レストランロボットはアメリカの飲食店をどう変えるか?

新型コロナウィルス・パンデミックの直撃弾を受け、アメリカの飲食店が苦境に喘いでいる。パンデミックが始まった2020年2月から今日までに、全米の約11万の飲食店が廃業に追い込まれた。そうした中、レストランロボットを導入し、オペレーティングコストを下げ、従業員に安全な労働環境を提供しようという機運が高まっている。レストランロボットはアメリカの飲食店をどう変えるのか、検証する。

 

ロボット導入店を10店舗新規開設するハンバーガーレストランチェーン

オハイオ州コロンバスに拠点を置くハンバーガーレストランチェーンのホワイトキャッスルは1921年設立の老舗だ。アメリカ国産牛肉をふんだんに使ったハンバーガー「ザ・スライダー」を看板商品に、これまでに全米365店を運営するまでに拡大している。そのホワイトキャッスルが、料理ロボット「フリッピー」を導入し、話題になっている。

ホワイトキャッスルに導入されたフリッピー

フリッピーは、ロサンゼルスのスタートアップ企業ミソ・ロボティクスが開発した料理ロボットだ。フリッピーは飲食店の業態やメニューに合わせてカスタマイズされるが、ホワイトキャッスルに導入されたフリッピーはハンバーグと揚げ物の調理を担当している。フリッピーは単にハンバーグをグリルしフライドポテトやオニオンリングを揚げるだけでなく、スマートフォンの注文アプリとも連動している。お客がスマートフォンで注文すると、フリッピーは直ちに調理を開始する。また、在庫管理機能も有していて、食材の在庫が少なくなると発注をレコメンドしてくれる。ホワイトキャッスルは、フリッピーのパイロットプログラムを良好と判断し、来年度中に新たに10店舗でフリッピーを導入するとしている。

進化を続けるレストランロボット

ミソ・ロボティクスによると、フリッピーは現在、ハンバーグやフライドポテトなどの比較的簡単な料理を17種類作れるという。また、フリッピーは今もなお学習を続けていて、いずれはステーキやソテーなどのより複雑な料理も作れるようになるという。さらにミソ・ロボティクスの共同創業者バック・ジョーダン氏は、今から五年後にはロボットによりすべての作業が行われる「完全無人のロボットレストラン」が登場すると予言している。

ジョーダン氏は「五年後には、ロボットが自己完結的に運営する完全無人レストランが登場するでしょう。サイズはちょうどシッピングコンテナー位で、これまでのレストランよりもはるかに小さなものになるでしょう。業界全体と飲食業のビジネスモデルを完全に変えることになるかもしれません」と説明している。

ジョーダン氏が予言する五年後に登場するロボットレストランは、現在急速に普及しつつあるゴーストキッチンとある種方向性が一致している。いずれもオペレーションのスペースを最小化し、人の関与を限りなく少なくする点が同じだ。オーダーをオンラインで受け付け、デリバリーは外部のデリバリー企業に委託する点も同じだ。ロボットレストランは、ゴーストキッチンの最終進化系の一種と言ってもいいかもしれない


レストランロボットへの投資はペイするか?

ところで、飲食店にとってレストランロボットへの投資はペイするだろうか。ミソ・ロボティクスによると、標準的なフリッピー一台の導入コストは3万ドル(約315万円)で、リースの場合は月額2000ドル(約21万円)だという。ある人材紹介会社の調査によると、アメリカの飲食業のキッチンスタッフの平均給与は月額2028ドル(約21万3千円)なので、仮にフリッピー一台が人間のキッチンスタッフ一人を完全にリプレースできたとしても、リースと比較した場合、現在のコストはやや割高だとせざるを得ないだろう。

フリッピー導入店舗例

そのことはミソ・ロボティクスも理解しているようで、同社は現在、フリッピーの運用コストを下げる努力をしているという。仮にフリッピーのリース料が現在の半分程度に下げられた場合、フリッピーを導入する機運はさらに高まるだろう。特にファーストフードレストランのようにキッチンスタッフの給与が比較的安い現場においては、フリッピーの導入が一気に進む可能性もある。

ロボットカフェは事業撤退へ

一方で、レストランロボットに関しては残念なニュースも報じられている。「サンフランシスコにロボットカフェが登場、カフェ業界をどう変える? 」という記事で紹介させていただいたカフェXが、現在までに市内の三店舗をすべて閉鎖し、2019年に開設したばかりのサンフランシスコ空港店とサンノゼ空港店の二店舗を休止したという。新型コロナウィルスのパンデミックにより、サンフランシスコはアメリカで初めてロックダウンを実施した都市となったが、もぬけの殻となったサンフランシスコではビジネスが出来なくなってしまったようだ。

カフェロボット

カフェXのロボットは1時間に120杯のドリンクを製造でき、人間のバリスタの能力を大きく上回るとしていたが、お客が来ないのではそもそも話にならない。カフェXも、他の多くの飲食店と同様に、コロナのパンデミックの被害者となってしまった。

アフターコロナのレストランロボット

ところで、ホワイトキャッスルによると、フリッピーを導入したことでキッチンスタッフの負担を減らせたばかりか、同時にキッチンでのソーシャルディスタンスを確保するという二次的な効果も得られたという。飲食店でのコロナのクラスター発生を抑えるために、店内でも従業員同士やお客とのソーシャルディスタンスの確保が推奨されているが、キッチンの中央にフリッピーを設置したことで結果的にキッチンスタッフのポジションが分離されたという。

フリッピーを導入したことが結果としてコロナ対策になったわけだが、コロナがあってもなくても、さらにはコロナのパンデミックがある程度収束した後も、アメリカの飲食店におけるレストランロボット導入の機運はさらに高まってゆくだろう。

そして、現在は受注、調理、在庫管理などの機能を提供しているレストランロボットは、今後は仕入れやマーケティングなどの、より高度な経営機能も身に着けて行くだろう。もしかしたらAIを搭載したレストランロボットが、お客一人ひとりの個性や好みに合わせて最適化した料理をお任せで作ってくれるようにもなるかも知れない。フリッピーの登場は、アメリカの飲食業界がインダストリーズ4.0化を始めたことのシンボリックな例なのかも知れない。

 

[ 関連記事 ]

 

参考URL:
https://www.restaurantdive.com/news/white-castle-is-bringing-flippy-the-robot-to-10-more-restaurants/587832/

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。