「飲食店で大切なことは?」と問うと、「商品力だ」、「接客力だ」、「マーケティング力だ」など、いろいろな答えがでてきます。また、それぞれを強化するために、日々、努力を重ねているでしょう。
しかし、ひとつのことを強化すると、別のことが片手落ちになるなど、全体を見通すとうまくいかないこともあります。
飲食店において店舗力は、いわば総合力であり、店舗が顧客に提供するすべての要素をバランスよく備えていることが重要です。つまり店舗力は、飲食店が成功するために必要なさまざまな要素を包括しているのです。
そこで今回は、飲食店を俯瞰してみる店舗力という観点から店舗経営を見て行きます。
店舗力は足し算である
店舗経営をする中で重要視しなければならないことは、実にたくさんあります。以下にそれらを挙げていますが、読み進めるうちに、「こんなにあったら無理だ」と感じる人も出てくるかもしれません。
しかし、必ずしもすべてで満点を目指さなければならないわけではありません。なぜなら、店舗力は足し算だからです。
例えば、人員を確保する。しかも、高スキルな人を揃えれば店舗運営はある意味、楽になるかもしれません。しかし実際には、人材確保が難しい今、高スキルな人を雇うのは簡単ではありません。実際、いくつかの妥協をして人材確保をしているところが多いでしょう。
だから、店舗力の高い店が作れないかというと、必ずしもそうではありません。ここが店舗を総合力で測る面白い部分です。
人材面ではたとえ加点が少ないとしても、その分、マーケティング力が優れているとか、提供する料理がめちゃくちゃおいしいというのであれば加点は大きくなり、総合力は高くなります。
逆に、コストをかけてハイスペックな人を集めても、結果的に利益が確保できなければコスト管理がマイナスとなり、結果的に総合力は高くなりません。これが店舗力の面白いところです。
まずはこの点を理解していただき、次のポイントを読みすすめてください。その上で、重要視するところと、(言い方は悪いですが)後回しにするところを選んでいただければと思います。
ただし、マイナスになることは避けなければなりません。どんなに美味しい商品を提供していても、スタッフのサービスレベルが最低で、お客がイライラするようでは話になりません。加点は少なくても プラスになるという状況を作ることが重要。この点も忘れてはならないところです。
店舗力につながる要素
ここから、飲食店経営で重要なことを列挙します。決して重要な順ではないので、ご了承ください。
商品品質の維持
飲食店は食べ物を売るのがメインのサービスですから、提供している食べ物がまずいのでは話になりません。常に品質にこだわり、改善点を見つけて対策することが大切です。
また、日本では、盛り付けにも気を遣わなければなりません。最近では「映える」という要素が重要視されていますが、日本ではずっと以前から盛り付けは重要な要素です。
もちろん、「盛り付けよりも味だ!」と言う店舗もあってもよいでしょう。しかし、一般的には、盛り付けがよければ、提供した瞬間にテンションが上がり、味わいも上がります。
さらに、においにも配慮しなければなりません。どんなにおいしいラーメンを提供していても、豚骨の出汁を取るときになんとも言えない脂くささを周囲に撒き散らすのでは話になりません。営業中だけでなく、準備段階から気を遣うようにしてください。
サービス品質の維持
基本的に飲食店では、人を介してすべてのサービスが提供されます。最近は、タッチパネルで注文し、ロボットが配膳。お会計もセルフレジという飲食店も出てましたが、だからといってスタッフが全くいない店舗はありません。人数が多かれ少なかれ、店舗のサービスや雰囲気のほとんどはスタッフが作っているのです。
ちょっとした笑顔や、さりげない気配りがお店の雰囲気を決め、それがリピーターを獲得し、新規顧客を引き付けることにつながります。
接客サービスとは、顧客とのコミュニケーションだと言われます。この点を強化し、顧客からのフィードバックを積極的に取り入れることも重要。また、コミュニケーションの手段はリアルな接客はもちろんのこと、SNSを通じての方法もあります。
もちろんここで言うサービスは、全員が画一的な笑顔で、正しい敬語を使わなければならないと言うわけではありません。誰にでも気軽に話すホールスタッフの愛想のよさや、口数は少なくても、さりげない配慮をしてくれる店長の頑固さなども立派なサービス。お客が心地よく過ごせる接客サービスを目指すことが最大の目標です。
人材管理
どんなに素晴らしい接客をしようとしても、そもそも人員が足りないのでは話になりません。また頭数だけがそろっていても意味はありません。
飲食店経営で重要なのは、人材の確保。ついで トレーニングによってそれぞれのスキルを上げ、モチベーションを維持しながら生産性を高めること。さらに、スタッフの定着率を向上させることが重要です。
ちなみに、アルバイトのトレーニングは店舗のためにやっていると考える人もいますが、 この考えは危険です。アルバイトは働く意欲があるから面接を受けに来たわけです。アルバイトの側も効率的なトレーニングを受けることで、指示待ちの状態を回避できるようになれば、働きやすくなります。誰かの指示を受けなければ何もできない状況は不安なもの。トレーニングは双方にとってよいことなのです。
そして、周りの人に認められれば、さらにやる気につながります。この点は充分に理解しておくべきです。
衛生管理
衛生管理は、食中毒などのリスクを軽減し、顧客の安心、安全を確保するために絶対に必要なことです。スタッフに正しい知識を植え付け、実践させるためにどうするかという点が重要となります。
近年では、「アルバイトとして働いてみたら、非常に不衛生だった」とSNSで告発されるケースもあります。また、一連の回転寿司の事件を見ても、衛生管理は性善説にのっとってやっていくのが難しい時代になっています。「まさか、そんなことをする人がいるわけがない」は通用せず、万が一に備えて、できる限りのことをするという姿勢が大切です。
特にこれからはインバウンドが増えてきます。日本人は世界的にもきれい好きだと言われていて、その感覚のままでは思わぬことが起こります。衛生管理には、スタッフはもちろんのこと、お客も含めて安心、安全な環境で食事ができるよう、常に最善を尽くす必要があります。
コスト管理
経営面から見れば、コスト管理は何よりも重要でしょう。
飲食店では、原価と労働力コストの管理がキモとなります。
原価に関しては、ほとんどの食材が値上がりしています。その背景にはウクライナ情勢により運送料が上がったことや小麦の不足、円安などさまざまな要因が絡んでいます。これは時期がくれば多少は改善されるのかもしれません。
その一方で、世界的な食料不足が懸念されていて、食材によっては日本が買い負けする日が来ると言われています。今後は今以上に原価のコントロールがむずかしくなるかもしれません。
同じように、労働力コストも管理が難しくなります。最低時給は年々上がり、これからも下がることはありません。ギリギリの経営を余儀なくされると、社員の給料とアルバイトの時給を比較しても変わりがなく、社員離れが起こり、リーダーのいない店舗となります。どうやってコストを抑えつつ人材を確保すればよいかは、最大の問題になりそうです。
こうなると、人手不足を回避するために配膳ロボットを導入したり、タブレットを使った注文で手間を省くことも有効になります。モバイルオーダーを導入し、英語でも表示するようにしておけば、海外客への対応も安心です。ビジネスチャンスの拡大につながります。
また、社員の負担を減らしつつ、正しい現状把握をするのにPOSレジは欠かせません。最近では、単独店舗でもPOSレジを導入することが一般的となっているので、人件費削減の目的からも考えてみるとよいでしょう。
競合環境の把握
競合環境とは、同一商圏の飲食店の状況や社会全体のニーズの把握など多岐に及びます。一時期は大ブームとなったタピオカミルクティーの専門店を今から出店しても、苦戦することが予想されます。どんなに美味しいものを提供しても、行列ができる店を作るのは難しいでしょう。これは、ブームという後押しがないからです。
近隣の飲食店の例も挙げてみましょう。例えば、少し高めの価格で高品質な焼き鳥を食べさせる店を経営していたとします。すると店舗のごく近くに、格安で焼き鳥を食べさせるチェーン店が進出してきました。この場合、どのような手段をとるべきでしょうか。
多少クオリティが落ちても同じような価格にしなければ太刀打ちできないと考える人もいるでしょう。逆に棲み分けをするため、価格帯を上げようと考える人もいるかもしれません。中には、完全に無視する人もいます。
どれが正解とは一概に言えませんが、個人店がチェーン店に対抗しようと価格を落としても限界があり、あっという間に経営が立ち行かなくなります。同商品だからといって同じ土俵で戦わないことが生き残る策かもしれません。しかし、この決断をするのはなかなか難しいものです。
ただ一つ言えることは、間違った判断をしないためには、日ごろから競合環境を観察することです。そのために、視野を広く持つようにしてください。
店舗づくり
店内の雰囲気を 決めるのは、スタッフの振る舞いだけではありません。顧客に居心地の良い空間を提供することも大切です。店舗というハードだけでなく、店内装飾などにも及ぶでしょう。またトイレに置いてあるアメニティや食器なども重要です。
また、店内の雰囲気を決める店づくりという面では、必ずしもコストをかければよいわけではありません。コストをかけなくても商品に見合った店づくりはできるはず。
また、客単価の低い店舗が店づくりにお金をかければ、安い価格での商品提供ができなくなり、顧客のニーズに応えられなくなくなります。こうなると店の魅力は半減。 ときにはゼロになってしまうかもしれません。そうならないために、どうすればいいかを考えてください。
マーケティング戦略
一人でも多くのお客に来店いただくためには、適切なマーケティング戦略が欠かせません。店舗にあった顧客を増やし、客単価を上げ売上を向上させれば利益も上がります。また、どんなに売り上げが上がっても、マーケティングに多大なコストがかかれば費用対効果が悪く、かえって経営環境は悪化する可能性もあります。
マーケティング戦略は非常に多くの手法があり、新しいものも出てきます。しかも、どれが効果的なのかはわかりません。非常に難しい部分ではありますが、時には外部のアドバイスを聞き入れながら、最適だと思われるものを採用してください。
具体的には、会員制度やポイントカードなどを活用することが有効な店舗もあれば、SNSでどんどんと情報発信することが有効な店舗もあるでしょう。また、値引きをするのが有効なところもあれば、何回か通うと特別なサービスが受けられるという方が有効なこともあります。最近流行っているサブスクを導入して効果を上げているところもあります。
ちなみに、飲食店をしていると様々なマーケティング戦略のお誘いがあります。話を聞くともっともらしく、非常に魅力的に感じます。ですが、それは相対的なものであり、その店舗に合っているかと言われるとなかなかそうはいえないものも多くあります。魅力的だなと思っても、「自店にとって本当に効果が高いか?」と考えるようにしてください。
まとめ
以上、飲食店の店舗力についての考察でした。ここで書いた以外にポイントはあるかもしれません。強い飲食店の店舗力の要素はさまざまです。
非常に多く、多岐にわたっているので難しいと思いますが、すべてをいきなり満点にする必要はありません。店舗力は足し算です。できるところからはじめてください。それが強い飲食店への第一歩となります。