東京都と神奈川県の最低賃金が1000円を超えました。人件費率の高い飲食店にとって、ますます経営の舵取りが難しい時代に突入したと言えるでしょう。これからは単にお客に支持されるだけでなく、人を効率的に使えるかどうかが生命線になりそうです。
そこで今回は、高騰する人件費を効率よく使う方法を考えます。

 

地域別最低賃金(最低時給)は10年で1.25倍に!

まずは、地域別最低賃金(最低時給)を確認していきましょう。
これは厚生労働省が毎年10月に発表するもので、都道府県別に設定されています。適用は全従業員。もちろん高校生でも、日本語が話せない外国人でも条件は同じです。

最も高いのは東京の1013円。続いて神奈川県が1011円となっています。逆に、最も低いのは790円。東北や中国地方、四国、九州の一部と沖縄が該当します。詳細についてはこちらのページをご覧ください。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/minimumichiran/

10年前となる平成21年、最も高かった東京の最低時給は791円でした。この時の全国最低時給は629円。驚いたことに、10年で約1.25~1.28倍になったわけです。人件費高騰が、いかに深刻な問題であるかがお分かりいただけるでしょう。

10年前、人件費が20%で収まっていた店舗の場合(その他の経営環境が同じであったと仮定すれば)、現在の人件費率は25%。当時が30%なら40%に迫るコストになっているのですから、同じことをやっていたのでは店舗が成り立たなくなって当然です。



原価率からFLコストへ。食材費だけで経営をコントロールするのは限界

一昔前、飲食店の最大のテーマは原価率のコントロールでした。しかし、人件費が高騰し始めて以来、原価率を下げるだけでは不十分という認識が根付き、「FL コストをコントロールしよう」と言われるようになりました。

「F」とはFOODの頭文字で食材費のこと。「L」とはLABORを差し、人件費のことです。この2つのバランスを取りながらムダのない経営を目指そうと言うのですから、いかに人件費負担が大きくなったのかが分かります。

では、飲食店の一般的な数字として、FLコストはどれくらいが目安なのでしょうか。人件費についてはさまざまな数字が出ているのですが、合わせて50%以内というのが目標値とされています。もちろん業態によって差はありますが、原価率が30%なら人件費は20%となっています。

しかし、東京や神奈川では人件費を20%以内に収めるのは至難の業。30%を超える業態もあります。原価率の削減にも限界がある中、いかに効率よく人件費を使うかは大きなテーマとなっているのです。

 

人件費に関わる二つの指標。人時売上高と労働分配率

人件費に関わる指標で、重要なものを2つ紹介しましょう。
なぜこれらの数値が必要かと言えば、人件費だけで判断をしていると闇雲に人を削ることになるからです。オペレーションがうまく回らず、結果的に売り上げを落とし、さらに人件費を落とす負の連鎖がはじまります。そうならないために、以下の数値を参照しながら、少しだけロジックに人的コストを考えるようにしましょう。

■人時売上高

人時売上高とは、スタッフ一人あたりが1時間でいくら売るか(売ったか)という数字です。
「売上高÷従業員の労働時間」で計算することができます。
基準値は4,000〜5,000円程度と言われ、1日あたりの目標売上が10万円であれば、従業員の労働時間は20時間でシフトを組む必要があります。

■労働分配率

労働分配率とは粗利高に占める人件費の割合のこと。飲食店で言う粗利とは、売り上げから原価を引いたものを指します。
「人件費÷粗利高×100」で計算することができ、基準値は40%以下と言われています。
例えば、月間売上が250万円で、食材原価率が30%(75万円)の場合、粗利高は250万円-75万円=175万円となります。人件費が70万円であれば、70万円÷175万円×100=40%となり、適正と判断されるわけです。

もちろん、ここで言う基準値は、一般的な飲食店において目標値とされるもので、必ずしもこの数値をクリアしなければならないわけではありません。どの値が適正値になるのかは、店舗によって違うもの。経営的な観点からと、実際のお店のオペレーション状況、さらに顧客の満足度という3つの観点から判断する必要があります。

人件費の最適化という難しいテーマに取り組むには、現状や目標数値を冷静に表してくれる数値は重要なもの。ぜひ、自店の現状と目標数値を導き出し、その差を埋めるようにしてください。

 

人件費を効率よく使うために取り組むべき10のコツ

さて、ここからが本題です。
人件費を効率的に使うための具体的な方法を見ていきましょう。ここでは10個のポイントにまとめてみました。

1.すべてのアルバイトに、多くの作業を教える前提をなくす

アルバイトを教育するのは時間がかかります。トレーニングをする側も、される側にも負担がかかるものであり、適性も重要になってきます。
「すべての従業員に、できるだけ多くの作業を教えることが素晴らしい」と考える経営者もいますが、それは皆がリーダーを目指している前提があるから。現実には、アルバイトは楽しければいいと思っている人も多くいます。それであれば、アルバイトは基本的にはひとつのポジションをできればよく、やる気がある人だけに多くのことをやってもらうという方が効率的です。

2.メニューの提供方法を変更する

CafeX カップメニューの出し方を変更すれば作業効率はよくなります。例えば、ドリンクバーを作ったり、2皿、3皿と複数で注文された商品は、ひとつにまとめて盛り付けたりするのです。ドリンクバーの設備は、ファミリーレストランのような立派なコーヒーマシンを用意する必要はなく、店舗の一角にドリンクの入ったポット類をおくことで代用できます。

また、パーティーなどでは大皿料理をメインにしたり、ビッフェ式を提案したりすればスタッフの人数は少なくすることができます。

3.オープン前やクローズ後の作業は最小に。営業時間内にすべて終わらせる

オープン前の準備やクローズ後の片付けなど、お客に直接関わらない作業全般を見直し、可能なものは営業時間内に終わらせるようにします。例えば、トイレやファサードの清掃などは営業時間内でもできること。厨房の清掃もオーダーストップの時間を少し早めれば、クローズとともに清掃作業を終わらせることが可能です。

目標は、すべての作業を営業時間に終えてしまうこと。中には、営業終了後に行なっていた精算作業を、昼ピークが終わった後に実施する店舗もあります。夜はキャッシュドロアーごと金庫にしまうのみです。オープン準備も、什器の立ち上げ作業は必要ですが、それ以外の作業は出来る限り省くようにし、ムダな人件費を使わないようにしましょう。

4.シフト制なら細かい時間調整を徹底する

シフト制の店舗の場合、アルバイトに時間変更を依頼するのは申し訳ないと考える人もいますが、アルバイト側は少しぐらいの変更なら柔軟に対応できるもの。例えば学生であれば、授業がある時間にシフトインするのは難しくとも、後ろにずらすことは問題がないことも多くあります。少しずつ時間を調整し、人余りの時間を作らないようにしましょう。

また、シフト希望を提出してもらう段階で、「午前10時から午後6時の間で5時間」というように自由度を持たせて提出させたり、自宅が近い人であれば、午前中に2時間、午後に3時間というように2回に分けてのシフトインをお願いしたりするのも有効です。最近では大型チェーンでも行っていますので、参考にするとよいでしょう。

5.メンテナンスが簡単な什器に変更する

食中毒発生の5つの落とし穴と予防に欠かせない基本的な対策飲食店では什器類の入れ替えに消極的な店舗が多くあります。その理由は、ムダな費用を使いたくないから。しかし、効率よく洗えるドリンクディスペンサーやフライヤーは多少高額でも、人件費の削減効果は大きいメリットがあります。

例えば、什器を入れ替えることで1日30分のメンテナンス時間が削除できるのなら、時給1000円とすれば1日で500円、1年で182500円の人件費を減らすことが可能です。作業効率を上げるための什器の入れ替えは、人件費の削減と比較することが重要となります。

6.動線を確保し、ピーク時のスタッフ数を減らす

ピーク時はスタッフ人数が必要となる時間帯です。それは有効なことなのですが、アルバイトはピークとなる1時間、あるいは2時間だけ働くことは稀で、ピーク前後を含む5時間程度の勤務を希望することもあるでしょう。こうなると、ピーク時以外の人件費はムダになることがあります。

それであれば、ピーク時の必要人数を減らすことで、その前後のムダな人件費ごと削るという発想も必要になりなります。そのためには大胆な動線変更が必要かもしれません。厨房からフロアの出入り口を2箇所にするとか、スタッフが滞留しがちなゾーンを解消するなど、見直すべき箇所はたくさんあります。

7.毎日やらなくてもよい清掃は業者に任せる

飲食店にとって清潔な店作りは重要ですが、その中には外注化できるものがあります。特に、窓拭き、グリストラップやフードの清掃など、毎日やる必要がないものは、定期的に外注した方がきれいになることもあるのです。

もちろん、その場でやらなければ清潔感のある店舗にならないものもあります。一度、クレンリネス全体のリストを作り、外注化できる部分がないか検討してみてください。

ちなみに、毎日のメンテナンスを外注している飲食店もあります。一見すると高額なコストがかかりますが、現実的には社員が残業してメンテナンスをすることが多いため、効率的になるそうです。

8.セルフオーダーシステムを導入する

最近はさまざまなセルフオーダーシステムが開発されています。ホールで接客をする人員を減らすには、これらのシステムを導入するのが有効です。各テーブルにタブレット端末を置き、それを使って注文してもらうのです。

タブレットの使用は一般的になり、自分でも持っているという人が増えていることから、今では多くの人が使えます。もちろん、中には戸惑う人もいるでしょうが、そういう人には積極的に声をかければよいだけ。「システムを使うから接客サービスが低下している」という判断はされにくくなっています。

また、お客との会話の機会が減ってしまうことを危惧する人もいますが、忙しい時におざなりな対応をする方が問題です。オーダーを取る作業を軽減する代わりに、サーブする時に丁寧な対応を心がければよいのです。実際、システム化することで、「お客とのコミュニケーションの機会が増えた」と感じている店舗も出てきています。

9.キャッシュレス会計がもたらすメリット

電子決済キャッシュレス会計を導入すれば、単に会計の時間が減るだけでなく、現金管理や釣り銭を用意するという時間を減らすことができます。また、セルフオーダーシステムを入れるのであれば、QRコード決済を各テーブルで行えるようにしたり、ネットを使って予約をする際に支払いを済ませたりすることができれば、お会計の手間は省けます。もちろん、店舗のメイン端末で会計状況を表示するようにしておけば、お会計が終わっているのか、まだなのかが一目瞭然に分かります。

10.フリーターを契約社員にし、店長や社員の負担を軽減する

人件費を考える際には、アルバイトだけでなく、社員や店長の残業管理も必要となります。給料が高い分、残業代も高くなるからです。そのための有効な手段として、フリーターを契約社員にするという方法があります。

契約社員の正式なルールはなく、多くの人は時給で働いています。また、週に40時間という働き方ではなく、週休3日や1日6時間など、柔軟に決めることができます。ボーナスは金一封程度であり、社会保険の負担などがありますが、アルバイトよりは確実な働き手となり時間帯責任者になってくれることは、店舗にとってメリットの方が多いはず。彼らがいることで店長や社員が休め、残業時間が減るのなら、その方がよいのです。



あわせて考えるベきリクルート費の削減方法

人件費を考える際に見落としがちなのがリクルート費です。募集サイトに掲載するのに1ヶ月10万円かかっているのでは本末転倒。時給1000円だとすれば、100時間に相当します。店頭に掲示をするなどの工夫はもちろん、アルバイトから紹介を受けた場合、紹介者にインセンティブとして金一封を渡すという方法もあります。

もちろん紹介されたらすぐに払うのではなく、100時間勤務してからなどというルールを設けるのは当然のこと。これにより、リクルート費用が大幅に削減でき、さらに雰囲気がよくなったという例が多くあります。

 

まとめ

これからもますます上昇する人件費。いかに効率化を図るかが、経営を左右することになります。しっかりと利益を確保するためには、FLコストのバランスを見ていくことが非常に重要です。

都心では原価率と人件費率が変わらないという店舗も出てきています。このままいけば人件費の方が高いという店が出てくるのも時間の問題。飲食店を経営する限りは人件費の問題は常につきもの。今のうちから徹底して効率化を図るようにしましょう。

 

 


ライタープロフィール
原田 園子
兵庫県出身。  株式会社モスフードサービス、「月刊起業塾」「わたしのきれい」編集長を経てフリーライター、WEBディレクターとして活動中。