2018年1月に鳴り物入りでオープンしたAmazonのキャッシャーレスコンビニのAmazon Goが、その数を着々と増やしている。
出店が続くAmazon Go
2019年3月現在、Amazonのお膝元のシアトルで4店舗がオープンしたほか、シカゴに4店舗、サンフランシスコにもうすぐ3店舗目がオープンする。ブルームバーグが報じたところによると、Amazonは2021年までにAmazon Goを最大3,000店舗まで増やす計画だそうだ(追記 2020年8月28日現在:26店舗 [一時的閉店を含む])。Amazon Goの平均売上は一店舗あたり150万ドル(約1億6,500万円)なので、仮に計画通り店舗数が増えれば、Amazonには新たに45億ドル(約4,950億円)の売上が加わることになる。
なお、Amazon Goは店舗面積あたりの売上が高いことでも知られ、同規模の一般的なコンビニエンスストアよりも50%も売り上げが多いそうだ。店内にキャッシャーがなく、レジに並ぶ必要もないため利用者がスピーディーな買い物ができ、結果的に店の回転効率が高くなっているのだろう。単に新しいもの好きな人たちが押し寄せているだけというわけではない。
【Amazon Goキャッチコピー】
NO LINES. NO CHECKOUT.
(並ばない、レジ会計なし)
改めてAmazon Goの仕組みについて
さて、ここで改めてAmazon Goの仕組みについておさらいをしておこう。ところで、多くの日本人がAmazon Goを「無人コンビニ」であると勘違いしていることを先に指摘しておきたい。Amazon Goは無人どころか、店内に多数のスタッフが働いている。スタッフの多くは買い物客をサポートしたり、キッチンでサラダやサンドウィッチなどを作っている。また、商品の補充も人間が行っている。Amazon Goは無人店舗ではなく、あくまでもキャッシャーがいない「キャッシャーレス コンビニ」なのだ。
Amazon Goの仕組みはシンプルだ。利用者はまず自分のスマートフォンにAmazon Goのアプリをインストールする。アプリにクレジットカードなどの情報を入力し、設定すると直ちに利用可能だ。アプリからQRコードを生成し、入口ゲートのスキャナーにタッチするとゲートが開いて入店できる。見た感じはまるで日本の鉄道改札ゲートだ。
入店後は普通に買い物し、サポートスタッフから渡されたオレンジ色のショッピングバッグなどに詰め込むだけでOKだ。品物が棚から取られるとカメラとセンサーとAIがトラックして利用者のアプリのショッピングカートに購入情報として追加する。品物を棚に戻せば逆に情報が削除される。買い物が済んだらそのままゲートを通って店外へ出る。決済はアプリに登録したクレジットカードで行う。まさに、Amazon Goそのものだ。
【Amazon Go紹介映像(英語)】
競争が激化するキャッシャーレスコンビニ市場
当然だが、Amazon Goに挑戦する競合がいくつか登場してきている。Amazon Goが2店舗出店しているサンフランシスコでは、ベンチャー企業のZippinがAmazon Goと同スタイルのキャッシャーレスコンビニをオープンさせている。Amazon Goと比べると店舗がだいぶ小さく、販売アイテムもより少ない。見たところ日本の駅内コンビニ位の大きさの店舗にドリンクやスナックなどが多く陳列されている感じだ。Amazon Goのようにフード類は販売していないので、キッチンなどもなく、店そのものが非常にシンプルだ。多分、Amazon Goよりもローコストでオペレーションする戦略を採っているのだろう。
また、Amazonの宿敵で世界最大のリテールチェーンのウォルマートもAmazon Go対策を始めている。ウォルマートは子会社のサムズクラブで、利用者がスキャンして決済する「Scan & Go」というサービスの提供を始めている。また、テキサス州ダラスに小型のサムズクラブの店舗をオープンさせ、キャッシャーレス化のための実証実験を開始するとしている。
いずれにせよ、今後キャッシャーレスコンビニ市場での競争が激化することは間違いないだろう。
飲食業界への影響は?
ところで、気になるAmazon Goの飲食業界への影響はどうだろう。Amazon Goの影響をもっとも受けると思われる飲食店は、まずはデリなどのAmazon Goと同じようなフードアイテムを販売している店だろう。特にビジネス街のデリやコーヒーショップは、Amazon Goに一定数のお客を盗られる可能性が高いと思われる。
また、Amazon Goはフードアイテムに力を入れていて、店内でつくったフードアイテムに加え、地元のベーカリーやレストランに委託してつくったフードアイテムも販売している。いうなればAmazon Goの生態圏に周辺のレストランを巻き込んでいるわけだが、Amazon Goの生態圏に入っていない飲食店のお客を迂回ルートで奪う可能性もあるだろう。
なお、シアトルのAmazon Goで売られているサンドウィッチの覆面調査を行ったギークワイアのトッド・ビショップ記者によると、同記者が買ったジャークチキン・シーザーサラダ・サンドウィッチは、「刺激的な香りを放ち、スパイシーで新鮮、ギークワイア社内の冷蔵庫に一日置いていたにも関わらず大変おいしい。これなら毎日でも買って食べる」ほどだそうだ。それほど高いクオリティのフードアイテムが、レジに並ぶことなく買えるというのは、周辺の飲食店にとってはそれなりの脅威になるのは間違いない。
ところで、気になるAmazon Goの日本での出店時期についてだが、残念ながら筆者のもとにはまだ情報は入って来ていない。
参照:
https://csnews.com/analysts-amazon-go-stores-bring-50-more-revenue-typical-c-stores
https://www.businessinsider.com/amazon-opening-3000-go-stores-2019-1
ライタープロフィール:
前田健二
東京都出身。2001年より経営コンサルタントの活動を開始し、新規事業立上げ、ネットマーケティングのコンサルティングを行っている。アメリカのIT、3Dプリンター、ロボット、ドローン、医療、飲食などのベンチャー・ニュービジネス事情に詳しく、現地の人脈・ネットワークから情報を収集している。