米国農務省(USDA)の発表によると、アメリカで流通する農作物の40%が毎年廃棄され、ゴミになっているという。その量は1330億ポンド(約5937万トン)で、金額にして1610億ドル(約17兆7100億円)に達するそうだ。また、農作物以外の食品(加工食品なども含む)も含めた食品ロスの総額は、年間3000億ドル(約33兆円)にも達するという。そうした食品ロス問題に対し、アメリカ国民の厳しい目が向けられ始めているが、食品ロス問題をチャンスととらえ、ビジネスにしようというスタートアップ企業が登場してきた。フードメイブンというスタートアップ企業だ。
フードメイブンというスタートアップ企業
フードメイブン(Foodmaven)は、パトリック・ブルテマ氏が2015年に立ち上げた会社だ。フードメイブンのミッションはシンプルだ。農作物などの食材の生産者やサプライヤーと飲食店をつなぎ、食品ロスにより毎年失われている巨額の損失をリカバーすることだ。
ブルテマ氏は、TEDで行った講演で次のように語っている。現在のアメリカの食品流通システムは20世紀後半に開発された生産地と大都市消費圏をつなぐ物流ネットワークに依存していて、構造的に食品ロスを発生させているという。ブルテマ氏によると、コロラド州で生産されたメロンは、カリフォルニア州の物流センターにまとめて出荷され、スーパーマーケットなどへ送られる。在庫切れを嫌う小売店は大量に仕入れるので、40%程度は売れ残る。売れ残ったメロンは廃棄されるか、生産地のコロラド州へ送り返される。往復の物流コストをかけて結局は廃棄してしまうという、壮大な無駄遣いをしているのだそうだ。
【動画|農作物の40%が捨てられるアメリカの解決策|パトリック・ブルテマ|TED】
「訳あり食材」を格安価格で飲食店に提供
そうした問題を解決するため、フードメイブンは生産者から食材を直接仕入れ、ホテルやレストラン、病院、企業などに販売している。フードメイブンが仕入れる食材の多くは「訳あり品」か「過剰生産された食材」だ。そのほとんどが、フードメイブンが拠点を置くコロラド州の地元生産者が生産したものだ。
訳あり品や過剰生産された食材を抱えている生産者がフードメイブンにコンタクトすると、フードメイブンのピックアップチームが現地で食材をピックアップする。食材はただちにフードメイブンの冷蔵倉庫へ納入され、同時にネットのフードメイブンのマーケットプレースに登録される。レストランなどのバイヤーが購入するとフードメイブンの配達チームが配達する。売上は月ごとに精算され、翌月に手数料などが控除された分が生産者へ支払われる。食材が売れ残ると、地元のフードバンクやホームレス支援団体などへ寄付される。フードメイブンによると、仕入れた食材の20%程度が最終的に寄付されているそうだ。
生産者はアップフロントフィーを1セントも支払うことなく訳あり品や過剰生産された食材を売却できる。一方で、ホテルやレストランは通常よりも安いコストで食材を入手できる。フードメイブンによると、フードメイブンから食材を仕入れることで、ホテルやレストランは仕入れコストを最大で50%も削減できるという。
賞味期限切れ食材も仕入れ
フードメイブンは、農産物の生産者から訳あり品や過剰生産された食材を仕入れるのに加え、一般の小売店から賞味期限切れ食材も仕入れている。フードメイブンによると、アメリカで流通する加工食品のラベルに記載されている賞味期限には標準がなく、食品メーカーは独自の判断で賞味期限を決めている。通常は余裕を持たせた賞味期限が決められているため、多くの加工食品は「賞味期限」が切れた後でも十分に消費可能で、食品として有効なのだそうだ。
「訳あり品」「過剰生産された食材」に加え、「賞味期限切れ食材」も仕入れ元としているわけだが、地元のスーパーマーケットなどから多くの賞味期限切れ食材がフードメイブンに持ち込まれている。これまでは賞味期限が切れた食材はそのまま廃棄されていたが、フードメイブンが介入することでそれを回避することができる。のみならずマーケットプレースで売れた場合は売上にもなる。小売店にとってもフードメイブンの存在は有難いというわけだ。
1530万ドルの資金を調達、サービス範囲を拡大
そんなフードメイブンだが、投資家達の高い関心も集めている。フードメイブンは先日シリーズBのファイナンスを実施し、1530万ドル(約16億8300万円)の資金を調達した。これにより、同社が集めた資金の総額は3440万ドル(約37億8400万円)となった。設立から5年のスタートアップ企業、しかもフードテック系スタートアップ企業が集めた額としては異例の高額と言えるだろう。
フードメイブンは、集めた資金を新たな拠点づくりに使う予定で、早速テキサス州ダラス地区が候補地に挙がっている。フードメイブンのビジネスモデルはローカルビジネスモデルなので、各地に拠点を作ってゆく必要がある。多分今年の終わり位までには、さらに多くの拠点が立ち上がっていることだろう。
食品ロス対策が2020年以降のトレンドに
そんなフードメイブンだが、当然ながらライバルが存在する。スタートアップ企業のミスフィッツ・マーケットやハングリー・ハーベストも、見てくれに問題がある「訳あり品」を生産者から直接仕入れ、消費者へ販売している。別のスタートアップ企業のフル・ハーベストも「訳あり品」を生産者から仕入れ、飲料メーカーや食品メーカーなどに販売している。食品ロス対策業界は、さながら黎明期における混戦模様を呈し始めたようだが、競争が業界の成長を促しさらなる競争を呼び込むという、業界成長の善循環が発生したのはほぼ間違いないだろう。
いずれにせよ、これまではゴミとして捨てられていた食材を生きた商品に変え、生産者、飲食店、そしてフードメイブンのすべてにメリットをもたらすビジネスモデルを生み出したことは高く評価すべきだろう。日本でも食品ロス対策の必要性を訴える声がかまびすしくなってきたが、いずれフードメイブンと同じようなビジネスを展開する企業が出てくるだろう。さらにはアメリカや日本だけでなく、食品ロスの問題を抱えるすべての国で似たような会社が出てくるだろう。食品ロス対策が今年以降のトレンドとなりそうな予感がする。
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参考URL
https://www.usda.gov/foodwaste/faqs
https://foodmaven.com/
https://thespoon.tech/foodmaven-harvests-15-3m-series-b-to-sell-imperfect-food-to-restaurants/