アメリカで代替肉市場が急拡大している。前に書いた別の記事で植物由来の代替肉を製造しているインポシブル・フーズを紹介したが、ビヨンドミートも植物由来の代替肉を製造しているスタートアップ企業だ。ビヨンドミートは、いわばインポシブル・フーズのライバル企業だが、ビヨンドミートとインポシブル・フーズが二強となって市場拡大を牽引している。

 

ビヨンド・ミートという会社

ビヨンド・ミート公式サイト

ビヨンド・ミート(Beyond meat)は、2009年にヴィーガンの起業家イーサン・ブラウンが設立した企業だ。設立直後から大手ベンチャーキャピタルからの投資を受け、これまでに従業員400名を擁するまでに成長している。同社は設立当初より代替肉の製造を事業目的に掲げ、2013年4月に同社初の製品である「チキン・フリー・チキン」(鶏肉ゼロの鶏肉)を市場にリリース、翌2014年には牛肉の代替肉を続けてリリースしている。同社の製品は、Amazonが買収した高級スーパーマーケットチェーンのホールフーズで販売され、アメリカの消費者の間で認知がじわじわと広まっていった。

 

2019年5月にIPO、時価総額82億ドル、株価は8倍超に

そんなビヨンド・ミートだが、業界的に大きな話題となったのが、同社が今年5月に行った米NASDAQへのIPOだろう。鳴り物入りでIPOを果たした同社の株価は19ドルから上場直後に46ドルの高値を付け、取引初日を65.75ドルで終えた。IPOのパフォーマンスとしては、ここ20年で最高のものとなった。同社の株価はその後も上昇を続け、IPOから3か月後には859%、つまり8倍超に値上がっている。

なお、ビヨンド・ミートへは大手ベンチャーキャピタルに加え、ビル・ゲイツ氏も多額の資金を投資している。ビヨンド・ミートのIPOによって、ビル・ゲイツ氏は相当のキャピタルゲインを得たことになる。なお、ビル・ゲイツ氏は、ビヨンド・ミートのライバル、インポシブル・フーズにも多額の資金を投資している。

↓インポシブル・フーズに関する記事↓

完全植物ハンバーガーを製造するインポシブル・フーズとは?

 

ビヨンド・ミートはなぜ代替肉を製造するのか?

ところで、ビヨンド・ミートはなぜ代替肉を製造するのだろうか。前に、ビヨンド・ミートのライバルのインポシブル・フーズが「畜産を地球上の重大な環境問題とする」が故に代替肉を製造することを紹介したが、ビヨンド・ミートが代替肉を製造する理由もほぼ同様である。

自らもヴィーガンであるビヨンド・ミートの創業者イーサン・ブラウンは、ビヨンド・ミートはプラント・ベースド・ミート(植物由来代替肉)を製造することで、人類の健康、気象変動、資源の浪費、動物の生存権確保の、四つの問題解決に貢献できるとしている。特に、人類の健康確保に貢献できるとしている点は注目すべきで、最近アメリカで一般的になりつつあるプラント・ベースド・ダイエット(植物をベースにした食生活)というコンセプトと合致している。

最近のアメリカでは、このプラント・ベースド・ダイエットのコンセプトが急速に広がりつつある。ニールセンの調査によると、代替肉を購入しているアメリカ人の98%が、牛肉や豚肉などの普通の肉も購入しているという。また、代替肉を購入している消費者の37%がフレキシタリアン(Flexitarian)と呼ばれる人たちで、その割合は増加する傾向にあるという(フレキシタリアンとは、普通の肉を食べるが、できるだけ野菜を中心にした食生活を目指している人たちのこと)。

要するに、普通のアメリカ人が牛肉や豚肉、あるいは鶏肉などの消費を控え、代替肉へ切り替えているのだ。アメリカで広がるプラント・ベースド・ダイエットのトレンドが、ビヨンド・ミートの好調な業績を支えているといっても過言ではないだろう。

マクドナルドも採用、日本へも

実際に、ビヨンド・ミートの代替肉は大手外食チェーンでの採用が相次いでいる。ビヨンド・ミートの代替肉は、これまでにマクドナルド、ケンタッキー・フライド・チキン、カールスジュニア、タコベル、A&W、ダンキンドーナッツなどのファーストフードチェーンに加え、TGIフライデーズ、ヴェジーグリルなどの普通のレストランチェーンでも採用され始めている。外食チェーン以外でも、ホールフーズ、セーフウェイ、ジャイアント、スプラウツなどのスーパーマーケットでの販売も広がっている。ビヨンド・ミートの代替肉は、今やアメリカの新たな食文化のひとつとなりつつあるのだ。

そんなビヨンド・ミートの代替肉だが、日本市場への進出予定はどうなっているのだろうか。ビヨンド・ミートへ出資している三井物産は、年内のビヨンド・ミート製品の日本市場での販売開始を予定していたが、計画を一時中断したとしている。中断の理由は明らかにされていないが、現時点で再開の予定は発表されていない。代替肉に多大の関心を持つ筆者としては残念に思うしかないが、早期の再開を願ってやまない。

一方で、アメリカのプラント・ベースド・ダイエットのトレンドは今後も拡大を続けるだろう。そして、そのコンセプトは、海を越えて日本にもやってくるのは間違いない。日本にやってくるであろうプラント・ベースド・ダイエットのコンセプトは、日本ではアメリカとは違った形で成長すると、筆者は密かに思っている。

 


参考URL
https://www.beyondmeat.com/
https://www.forbes.com/sites/oliviergarret/2019/10/10/the-most-successful-ipos-have-this-one-thing-in-common/#46b2bbb52b21
https://www.grocerydive.com/news/report-98-of-alternative-meat-buyers-also-buy-meat/559678/


ライタープロフィール:
前田健二
東京都出身。2001年より経営コンサルタントの活動を開始し、新規事業立上げ、ネットマーケティングのコンサルティングを行っている。アメリカのIT、3Dプリンター、ロボット、ドローン、医療、飲食などのベンチャー・ニュービジネス事情に詳しく、現地の人脈・ネットワークから情報を収集している。