇っています。しかし、それ以前にやるべきこと、例えば週に一度全店舗を回って領収書を回収してデータ化したり、アルバイトの勤怠状況を管理するなどをしてもらっています。

いかがでしょうか。

アウトソーシングというと仰々しいイメージもありますが、もっと小さい規模で対応させることも可能なことがお分かりいただけたのではないでしょうか。

アウトソーシング先はどこを選ぶか?

自分たちの都合のよいアウトソーシング先はどうやって見つければよいのでしょうか?

ここで上げた事例をお読みいただければお分かりかと思いますが、自分たちが求める仕事を最初からしてくれるアウトソース先はありません。

肉屋に相談したことで仕込みを代行してくれたり、掃除に困って便利屋に依頼し、一緒にマニュアルを作成したりして、双方で協力しあって今のかたちができています。

「そんなに都合のよいところは見つからないよ」とあきらめるのではなく、できそうな所を探し出し、自分たちからアプローチしていくのが大切です。

アウトソーシングのときの注意

アウトソーシングは決して安いものではありませんが、トータルで見るとメリットが多いのが特徴です。とは言え、有効に使わなければ意味がありません。また、外注化することで料理のレベルが落ち、来客が減っては意味がありません。そうならないよう、次のことに注意してください。

やってほしいことを正しく伝える

最初に何をしてほしいのかを伝えるのはもちろん、なぜそれをしてほしいのかや、どんなゴールを望んでいるのかをできるだけ具体的に伝えます。多少やり方が違っても、正しいゴール、より良いゴールにたどり着ければよいわけで、その共通認識を双方で持つことが非常に重要です。

チェックは毎回。フィードバックは早く

納品されたものや掃除の状況など、必ずチェックすることも大切。最初に伝えたから正しくやってもらえているはずだという思い込みは大きなミスにつながります。

また、気付いた点はできるだけ早く伝えます。「○○ができていなかった」と伝えるだけでは不十分。「どこが、どう」できていなくて、本来はどうしてほしかったのかをしっかりと伝えてください。

違う場所で、あるいは違う時間帯に作業をしていると段々とズレが生じてきます、なぜなら、日常的なコミュニケーションがないからです。要望や改善点はできるだけ早く、こまめに伝え、より良くなるように努めてください。

プラスの効果がないと意味がない

アウトソーシングを活用するからには、それなりの効果が必要です。人件費カットに直接つながることもあれば、多少経費面でプラスになっても、アルバイト募集や教育が要らないなどに魅力を感じることもあるでしょう。

でも残念ながら、何らかの効果がでているはずと思い込み、ただ何となくアウトソースを続けてしまう経営者もいます。アウトソーシング自体が目的になってしまってしまうのは残念です。

何の目的で活用し、どんな効果がでているのか。また、当初の計画ではなかった面にも何らかの効果が出ていないかを見極め、継続していくかどうかを定期的に見直すようにしてください。

まとめ

今回は飲食店が行うアウトソーシングについてまとめました。

アウトソーシングを行う際、依頼先を決めるのは難しいことですが、意外に身近なところにいたというのもよく聞く話です。何よりも大切なのは信頼できる相手であること。そして伝えるべきことを伝え、それに応えてくれること。一度周りを渡すことが正攻法かもしれません。