最近は、低糖質メニューが脚光を浴びています。「飲食店は利用したいが主食は不要」という要望は、多くの飲食店の頭を悩ませる事態となっています。
ここでは、牛丼店や寿司屋など、主食ありきのメニューを提供する外食チェーンが打ち出している低糖質メニューを参考にしながら、時代に対応するメニュー戦略と、「らしさ」を残して差別化を図るための工夫について考えていきます。

 

主食ありきのメニュー展開では利用されなくなってきた

飲食店が繁盛するために、メニュー戦略が重要なことは誰もが知っていることです。そのために飲食店は、さまざまなこだわりを持ってメニュー開発を行っています。
「うちは一流のシェフがメニューを考えているから味には自信がある」
「行列ができるほどだから商品は圧倒的に支持を得ている」
そんな声をよく聞きます。

ところが最近は、飲食店に激震が走っています。それが低糖質メニューです。健康を意識する人が増え、「糖質をできるだけ避ける」という人が増えているのです。糖質とは、ご飯や麺、パンなど主食を指します。つまり、「飲食店に行っても主食を食べたくない」という人が増えているのです。

もちろん、絶対数で考えれば、糖質を気にする人はまだまだ少数で、ほとんどに人は主食を食べています。ただし、飲食店は複数で利用することが多いため、「○○さんは糖質を食べないからあの店には行けない」となってしまうことが問題。少数派であっても、そのニーズを無視できないのです。その証拠にインタ―ネットで「糖質オフ+外食」と検索してみてください。関心の高さを知ることができるでしょう。

こうなると、ハンバーガーショップ、すし屋、牛丼屋、定食屋、麺屋など、「糖質ありき」でメニューを考えてきた多くの飲食店は「利用できない店舗」となってしまいます。これは由々しき事態。「外食最大の転換期だ」という人もいるほどです。


大手チェーンも乗り出す糖質オフメニュー

この転換期を迎え、大手のチェーンも対応メニューを登場させています。
まずは、その例を見ていきましょう。

モスバーガー「菜摘(なつみ)」

モスバーガー「菜摘」
モスバーガー「菜摘」

バンズ(ハンバーガー用のパン)の代わりにレタスを使った商品。パティ(ハンバーガー用肉)を挟んだものの他、テリヤキチキン、フィッシュ、ロースカツ、海老カツ、チキン、ソイパティと7つのレパートリーをそろえている。
毎月29日には、「にくにくにくバーガー」という、バンズのかわりにパティを使い、さまざまな肉類を挟んだメニューも限定販売されている。

すき家 「牛丼ライト」「ロカボ麺」

牛丼ライト
牛丼ライト

牛丼のご飯を豆腐に変えたメニュー。野菜ものっており、ゆずポン酢で味を調えることで、ヘルシーでさっぱりとした味わいに仕上げている。他にも、こんにゃく麺を使った「ロカボ麺」もメニュー化している。

松屋 定食のライスをおろし豆腐に変更するサービス

定食メニューを注文する際、プラス50円払うことでライス(並)をおろし豆腐に変更できるサービス(冬季は湯豆腐)。豆腐にたっぷりの大根おろしと塩だれをかけたもので、単品価格は210円。100円の冷奴と明確に区別している。

リンガーハット「野菜たっぷり食べるスープ」

糖質オフ丼

ちゃんぽん麺のチェーン店でありながら、麺が入っていないメニューを開発。国産野菜480グラムをショウガ入りスープで提供している(塩味もあり)。

くら寿司「糖質オフシリーズ」

回転ずし屋でありながら幅広いメニュー展開を続けるくら寿司は、シャリを半分にした「シャリプチシリーズ」、シャリを大根の酢漬けに変えた「シャリ野菜シリーズ」、糖質オフ麺を使ったメニューなどを揃えている。

 

コンセプトを見失わないことが最重要

これらの大手チェーンに共通しているのは、これまでの常識から考えれば、糖質オフは考えられない業態だった点です。「牛丼屋でご飯を食べない」、「ちゃんぽん麺屋で麺を食べない」などは、驚きでしかありません。それでも新メニューを取り入れたことは、それだけ関心が高まっている証拠だと言えます。

さらに、これらの新メニューは、主食カットという大胆な選択をしながら、各チェーンのラインナップから大きく外れないメニューを開発した点に注目すべきです。もちろん、商品開発部の貢献が大きいのはもちろんですが、その根本には、各チェーンのメニューコンセプトが明確だったことが大きく関係しています。これに関しては、チェーンの規模に関係なく、個人店でも見習うべきポイントです。

飲食店は、お客の声をダイレクトに聞くことができる業種です。また、ホスピタリティの観点から言えば、お客の要望はできる限り聞き入れるのが基本となります。ただし、要望を聞くのといいなり状態となってしまうことは違います。要望に応えているうちにコンセプトを見失ってしまい、結果的に売上がガタ落ちしてしまうことも珍しくありません。

この点は十分に認識しておかなくてはならないポイントであり、これらのチェーンの取り組みはその成功例を言えます。

 

メニューを増やすことが満足度の向上とはいえない

さらに、もうひとつ考えておかなければならないことがあります。それは、メニューを増やすことが、必ずしも売上げアップや利益の確保に直結しないという点です。

メニュー数が多くなると、それだけ仕込みの手間がかかるようになります。これは、新商品を投入したものの現行のメニューを減らさないというケースでよく見られます。さらに、冷蔵庫などが満杯になったり、盛り付けスペースにものがあふれたりして、オペレーションの障害になってしまうこともあります。こうなると商品提供に時間がかかってしまい、注文数が減ったり、お客の滞在時間が長くなったりします。さらに、「あの店はなかなか商品が出てこない」と思われてしまうと顧客満足度が低下し、客足は遠のいていきます。

お客が一度の来店で注文できる数は限られています。10種のメニューから選ぶより、50種の中から選ぶ方が楽しいかも知れませんが、結局オーダーする数は限られています。しかも、常連客の中には「必ず頼むメニュー」があることも多く、実際には1~2品しか選んでいないことも珍しくありません。このために、多くのメニューを揃え、仕込みの負担を増やし、オペレーションを乱して提供時間が遅くなるのでは効率が悪すぎます。

これを考えると、低糖質メニューなどを増やそうと言うとき、必ずしも新メニューを加えるのではなく、要望にあわせて現在のメニューを変更するというできるというサービスにする方法が出てきます。松屋の50円でご飯を豆腐に変更できるサービスなどがそれにあたります。

 

最初に、全体のメニュー戦略を再確認する

では、メニュー開発をどのように行えばいいのかを具体的に考えていきましょう。メニューは、店やチェーンのコンセプトとリンクしたものでなければなりません。まずは、店舗のコンセプトを再確認した上で、メニューを見直します。

・何をウリにしたい店なのか?
・譲れないこと、守るべきものは何か?
・どのようなお客が、どのようなシチュエーションで利用しているか?
・そのお客が求めているメニューと、揃えているメニューは合致しているか?
・不足しているメニューは何か?
・どれくらいの価格が適正か?

特に、何をウリにしているかを明確にすることが重要です。開業当初は明確なコンセプトを掲げていても、流れる月日の中でいつのまにか変わってしまったり、見失ってしまったりするケースは決して少なくありません。店舗のコンセプトがあやふやになったまま、新たなメニューを投入してしまうと、さらに方向が定まらなくなってしまうので注意します。

たとえば、「良質な和牛肉適正価格で提供する」という点をウリにしているのに、お客が求めるからと言ってむやみに安価な肉を導入してしまうと、結果的に安い肉を求めた客層ばかりが増えてしまうことがあります。新たなメニューを投入する場合でも、店のコンセプトを変えないのであれば、良質な和牛を引き立てるメニューを投入するべき。どうしても安いメニューを増やすというのであれば、店のコンセプトから変えてしまう覚悟が必要となるのです。

ここを明確にしない段階での新メニュー投入は、絶対に避けなければなりません。その上でバランスを見て新メニューを投入することが重要なのです。

 

仕入れ先の確保とストックスペースを考える

どんなにすばらしい新メニューを提供したいと考えても、食材を安定的に仕入れられないのであれば、結局メニュー化できません。前述の低糖質メニューであれば、すき家のロカボ麺やくら寿司の大根の酢漬けは新たな食材だった可能性はありますが、他はすでに店で使っていた食材を増量しただけという点も注目すべきポイントです。つまり、すでに仕入れ先は確保できていたということです。

また、新たな食材を仕入れる場合、仕入れ単位も注意しなければなりません。一度に仕入れる単位が大きく、しかも冷蔵(または冷凍)保存が必要ということであれば、ストックスペースの確保を考える必要が出てきます。

「大量仕入れであれば単価が低くなるが、少量仕入れだと割高」というケースでは、原価を抑えたいとの思いから、必要以上に大量仕入れをすることがあります。ところが、タイムロスにつながったり、それを避けるために他店に宅配便を利用して送ったり、スタッフが時間をかけて運んだりとなったのでは意味がありません。食材の確保と共にトータルなコスト感を持って考えるようにしてください。

 

時代のニーズにあわせたメニューは早期に導入することに意義がある

では、低糖質メニューをどのように導入すればいいのかを考えましょう。
もちろん、さまざまな要因をトータルで考え、「低糖質メニューを本格導入しよう」と考えるのであれば、積極的にメニュー開発をするのが賢明でしょう。ただし、低糖質メニューの注目度が高いことは間違いありませんが、客層によっては、実際に多くの人がオーダーするメニューではないことも現実です。そのような中で、新メニューを開発し、仕込みをして、オペレーションを煩雑にするのではリスクが高すぎます。

このような場合、既存のメニューを変更したり、要望にあわせて糖質オフメニューに置き換えたりする方法でまかなうことが現実的となります。これであれば、店舗のコンセプトを大きく阻害することはありませんし、新たな食材も最小限に抑えられます。

たとえば、ラーメンやパスタを低糖質麺にしてメニュー化する方法が代表でしょう。こんにゃく麺や豆乳を使ったもの、おからを使ったものなどがありますし、オーダーが入ってから封を開けるタイプのものを使用すれば仕込みの手間はかかりません。パンであれば、低糖質パンを冷凍状態で仕入れ、レンジアップで提供することもできます。

低糖質メニューは、必ずしも特別なものを作らなければならない訳ではありません。「多くのお客のニーズに応えるために創意工夫をする」という範疇でも実施できることはたくさんあるのです。あれこれ考えて導入に時間をかけるのではなく、まずは導入すること。それが、低糖質メニューをはじめとする時代ニーズにあわせたメニュー導入のコツといえます。

その上で、それらのメニューの人気が出てきたのを確認してから、本格投入でも遅くはありません。



積極的なアピールをして新規客を呼び込む

新メニューや変更メニューが決まれば、次はどうアピールしていくのかも考えます。せっかくすばらしいメニューを考え出したのに、アピール不足で、売上げアップにつなげられていないケースをよく見かけますが、これは非常にもったいないことです。

特に低糖質メニューのような注目度の高いメニューの場合、メニュー表にこっそりと載せればいいというものではありません。それだけで注目を浴びる可能性があるのですから、ぜひ店頭などに掲示してアピールしてください。これは、夏場に中華料理店が、「冷やし中華始めました」と店頭に張り出すのと同じことです。

飲食店の中には、「そればかり出ても困る」と店頭でのアピールを躊躇する人も少なくありません。でも、その心配はありません。店頭に掲示したメニューが来店動機になっても、お客が実際にその商品を100%注文するわけではないのです。

複数人で利用する中に糖質を気にする人がいるのであれば、「あそこの店に行こうよ!」と周りの人を誘い、結果的に3人、4人で利用してくれるケースもあるわけですから、ぜひ積極的なアピールをしていただきたいと思います。

 

まとめ

低糖質メニューに代表されるような新たな要望は、これからも多く出てくることが考えられます。これらを導入するのであれば、できるだけ早く着手し、他店に先んじることが重要です。
ただし、新メニュー導入にはリスクが伴うのも現実です。それを回避するには、まるっきり新しいメニューを導入するのではなく、現行のメニューを変更するだけで対応することも可能です。メニュー戦略を考える際には、利益確保やオペレーションなど、全体を俯瞰して考えるようにしてください。

 

 


ライタープロフィール
原田 園子

兵庫県出身。  株式会社モスフードサービス、「月刊起業塾」「わたしのきれい」編集長を経てフリーライター、WEBディレクターとして活動中。