キャッシュレスでの支払い方法が注目されて久しくなりますが、治安上の問題が少ない日本は現金主義でした。ところが昨年、QRコードによる決済がスタートしたことや2020年の東京オリンピックに向けて政府がキャッシュレス決済を後押しし始めたことで、ついに日本にもキャッシュレス化の本格的な波が来ました。
飲食店においては、完全キャッシュレス店舗も登場。「現金を持ち歩くは面倒だ」という時代は、すぐ近くまで来ています。
飲食店にとってメリットも多いキャッシュレス。ここでは、飲食店においてキャッシュレス化を推進すべきポイントを整理してみます。
多様化するキャッシュレス、ウォレットレスの形態
まずは、現金決済以外にどのようなものがあるかを見ていきましょう。最近は、キャッシュレスと呼ばれる他、カードすら持つ必要がないことから「ウォレットレス」と呼ばれることもあります。
クレジットカード
クレジットカードは今や、ほとんどの人が持っていると言われています。プラスチックカードを使い決済するもので、長くキャッシュレス市場を支えてきました。また、近年はデビットカードも増えています。クレジットカードは使った金額を後から請求される(後払い)方式ですが、デビットカードは銀行口座にある自分の預貯金から即日引き落とされる方式となっています。管理がしやすいために使いすぎを防ぐことができ、信用情報に問題がある人でも持てるカードとしてニーズが高まっています。
電子マネー
電子マネーは、専用のプラスチックカードやスマホアプリに事前に金額をチャージして使用します。また、キャッシュカードと連携させることで、事前チャージしなくてもよいものもあります。「nanaco」や「WAON」など、ショッピングカードから派生したもの。「Suica」や「PASMO」などの交通系電子マネー。「iD」や「QUICPay」などのおサイフケータイ系など多岐に渡ります。
QRコード
QRコード決済はアジアの国々を中心に数年前から使われ始め、日本には昨年より導入された支払方式です。スマホアプリという点ではおサイフケータイと似ていますが、今まで必ず必要だった「店舗側が用意すべきカードリーダーなどの設備が不要」という点が大きな違いとなっています。店舗は決済用のQR コードを掲示しておくだけでよく、それをお客さん自身のスマホで読み込むことで決済が行える仕組みです。アジアでは、屋台でも導入しているほどの簡便なシステムで、Wifi環境さえあればレジすら不要。どんな店舗でも導入することが可能です。
(QRコード決済は、店舗がお客さんのバーコードを読み込む方式もあります)。
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世界に大きく後れを取っているキャッシュレス比率
世界に目を向けてみると、日本はキャッシュレス化が非常に遅れています。
もっとも進んでいると言われる韓国のキャッシュレス比率は9割以上。イギリスでは約7割、アメリカでは約半数となっています。一方、日本のキャッシュレス化は約2割にすぎません。
そこで、政府が発表した「未来投資戦略 2017」では、「10 年後(2027年)までにキャッシュレス決済比率を4割とする」ことが目標として掲げられ、そのための施策が打ち出されています。中でも、2020年のオリンピック・パラリンピック東京大会、2025年の大阪・関西万博の開催は大きな契機となるでしょう。また、2019年10月1日に予定されている消費税増税に合わせて、中小・小規模事業者と消費者の双方がキャッシュレス化を推進し、消費を後押しする施策も打ち出されました。これは経済産業省が「キャッシュレス・消費者還元事業」に関わる補助事業者を募集したもので、2019年3月で募集は締め切られましたが、同様の募集が今後もある可能性は十分あります。
北欧スウェーデンではICチップを体内に埋め込み、キャッシュレス決済や解錠に使っている人がすでに数千人いると言われています。また、インドでは高額紙幣が突然廃止されました。背景には治安の悪さやブラックマネー問題がありますが、問題解決のためにキャッシュレス化が必要であり、通信網がパンクするほどに増加しました。世界では、キャッシュレス化が主流になっているのは間違いありません。この流れは、もはや避けられないレベルまできているのです。
国内の飲食店におけるキャッシュレスの取り組み
では、国内の飲食店では、どのように取り組んでいるのでしょうか?
全体として見るとキャッシュレス化は浸透していないと感じる人も多いかも知れませんが、東京のビジネス街では、すでにキャッスレス決済ができるのは当たり前。中には、完全キャッシュレス化により、現金での決済を行わない飲食店も登場しています。
たとえば、グローバルダイニングが運営するタコス専門店『TACO FANATICO』がそのひとつです。また、カフェ&バー業態の『プロント』も完全キャッシュレス店舗をオープン。スタッフの作業を軽減したことで、少人数での営業ができるようオペレーションを見直し、2020年までに30店の出店を目指しています。
また、モバイルオーダー&ペイというシステムも実験導入が広がってきました。これは、スマホを使って事前注文と事前支払いを行うもので、『上島珈琲店大手町フィナンシャルシティ店』では、プラットフォームを導入しています。他にも、『マクドナルド』や『大戸屋』が一部店舗でテストを行っており、数年のうちに一気に広がるかも知れません。
さらに、ポイントシステムと連携し、顧客データを分析することに挑戦している飲食店もあります。人気メニューの内訳やお客さんの年齢や性別といった属性をデータ化し、マーケティング情報として取得しているのです。たとえば、ラーメン店などの外食チェーンを展開する幸楽苑ホールディングでは、『幸楽苑』全店舗で楽天ポイントカードと連携していますし、『スターバックス』はLINE Payを導入することを決めています。
キャッスレス化に伴う問題点と解決策
キャッシュレス化が便利であることを否定する人は、もはや存在しないでしょう。しかし、飲食店を経営する側から見れば、あまりメリットは大きくなく、デメリットと比較して導入を見送っていたところもあるのではないでしょうか?
ところが、これまでデメリットと考えられていたことが、さまざまな施策により、解消されているケースもあります。どのように変わっているかを見ていきましょう。
初期投資が必要
キャッスレス決済の導入には、POSレジシステムの変更、カードリーダーなどの購入といったイニシャルコストがかかっていました。ところが最近は、スマホに簡単なガジェットを取り付けるだけでカード決済できようになっています。POSレジシステムとの連携が簡便にできたり、独立したシステムとして無料で使用できたりしています。また、QRコード決済であれば、カードリーダーや専用システムの導入は必要ありません。これらをうまく活用することで、システム変更などのコストを最小に抑えて導入することが可能になります。
決済手数料が高い
決済手数料の高さから、導入を見送っていたところもあるでしょう。手数料は、3~5%が一般的であり、決して安い金額とは言えません。これに関しては、適切な価格となるよう行政が取り組む方向です。また、「LINE Pay」や「PayPay」など新しい決済システム事業者は、最長3年の間、決済手数料無料とするキャンペーンを実施しているため、将来的に導入するのなら、今導入するのが賢明だと言えるでしょう。
支払いサイクルが長く、手元に現金が入ってこない
売り上げがあっても、すぐに現金化されないという点は、店舗にとっては大きな導入の妨げになります。決済方法や事業者によって違いはありますが、振込みが月に1回、または2回で、手数料も必要となると、導入に二の足を踏むのは当然かもしれません。
しかし、最近は、提携銀行を使えば翌日に入金され、さらに手数料も不要といった楽天Payなども登場していますので、上手に活用することで、今までと変わらないサイクルを実現することも可能です。
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キャッシュレス化導入による飲食店のメリット
では次に、飲食店がキャッシュレス化に取り組むメリットを見てみましょう。
現金管理に関連する作業がなくなる
まず一つ目として上げたいのは、現金管理にまつわる作業がなくなることによる生産性の向上です。現金を扱うということは、お客さんとの金銭のやり取りに時間がかかるだけでなく、現金チェックなどの管理作業も必要となります。レジ締め作業はもちろん、大きな店舗であれば1日に何度も現金チェック(現金在高のレジ数値と実際の現金が合致しているかを確認する作業)が行われているでしょう。
この作業はマネージャーや店長が担当することが多く、彼らが実務から抜けてしまうことによる生産性の低下やサービスレベルの低下は大きくなります。キャッシュレス化の実現や現金決済の減少により、これらの時間をなくしたり短縮したりできるわけですから、大きなメリットと言えるでしょう。また、人不足に耐えられるオペレーションという観点からも意味深いものと言えます。
衛生面のリスクが減る
小規模な店舗なら、経費管理が簡便になる
個人店や小規模な飲食店では、毎日、日銭が入ってきます。日々経費管理ができればよいのですが、つい気が大きくなって使ってしまい、最終的に支払いができないということが少なくありません。たとえば家賃や食材仕入れの売掛金は月に1度と言うことが多く、税金の支払いは年に一度です。日銭が入る一方で、まとまったお金は入ってこないのが飲食店。そのため、毎日の収益を把握しにくい現金でのやりとりではなく、ある程度まとめて振り込まれることで収支が把握しやすくするというわけです。最近は、会計システムと銀行口座を連携させることにより自動記載し、経費管理が楽にできるものもあります。これらを導入することで、健全な経営が可能となるケースは決して少なくないのです。
まとめ
今後、キャッシュレス化に関して、どのようなシステムが、どれくらい増えるかは誰にも分かりません。ただし、キャッシュレス化の流れが止まり、再び現金主義となることは考えにくく、手段はどうであれ、ますます進んでいくことでしょう。すでに、町ぐるみでキャッシュレス化を推進したり、国が事業者と消費者を後押ししたりする時代になっています。
日本国内は慢性的な人手不足に陥っており、社会としてキャッシュレス化を進め、生産性を高めるのは飲食店が生き残っていくのに欠かせない条件です。「もう少し様子を見てから」と考えているようでは手遅れになってしまいます。導入に踏み切ったときには、機会ロスが増えていたということにも成りかねませんので、この機会にできるだけ早い導入に踏み切るようにしてはいかがでしょうか。
<関連リンク>
poscube クレジットカード・キャッシュレス決済連携
ライタープロフィール
原田 園子
兵庫県出身。 株式会社モスフードサービス、「月刊起業塾」「わたしのきれい」編集長を経てフリーライター、WEBディレクターとして活動中。
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