アメリカで飲食店のWeb予約受付サービスを提供しているオープンテーブルが孤食ゲスト同士のマッチングサービスを開始し、アメリカのネットコミュニティの話題になっている。
改めてオープンテーブルとは?
オープンテーブル(OpenTable)は1998年設立、サンフランシスコに拠点を置くオンラインレストラン予約プラットフォームを提供している企業である。企業名でもあり、プラットフォームそのものの名でもある。
オープンテーブルは当初、サンフランシスコ市内のレストランと契約し、オープンテーブルのウェブサイトで予約受付機能を提供していた。ユーザーがオープンテーブルのウェブサイトで予約し、実際にレストランで食事をするとレストランからオープンテーブルに送客手数料1人あたり1ドルが支払われる仕組みだ。
シンプルな料金体系と同社が提供する電子予約管理システムが評判となり、同社と契約するレストランの数が右肩上がりで増加した。オープンテーブルは現在、アメリカを中心に日本を含む全世界で47,000店の飲食店と契約している。なお、現時点でオープンテーブルは毎月2,600万人のお客を各レストランへ送っているという。
米バージニア州のインバウンド客誘致策としてスタート
さて、そのオープンテーブルの孤食ゲストマッチングサービスだが、オープンシート(OpenSeat)と名付けられたオプションだ。オープンシートの利用法はいたって簡単だ。オープンテーブルでレストランを予約する際に予約画面のオプションフォームに「オープンシート希望」と入力するだけ。オープンテーブルが孤食ゲスト同士の予約時間などを合わせてマッチングし、予約情報をレストランと共有する。あとは当日孤食ゲスト同士が同じテーブルについて食事を楽しむだけだ。
ところで、このユニークな仕組みは米バージニア州観光公社とのコラボレーションで開発されたという。いわばバージニア州のインバウンド客誘致策として始まったわけだが、現時点でこのプログラムには、バージニア州内の29のレストランが参加しているという。なお、オープンシートのオプションを申し込んだ人には、当日レストランから無料のアペタイザー(前菜)がサービスされるそうだ。
Yelpなどの口コミサイトの台頭も
バージニア州での利用状況を踏まえ、オープンシートを順次他のエリアでも展開してゆきたいとしているオープンテーブルだが、オープンシートというオプションは、確かにオープンテーブル自体を差別化する要因になるだろう。
ところで、オープンテーブルがバージニア州観光公社と共同でオープンシートを立ち上げたことには、最近のYelpなどの口コミサイトの台頭も影響していると筆者は見ている。
Yelpは2004年設立、オープンテーブルと同じくサンフランシスコに拠点を置く企業だ。PayPalの従業員だったラッセル・シモンズとジェレミー・ストッペルマンの二人が立ち上げたYelpは、当初は地元の医師の評判などの口コミ情報を共有するために開発されたという。Yelpはその後、特に飲食店のレビューや評価を中心に掲載情報量を拡大し、同時に利用者数を増やしていった。
日本にも飲食店の重要な集客手段として食べログがあるが、Yelpはいうなればアメリカの食べログのようなものだ。お客はYelpに書き込まれた口コミ情報を参照し、評価などもチェックしながら店の予約をする。実際、Yelpから予約をする人の数は相当数に上るだろう。
Yelpはしかも、レストランにとっては無料で送客してくれるありがたい存在だ。オープンテーブルの場合、レストランに1人送客してもらうと1ドル支払わねばならない。料理やサービスのクオリティを上げるなどして努力すれば、Yelpの評価も高まる可能性がある。その意味で、Yelpはオープンテーブルにとって「今そこにある脅威」とすべき存在だ。
オープンテーブルについてのアメリカのネットコミュニティの反応
ところで、オープンテーブルについてのアメリカのネットコミュニティの反応だが、好悪織り交ぜたものとなっているようだ。
ある飲食業界専門サイトのブロガーは、オープンシートを「おぞましい」「非常に風変り」な仕組みであると酷評している。自らをミレニアル世代(1980年代から2000年代初頭までに生まれた人の世代)であると称するそのブロガー氏は、「一度も会ったことがない、まったくの他人と一緒に食事をすることは、社会的な災害をもたらすもとになりかねない」とこき下ろしている。
一方で、「使いたくなければ使わなければよい」と、比較的冷静な反応を示すブロガーもいる。自分自身はオープンシートを「使わないであろう」としながらも、例えばバージニア州に引っ越してきたという人や、観光客で土地の人間と話をしたいといった人にとっては「悪い話ではないだろう」という(もっとも、バージニア州への観光客同士がマッチングされてしまう可能性はあるが)。
アイルランドの詩人、ウィリアム・バトラー・イェイツの「世に赤の他人という者は存在しない。まだ会えていない友人が存在するのみ」という言葉を引用し、オープンシートの立ち上げを力強く宣言したオープンテーブルのキャロライン・ポッターCDO(Chief Dining Officer, チーフ・ダイニング・オフィサー)だが、彼女の眼にはオープンシートの未来がどのように映っているのだろうか。
日本でもオープンシートは受け入れられるか?
最後に、日本においてオープンシートが受け入れられる可能性について考えてみたい。日本でも最近、「おひとりさま」「ひとり飲み」「相席居酒屋」といったテーマの飲食店が増えてきている。中でも女性の飲食代が無料の相席居酒屋は、それなりの人気を集めていると聞く。相席居酒屋が、飲食店としての機能に加え、男女の出会いの場を提供する機能も提供しているわけだが、これはそのままオープンシートのコンセプトに通じるものがある。
アメリカでは、オープンシートについては賛否両論を呼んでいるが、日本においては、オープンシートがアメリカよりも自然な形で受け入れられる可能性が高いかもしれない。オープンテーブルには、バージニア州に続いて日本でも、ぜひオープンシートを始めていただきたいと筆者はひそかに願っている。
参照:
https://thespoon.tech/opentable-launches-openseat-feature-to-pair-up-single-diners/
https://thetakeout.com/opentable-openseat-single-dating-reservations-1829390711
https://www.foodandwine.com/news/opentable-openseat-program-virginia
ライタープロフィール
前田健二
東京都出身。2001年より経営コンサルタントの活動を開始し、現在は新規事業立上げ、ネットマーケティングのコンサルティングを行っている。アメリカのIT、3Dプリンター、ロボット、ドローン、医療、飲食などのベンチャー・ニュービジネス事情に詳しく、現地の人脈・ネットワークから情報を収集している。