飲食店でのインバウンドの対策

数年前から話題となることが多くなったインバウンド(訪日外国人)対策。外国人旅行者が利用しやすい飲食店づくりをすることで売上を伸ばそうとするもので、実際に成功している事例が数々紹介されています。

訪日外国人数は右肩上がりに増えており、2020年のオリンピックに向け、ますます増加するのは確実です。これからはどの飲食店もインバウンド対策が不可欠と言ってもいいでしょう。

ここでは訪日外国人の動向を紹介しながら、外国人が利用しやすい店にするために何をするべきなのかを考えていきます。

 

 

訪日外国人2900万人のうち、和食を目的にする人は96%!

日本政府観光局(JNTO)が発行している『訪日旅行データハンドブック』2017年版によれば訪日外国人の「訪日旅行に関する期待内容」でもっとも回答数が多かったのは「日本食を食べること」でした。観光目的で日本を訪れた人の96.4%が回答しており、日本食への関心の高さがうかがえます。

参照:日本政府観光局「訪日外客数の動向」

本題に入る前に確認させていただきます。日本人が考えるいわゆる「和食」と、訪日外国人がイメージする「日本食」には大きな違いがあります。和食と言うと懐石や寿司、すき焼き、そばなどをイメージしますが、訪日外国人はトンカツや居酒屋料理、スイーツ、弁当なども含んでいると考えられます

では、訪日外国人数の推移を見ていきましょう。

訪日外国人が1000万人を超えたのが2013年。その後は右肩上がりに増え続け、2017年は約2900万人に達しました。訪日外国人は、わずか4年の間に約3倍に膨れ上がったのです。この数字をみるだけでも、彼らを魅了するメニュー開発や店作りをすることがいかに重要なことかがお分かりいただけるでしょう。



見失ってはいけない!求められるのは「おもてなし」とフレキシブル対応

 

言葉が通じなくても伝わる、おもてなしの心

東京オリンピック招致のプレゼンテーションで「お・も・て・な・し」という言葉が使われたことを覚えている人も多いでしょう。日本は昔から、お客をもてなすために細やかな配慮をしてきました。実際、飲食店やホテルなどで提供される日本のサービスレベルは世界でも評価が高く、これを体験したいと思っている外国人は非常に多くいます。

ところが、日本人のもうひとつの特性でもある「外国人とのコミュニケーションが苦手」という面が、せっかくのおもてなしを台無しにしているケースが多々あります。「英語が話せない」「相手の言っていることを理解できない」などの理由で必要以上に距離を置き、普段のサービスさえできなくなるのです。これは実にもったいないことです。

訪日外国人は、飲食店のスタッフが英語(またはその他の言語)を使ってあれこれと話すことができなくても、あまり問題視しません。そんなことより、言葉が通じなくても優しい笑顔と心のこもった接客をしてくれることを求めています。相手の立場になって考えるという基本姿勢があれば十分。この点を理解し、いつもと変わらぬ接客を心がけるようにしましょう。

 

ベジタリアンメニューを作るより、フレキシブルな対応の方が大切

国が違えばベースとなる文化が違います。日本に来たからといって変えられない生活習慣もあれば、日本と違いがあることに気がついていないことも多くあります。そのため、快適に飲食店を利用してもらうには、個別に対応するフレキシブルさが欠かせません。

例を挙げてみましょう。世界には「ベジタリアン」と呼ばれる人が一定数います。実は、ベジタリアンと一口に言っても、宗教的な理由、心情的なもの、アレルギーなど、その背景はさまざまです。そして、食べてよいものの範囲にも違いがでてきます。肉や魚に由来するものはすべて避けたいという人もいれば、乳製品や玉子は問題ない人もいます。はちみつを避ける人もいます。

訪日客のためにベジタリアンメニューを用意するのは素晴らしいことですが、そのメニューが全てのベジタリアンに対応できるということはありません。そのため、お客のニーズに合わせてフレキシブルに対応することが必要となります。

この考えをベースにすれば、必ずしもベジタリアンメニューがなくても対応が可能になります。肉や魚が食べられないというお客に対し、代わりの食材を使ったメニューを提供することができれば、ベジタリアンはじめ、さまざまな事情を抱える人にも満足してもらえます。イスラム教徒用のメニュー「ハラール」についても同じこと。優先すべきなのは、フレキシブルさなのです。

 

訪日外国人を増やすために準備すべきもの

ここからは、訪日外国人を増やすために準備するものを見ていきましょう。

 

英語表記のメニュー、または写真付きメニュー

準備すべきものの代表は英語表記のメニューでしょう。
英語は世界の標準語。英語を母国語としない人でも、英語を見れば何となくわかると言う人は多く、英語のメニューを用意するのは重要です。外国人が来店客の2割以上を占める場合は、最初から日本語と英語を併記したメニューを作成するのが無難です。また中国や韓国など、特定の国の人が集中的に来店する店舗の場合、その国の言語のメニューを用意すると来客数のさらなる増加が見込めます。

英語メニューを作成する場合、注意したいのが表記方法です。寿司やすき焼きのように、そのままローマ字表記すれば伝わるものもありますが、多くのメニューは商品名を書いても伝わりません。

たとえば「肉じゃが」は、ローマ字表記では「nikujyaga」と書きますが、これではどんな料理が出てくるのか分かりません。これを翻訳アプリなどで英訳すると「meat and potatoes」となりますが、素材名がかかれているだけで、やはりどんな料理なのか分かりません。もう少し分かりやすくしようと思えば、「Beef and potato stew」、または「Meat and vegetable stew with sweetened soy sauce」などと書く必要があります。

少しでも英語を理解できる人がいれば対応できることもありますが、どうしても難しい場合は別の方法を選択します。それが写真付きメニューです。百聞は一見に如かず。写真であればどのような食材が使用されているのかはある程度理解できます。その色味から味を予測することもできるでしょう。注文は指差しで確認すればいいので、注文を聞く時間も短くてすみます。写真付きメニューは双方にとって役に立つものとなります。

フリーWi-Fi

国を問わず、訪日外国人のほとんどがスマートフォンを持っています。また、Instagram などのSNSやブログが流行っているのは海外も同じ。旅行先では、さまざまな情報をタイムリーに発信したいと思っているのです。ただし、日本での通信手段を持っている人は少ないうえに、海外では店舗などにフリーWi-Fi があるのは一般的という国も多いため、Wi-Fiがないことを不親切だと感じる訪日外国人さえいます。

詳細は後述しますが、実際に利用したお客が SNS やブログで店のことを紹介してくれることは集客に直結します。そのためにも、その場ですぐに SNS で発信できる環境を整えておくことは欠かせないのです。

Wi-Fi は各店舗で用意するだけでなく、地域によっては自治体や団体などが設置を推進していることもありますので、一度調べてみるとよいでしょう。

クレジットカード決済

日本は安全な国だという認識が強いこともあり、日本円を持ち歩く訪日旅行者がほとんどです。ところが、現金が少なくなってくると注文を控えることもあるので、クレジットカード決済ができる環境を整えることは重要です。これにより、高額な注文をしてくれる可能性も高くなります。また、店頭などに「クレジットカード決済可能」という表示を出しておくことも大切です。

クレジットカード決済システムの導入はかなり簡便化されており、手数料も格安になっています。大型の機器を使わず、スマホやタブレットに小さなガジェットを差し込むだけでカード決済できるものや、手のひらサイズのカード決済専用機もあります。各店舗の状況に応じたものを選択してください。

また、レジシステムによっては、最初からクレジットカード決済をパッケージできるサービスもたくさんあります。レジシステムを変更する際には、この点も考慮したものを選ぶとよいでしょう。

 

飲食店におけるキャッシュレス決済の種類とメリット

ハラール、ベジタリアンへの対応

フレキシブルな対応ができれば、必ずしもベジタリアンメニューやハラール対応をしなくてもよいと書きました。ただし、明らかにイスラム教徒が多く来店する場合や、戦略的にベジタリアンメニューを用意して他店との差別化を図りたい場合は、準備を整えます。

ハラールをはじめとした宗教対応メニュー

最近よく耳にする「ハラール」対応メニューとは、イスラム法において食することが許されているものだけを使ったものです。ちなみに、許されていないものを「ハラーム」と言い、実際に定められているのはこちらの方。つまり、ハラームとして禁じられているもの以外は食べてよい「ハラール」になるのです。

イスラム教徒が多い国はインドネシアやパキスタン、インド、バングラディッシュなど。特にインドネシアやインドからの訪日客はここ数年で増加しており、日本国内でもヒジャブと呼ばれる布製の被り物をしている女性を見かけるようになりました。また、空港の中に礼拝室が設置されるなど、イスラム教徒を受け入れる体制が整っていることも訪日が増えている理由のひとつであり、今後ますます増加すると予測できます。

ハラールで代表的なのは「豚」を禁じていること。これは単に「豚肉を食べてはいけない」というだけでなく、そこから派生した全てが禁じられています。コラーゲンやゼラチンの原料に豚が使われていることもありますので注意が必要です。

また酒についても避ける人が多くいます。厳しい戒律を求める宗派であれば、発酵過程でアルコールが醸造される醤油や味噌も認めないこともあります。一方で、「海外旅行の時は少しぐらいルールをゆるめても神様は許してくれるよ」などという人もおり、ひとつの基準に納められるものではありません。

それでも戦略的にハラール対応をアピールする場合は、ハラール認証機関で認証を受けることを考えるとよいでしょう。国内にも認証機関は複数あります。ただし、店舗で販売している商品の一部にハラールメニューがあっても、同じキッチンで豚肉を使っていると認証を受けられないなど、認証機関によって基準が違いますので、事前に調べるようにしてください。

イスラム教のハラール以外にも 宗教的観点から食材を制限しているものがあります。例えばヒンドゥー教は殺生を禁じているので肉や魚を避けます。対応メニューを開発したいという時は、詳細を調べてみるとよいでしょう。

ベジタリアン、ヴィーガン対応メニュー

ベジタリアンは菜食主義者と呼ばれますが、その内容は細かく分かれており10種類ほどに分類することができます。さらに、ヴィーガンと呼ばれる人たちは、健康や美容、またはメンタルセルフの観点から肉や魚を食べないだけでなく、玉子、乳製品、はちみつも口にしない人もいます。

当然ながら、これらのすべてに対応できるメニューを用意するのは専門店でなければ困難です。また、厳しいルールを設けている人はホテルなどで事前にオーダーしておくか、日本にいても自炊して食べる人が多いため、あまり厳密な条件でメニュー化する必要はないとも言えます。

ベジタリアン向けのメニューを加えるのでれば、肉や魚を使わないメニューをいくつか用意しておき、後はお客からの要望に応じて食べられない食品があれば代替えのものにできることをアピールします。肉はダメだが魚はよい、肉・魚はダメだが卵は食べる。玉子はダメだがチーズなどの乳製品は食べるなど、細かなこだわりには個別で対応できるようにするとよいでしょう。

 

集客はWEBを活用。口コミで広がる工夫を

インバウンドの受け入れ体制が整ったら、次は集客を考えます。
観光庁の「訪日外国人消費動向調査(平成28年)」によると、訪日外国人が旅行前に参考にした情報源として一番多かったのはWEB。中でも最も多かったのは、個人のブログでした。実に3分の1の人が参照しており、日本政府観光局のホームページや旅行会社のホームページが20%程度しかないことを考えれば、多いことがわかります。

国によりますが、特に中国などでは公的機関が発表する情報より、個人発信の情報の方が信頼できるという感覚があり、ブログはもちろん SNS などを使って情報を収集する傾向が非常に強くなります。今、日本人もあまり知らないような地方の駅に、なぜか外国人がたくさん集まる密かな観光スポットが日本のあちこちに誕生しています。それらのきっかけは海外旅行者がたまたまそこを訪れ、それをブログなどで紹介したというケースがほとんどです。

ここで考えなければならないのは、発信者はあくまで訪日外国人個人だということ。自分の店舗を強引に紹介してもらったとしても高評価を得られることはありません。自然に紹介したくなるような状況を作らなければならないのです。

そこで重要となるのが Wi-Fi の完備。最近は動画配信をすることも簡単になっており、Wi-Fi環境を整えることで店内の様子や調理をしている様子などをライブ配信する人も多くなっています。

Wi-Fiを完備したら、パスワードなどを分かりやすく表示し誰でも気軽に利用できるようにします。また、「#tenmei」などとハッシュタグをつけてツイートしてくれたら特典をつける企画や、撮影用にはっぴや手ぬぐいなどの小道具を用意すると自主的に投稿してもらえる確率が上がります。

 

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まとめ

わずか4年で3倍に増加した訪日外国人は、東京オリンピックに向けさらに増えることが確実です。彼らを取り込むには、利用しやすい環境を整えながら、期待されるおもてなしやフレキシブルな対応をすることが大切です。英語メニューや写真付きメニュー、Wi-Fi 環境、クレジット決済などを準備したら、口コミで広がるような工夫をしていきます。日本人にはあまり知られていないような店舗でも外国人から圧倒的な人気を誇る店舗となることは十分可能です。2020年に向け、すぐにでも対策を練ることをおすすめします。

 

 


ライタープロフィール
原田 園子

兵庫県出身。  株式会社モスフードサービス、「月刊起業塾」「わたしのきれい」編集長を経てフリーライター、WEBディレクターとして活動中。


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