飲食店でのアルバイト早期戦力化のために経営者にしかできない3つのこと

アルバイトの労働力比重が高い飲食店ですが、十分な人材確保が難しい時代がやってきました。これからは、「いかに人材を補充するか」ではなく、「少ない人材でもやっていくために何をすべきか?」に発想転換をする必要があります。そしてもっとも重要なのがアルバイトの早期戦力化。そのために経営者が何を決断すべきなのかを考えていきます。

 

飲食店は、人材不足にもっとも悩んでいる業種

飲食店は必要な数のスタッフがいけなければ売上を確保できない業種です。スタッフは、非正社員(アルバイト)が占める割合が高く、社員数人で100名を超えるアルバイトを管理していることも珍しくありません。アルバイトは正社員よりも拘束力が低く、短期間で辞める人が多くいます。そのため、常にアルバイト募集をしているという店舗が多くなるのは必然でしょう。

帝国データバンクが2017年10月に調査した「人材不足に対する企業の動向調査」によれば、「非正社員が不足している」と回答した割合が一番高かった業種は飲食店。その数は、8割にも及びます。時給を上げれば人が集まった時代もありましたが、求人件数が増える中、青天井では経営が立ち行かなくなります。そのため次の有効な手を打てず、慢性的な人不足に悩んでいる企業が増加しているのです。

これから安定的な売り上げを確保し続けるには、アルバイトが入れ替わってもオペレーションが行える体制に転換すること。つまり早期戦力化が可能な環境をつくることが勝敗を分けるのです。



現場任せのトレーニングに限界が来ている

実際に店舗で行われている人材育成はどのようになっているでしょうか?

飲食店の場合、アルバイトの教育は現場で行うことがほとんどです。ところが、飲食店はやるべき作業が煩雑で、覚えなければならないことが多い特徴があります。さらに、ホスピタリティ(おもてなし)を高レベルで提供するには、作業を覚えたうえで臨機応変な対応をすることが必須。そのため、トレーニングも非常に難しくなります。

さらに、人不足の店舗では店長や社員も時間に追われており、十分なトレーニングが行えません。中には、トレーニングを行うはずの店長や社員も十分な知識を持っていないこともあり、状況は悪化の一途です。

トレーニングにおいて「一を聞いて十を知る」というのは理想論。どんなに上手に教えても、伝えたことをすべて理解し、実践できることはありません。まして、職人にありがちな「背中を見せて育てる」という発想では、時間は足りなくなるばかりです。

その結果、忙しい時間帯に「どうして教えたことができないんだ!」「昨日言ったはずだ。なぜ覚えてないんだ!」と強い口調で叱責することとなり、アルバイトは辞める決意を固めます。こうなっては、後でどんなに説得をしても止めることはできず、人不足の現状は改善の糸口すら見えなくなってしまいます。

 

アルバイト早期戦略化のための3つの手法

上記のような状況は売り上げを低下させ、いずれは不安定な経営につながります。それを避けるため、経営者はアルバイトの早期育成を実現するための対策を早期に取ることが必要でしょう。

その手法はさまざまありますが、ここでは経営者が決断すれば、すぐにでも着手できる3つの手法を紹介します。

 

早期育成のためのツール作り(電子マニュアルの整備)

アルバイトの早期戦力化には、教育ツールの作成が重要となります。その基本となるのがマニュアルであることは誰もが知るところでしょう。飲食店では、OJTで教えなければならないことがたくさんあります。ですが、現場で教える前に知識部分を覚え、トレーニング後に復習するための資料としてマニュアルがあることは非常に重要です。

そして、マニュアルをさらに使いやすくしたのが電子マニュアルです今はほとんどの人がスマートフォンを所持しています。これを利用して見ることができる電子マニュアルを用意しておけば、手が空いたときにアルバイトが自ら内容を確認し、知識を身に付けることができます。また、動画を活用すれば、テキストだけでは表現できないこまかなニュアンスを伝えることも可能になります

ここでポイントとなるには、向上心のあるアルバイトほど熱心にマニュアルを見ると言うこと。これらの人は積極的に仕事を覚えることで早く一人前になりたいと思っており、その結果、早い段階で仕事を楽しいと感じるようになります。仕事にやりがいを感じれば、すぐに辞めることもなく、将来のアルバイトリーダーとして活躍する可能性も高いことは間違いありません。

最大のメリットは最新の情報をスピーディに届けられること

「マニュアルは紙に印刷しておいた方がいい」という人もまだまだいます。しかし、電子マニュアルには紙にはないメリットがあります。まずは、どこでも見れること。店舗に行かなくても見られるので、新商品情報など必要なことは事前にチェックするようになります。

また、電子マニュアルの作り方によっては、最新情報に更新しやすいというメリットもあります。ホームページ制作で使われるhtmlなどで作りこんでしまうとスキルのある人しか変更ができなくなりますが、Wordで作った文書にスマホで撮影した写真をはめ込み、PDF化してファイル共有するようなスタイルであれば誰でも簡単に情報更新できます。パソコンでつくるのが億劫だと言う人は、手書きをスキャナーで読み込む方法もあります。文書化するのが面倒であれば、スマホで撮影しながら実演し、そのまま共有することもできます。

電子マニュアルと言っても、その作り方はさまざま。用途に合わせた作り方ができるのも大きなポイントです。

電子化によるリスクを恐れるより、人材不足のデメリットを優先すべき

電子化を話題にすると、「情報が簡単にもれるのではないか」と危惧する声があがります。もちろんセキュリティを強化してもリスクが100%なくなるわけではありません。ただし、それは紙のマニュアルでも同じこと。印刷物をスマホで撮影すれば、秘密情報は簡単に持ち出せます。電子化であろうと印刷物であろうと、教育で歯止めを利かせるしかないという点では同じなのです。

むしろ、情報がもれることを恐れるばかりに十分な対策を取らず、人材不足に悩まされ続けるリスクの方が甚大です。今は正社員も、公休を確保するのは当然で有給もできるだけ多く消化させようという流れになっており、飲食店も例外ではありません。これを実践するにも、アルバイトの早期戦力化は欠かせません。

電子マニュアルに閲覧パスワードを付けたり、管理レベルを階層化してアクセス制限を設けることで一定のリスクヘッジが可能となります。セキュリティの手法はいくつもありますので、マニュアルの電子化はすぐにでも取り組むべきでしょう。

初期の電子化には外部の力を使うのが得策

マニュアルの更新は店長でもできます。ただし、最初に電子化するときは作業量が多く、電子化のノウハウもないため、店長に任せているといつまでも完成しません。そのため、最初は外部の力を借りてできるだけスピーディに作業を行うことが重要です。これはコストもかかり、専任の担当者を任命する必要もあります。ここには経営者の判断が欠かせません。

 

コミュニケーションツールの活用(ビジネスチャットの導入)

次に考えたいのがコミュニケーションツールの導入です。

店舗では、多くのコミュニケーションの機会があります。店長が特定のアルバイトに行う連絡や全スタッフへの情報発信。また、返信の確認や集計など、その内容は煩雑です。これを円滑に行うツールの導入は、コミュニケーションをスムーズにするだけでなく、作業効率を上げることに直結します。

たとえば、アルバイトが突然休む場合、旧来のコミュニケーションツールしかなければ、一人一人に電話やメールをして、穴埋めを依頼するしかありません。これでは必要以上に時間がかかってしまいます。ここに適切なツールを導入することで、一度のメッセージ送信で全員に連絡を送り、返事を受け取ることができるようになるのです。

ビジネスチャットなら個人アカウントを使わないので安心できる

ビジネスチャット少しでも時間の無駄をなくそうと、LINE を使う店舗が増えてきました。店長とつながった上で、グループに入れることで一斉送信も可能にしているようです。ところが、最近は個人アカウントで他人とつながることに抵抗を感じる人が増えています。また、店長とつながることは認めても、グループチャットに登録することを拒否するケースもあります。これはグループに登録することで、話したこともないアルバイトにもアカウントを知られてしまうからです。こうなると、強制的に登録させることはできません。

これらの問題は、ビジネスチャットを導入することで解決できます。専用アプリをアルバイトのスマホにインストールしてもらい、それを通じて連絡を取るのです。最近は、さまざまなアプリが活用されていますが、LINEのビジネス版モデル「LINE WORKS」のように、アルバイトでも抵抗なく使用できるものもあります。

複数の便利機能が情報伝達をスムーズにする

ビジネスチャットは単に1対1、1対多数のチャット機能があるだけではありません。掲示板を使った情報共有が簡単にできるようになったり、グループに送ったメッセージを誰が開封したのかをチェックしたり、カレンダー機能によるスケジュール共有などもできるようになります。また、ビデオ機能があればビデオミーティングが可能なほか、緊急時の状況説明を、映像を使って的確に行うなどより便利な使い方もできます。

近年の若い世代は、面と向かって話しをすることが苦手です。電話に至っては言葉を発することすら難しいという人もいます。そんな彼らが得意とするのはチャットによるテキストでのコミュニケーション。「聞いてみたいけどいつも忙しそうで聞くことができない」、「分からないことがあるけれど解決方法が見つからない」。そんなこともチャットを使うことで改善ができます。

トラブル発生時の早期対策が可能になる

また、LINEのように個人アカウント同士で連絡を取り合った場合、その内容を第三者が確認することはできません。そのため、何かのトラブルがあった時に状況把握は難しくなります。その点、ビジネスチャットを導入しておけば、そのやり取りを後から確認することが可能になります。これによりトラブルを予見したり、トラブルが起こっても早期に状況を把握し解決策を探ったりすることが可能になります。

ビジネスチャットは数多くのものが存在します。どうせなら店舗内のやり取りだけでなく、本部から各店舗への情報発信にも活用できるシステムを選択するとよいでしょう。

 

オペレーションの簡便化(オーダーエントリーシステムの変更)

アルバイトを即戦力化するには、オペレーションを変更することも重要です。たとえば、オーダーエントリーにハンディターミナルを持たせることがありますが、専用機器は使い慣れないために、顧客の前でもたつく原因になります。焦るほどにどうしてよいのか分からなくなり、困惑しているアルバイトを見たことがある人も多いはずです。その解決策として、 iPhone や iPod touch など普段から使い慣れたガジェットを使ったオーダーエントリーシステムを導入することで、抵抗感を軽減する方法があります

今の学生はデジタルネイティブと呼ばれ、幼いころからデジタル機器が身近にあった世代です。使い慣れたスマホを使うことで抵抗感を減らせれば、お客を気遣う余裕もでてくるでしょう。また、スマホを活用することでオーダーにメモを書くなど、これまでのハンディターミナルでは難しかった機能を持たせているものもあります。たとえば「poscube」がそれにあたり、他にもオーダー入力画面に写真を加えることで分かりやすくすることもできます。これであれば、文字を読むことに慣れていない外国人労働者でもスピーディな対応が可能となります。

オーダーエントリーシステムは他にもさまざまな機能をもっていることが普通で、コース料理をよりよいタイミングで提供するための機能などもあり、顧客満足につなげることができます。また、売上日報や時間帯分析といった売上管理に必要なデータ分析機能もあり、必要なデータを簡単に抽出することができます。これにより店長の負担を減らすことができ、空いた時間をアルバイト教育に使うこともできるでしょう。

人不足の店舗では店長自身の時間もなく、常に仕事に追われている状況です。これを改善しなければアルバイトが育たず、さらに店長も忙しくなるという悪循環を起こします。ここから脱するためにも、店長の時間の確保は欠かすことはできません。

 

まとめ

アルバイトの早期戦力化は、これからの飲食店の生き残りを左右する要件となります。人口減少が進む中、人不足が劇的に解消する見込みは少なく、流動性も高くなる環境では、採用したアルバイトを即戦力化することが重要となります。

そのために経営者がやるべきなのは、マニュアルの電子化やコミュニケーションツールの導入、オーダーエントリーシステムの変更など、コストをかけて大きな転換をするという決断です。環境を変えるには現場の努力だけでなく、経営者の英断が不可欠。この機会にアルバイトの即戦力化に役立つシステムの導入を検討してはいかがでしょうか。

 

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ライタープロフィール
原田 園子

兵庫県出身。  株式会社モスフードサービス、「月刊起業塾」「わたしのきれい」編集長を経てフリーライター、WEBディレクターとして活動中。


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