原価率が低く、客単価を上げることも期待できるアルコール類は、居酒屋のみならず他業態の飲食店でも重要なアイテムとなっています。どのような酒類を揃えるのかは店舗によって違いますが、共通しているのは酒屋の協力なくしては成り立たないということ。
ここでは、自店にあった酒屋の選び方を考えていきます。
酒の注文先は、業務用酒屋と街の酒屋の2種類
酒類の注文先は大きく分けて2つあります。ひとつは業務用の酒販店(”卸し”を含む)、もうひとつは一般の人も買っている一般的な酒屋です。どちらも基本システムは同じで、FAXや電話、LINEなどで注文をし、店舗まで配達してもらいます。
酒類は基本的に、メーカーから直接仕入れることはありません。仮に、直接コンタクトをとったとしても、近場の業務用酒販店を紹介され、そこを経由しての取引となります。また、キャンペーンや新商品の営業には、メーカーの担当者が直接訪れることもありますが、実際に酒を納品するのは酒屋経由となります。
圧倒的な品揃えとキャンペーン情報が多い業務用酒販店
業務用の酒販店は品揃えも豊富で、価格もある程度抑えられています。居酒屋など、酒類を大量に扱うのであれば、第一の選択肢となるでしょう。
業務用のカクテルコンクや酒樽なども豊富に扱う
居酒屋では、瓶に入った一般的な酒の他に、さまざまな専用商品を使います。例えば、ハイボールはウイスキーを炭酸で割って作るのが一般的ですが、すでに最適な割合で割って樽詰めされたものが存在するのです。また、炭酸を混ぜるだけでカクテルができる「カクテルコンク」と呼ばれる業務用商品もあります。これを使用することで、誰でも簡単かつスピーディに酒を提供できるようになるため、居酒屋などでは一般的に使用されています。これは実にさまざまな種類があり、ほとんどのカクテルができると言われていますが、一般的な酒屋では扱っていません。
メーカー協賛のキャンペーンに参加できる
業務用の酒屋を使うメリットは、メーカーが展開するさまざまなキャンペーンに参加できることにあります。例えば、サッカーの日本代表であればキリン、野球のワールドベースボールクラシックならアサヒビールが協賛しており、大会にあわせて大規模なキャンペーンが行われます。
これらはメーカーが協賛して行うもので、使用するクジや景品はもちろん、ポスターや卓上POPなどのキャンペーングッズはすべて無償提供されます。例えば、スポーツバーであれば、ワールドカップ期間中に店内を日本代表のフラッグやポスターで埋め尽くすほどのグッズの提供を受けることができるのに、店舗のコスト負担は一切ないというわけです。これらの大型イベント以外にも、さまざまなキャンペーンが年中企画されており、それにあわせてグラスや酒器の提供を受けられます。
これらの企画は、メーカーから業務用酒販店に案内が出され、酒販店が希望店舗を集めたり、推薦したりしています。そのため、業務用酒販店と取引があることは非常にメリットが大きくなるのです。
商品の提案が受けられる
目新しい酒の飲み方が新たなお客さんを呼ぶきっかけとなりますが、そういったメニューを考えるのは難しいものです。しかし、業務用の酒販店を利用していると、メーカー経由で新たな提案を受けることができます。ハイボールにフルーツを入れてレパートリーを増やしたり、オリジナルカクテルの提案があったりするのです。しかも、その導入に必要なグラスやツールの提供を受けられるので、非常にメリットが大きいと言えます。
勉強会や試飲会に参加できる
大きな酒販店であれば、勉強会や試飲会、親睦会が開催されるのも特徴です。日本酒の酒蔵の見学ができたり、ワインの試飲会では100種くらいの商品を比較できたりします。
さらに、新店がオープンするとき、スタッフトレーニングにメーカーの人を呼んだり、グラスや設備の提供を受ける相談ができたりもします。例えば、「ビールジョッキをしまうための冷蔵庫」や「生ビールを出すためのパントリースペース」など、メーカーに協賛させるための口利きをしてくれるケースもあります。
ネット注文ができるところがほとんど
最近は、スマホやパソコンから注文できるシステムを備えているところが多くなりました。独自のシステムを作っているところもありますが、多くはインフォマートなどの受発注システムを導入しています。これは飲食店共通のネットオーダーシステムで、気軽に注文できるほか、店舗のアカウントを作れば、他の取引先(業務用食材や消耗品の業者など)でも使うことができます。電話やFAXで起こりがちな注文ミスもなくなるため、積極的に活用する店舗が増えています。
個性的な商品の仕入れや柔軟な対応を求めるなら一般の酒屋
商店街にあるような、一般の人が購入する酒屋から酒を仕入れるケースを見ていきましょう。一般の酒屋は、商品に偏りがあることも多いのですが、その分、特定のジャンルに強く、細かな相談に乗ってくれるケースがあります。また、ビールの生樽など飲食店専用の商品を扱っていることも多く、取引したい酒屋がある場合は、聞いてみるとよいでしょう。店頭価格よりも安く仕入れさせてくれる酒屋も多いようです。
個性的な酒を仕入れられる
特定の酒蔵、または問屋と取引があり、大型酒販店では扱っていないプレミアム焼酎、日本酒などを大量に扱っているケースがあります。しかも、正規ルートで仕入れているため価格も正規価格。結果的に、安価な価格での商品提供が可能となります。また、限定商品の企画をしていたり、ワインなどの仕入れルートを独自に開拓し、輸入していたりするケースもあり、これらの商品を扱えば、他店と差別化することも可能です。
品揃えについて相談に乗ってくれる
飲食店を開くからと言って、すべての酒に詳しいわけではありません。
「個性的な酒を扱いたいけど、それが何なのかわからない」
と言うような場合、酒屋が相談に乗ってくれるケースがあります。酒のうんちくを教えてくれるだけでなく、メニューを聞き、「それならば、この酒」と指定してくれるケースもあるようです。距離が近い分、親密な関係作りが可能というわけです。
柔軟な対応が最大のメリット
業務用の酒販店の場合、「今日配達するには、○時までに注文してください」というルールがありますが、近隣の酒屋であれば柔軟に対応してくれるケースが多くなります。
「急に宴会が入ったから、1時間後に冷えたビールが欲しい」「炭酸が切れたから、すぐに持ってきてくれないか」など、無理なオーダーでも配達してくれるのは近くの酒屋だからと言えるでしょう。
もちろん、酒屋によって対応は違いますので、急な要望にどこまで応えてくれるのかを事前に聞いておき、普段から友好な関係を保っておくことが重要です。
用途に合わせて選べる、その他の仕入れ先
さて、ここからはイレギュラーな方法をいくつか紹介します。基本は業務用の酒屋を使い、一部の商品は別の方法で・・・・・・、といくつかの仕入れ方法を併用しているケースもありますので、店舗の規模や都合に合わせて使い分けるとよいでしょう。
ネット通販・カタログ通販で酒を仕入れる
飲食店でも、ネット通販を使うケースは増えています。例えば、「どうしても入手できなかったリキュールが楽天で売っていた」というケースなどが代表例でしょう。リキュールは同じ種類のものでもメーカーによって味はまったく違いますし、発色も違います。カクテルをウリにしている店舗であれば、そういった微妙な違いにもこだわりたいところですが、思い通りの仕入れができるとは限りません。そのようなときは、一度、ネットで検索してみることをお勧めします。
また、居酒屋を開業していると、年に数回、DMとして酒のカタログが送られてきます。見たこともない酒があったり、非常に安い商品があったりしますので、これらを活用するのも賢い選択だと言えるでしょう。
通販系の仕入れ先は、継続的な取引を前提としていないのが特徴です。そのため、気になる商品を1回限りで仕入れることが可能となっています。ただし、プレミアム焼酎や日本酒が定価で販売されているわけではなかったり、少量の仕入れでは高額な送料がかかったりすることがありますので、注文の際には十分にチェックするようにしてください。
酒蔵から直接仕入れる
大手の酒造メーカーは、飲食店と直接取引をしていませんが、小さなメーカー(蔵元など)の中には、直接仕入れが可能なところがあります。また、直接取引でしか入手できない酒もありますので、個性的な品揃えをしたいのであれば、直接取引を申し出てみます。この場合、多くはケース単位での発注となっており、一升瓶であれば最低でも6本となっていたり、年間の最低取引量が決まっていたりします。仕入れにあたっては、保管場所にも注意しながら行うようにしてください。
オリジナルラベルの酒を作る方法
居酒屋では、日本酒や焼酎をボトルで出しているところがあります。店名が入っているケースがありますが、これらはどこで作成すればよいのでしょうか?
まず、業務用の酒販店の場合、取引のある酒蔵で作れることがあります。それが名の知れた酒であることも多いのも特徴です。デザインが何パターンかあり、そこから選ぶスタイルなのでオーダーも楽。一度、聞いてみるとよいでしょう。また、発注数はある程度まとまった単位で行うことが多いのですが、商品は必要な分だけ酒販店から配達してくれるケースもあります。これであれば、店舗にストックしておく必要がないので便利です。
業務用の酒屋との取引がない場合、またはもっと別の酒、あるいはデザインに凝りたい場合は、蔵元と直接取引をします。蔵元の中には、自分のところで製造した酒の普及のために、独自ラベルを作って納品してくれるところがあるのです。蔵元によりますが、ラベルだけでなく、酒ビンの色が選べたり、梅酒などが選べたりとかなり融通が利くこともあります。ネットで探すことができる他、居酒屋などの場合、DMが来たりもしますので活用するとよいでしょう。
まとめ
大型の店舗は業務用の酒屋からまとめて仕入れることでスケールメリットが得られます。ですが、そうでない場合は、酒の仕入れ先をひとつに絞る必要はありません。飲食店にとって酒類は特別な存在です。客単価を上げたい、原価率を抑えたい、店の個性を出したいなどいろいろな目的があると思いますので、それにあわせて最適な酒屋を選ぶようにしてください。
ライタープロフィール
原田 園子
兵庫県出身。 株式会社モスフードサービス、「月刊起業塾」「わたしのきれい」編集長を経てフリーライター、WEBディレクターとして活動中。