最低賃金アップの影響?ロサンゼルス近郊の街に「ロボットバーガーレストラン」がオープン

カリフォルニア州のファストフードレストラン従業員の最低賃金が、2024年4月1日から時給20ドル(約3000円)に引き上げられる。最低賃金引き上げを受け、州内の主要ファストフードレストランでは価格の値上げを行うなど対応を余儀なくされている。一方、ロサンゼルス近郊の街パサデナに、ロボットが接客と調理を行う「ロボットバーガーレストラン」がオープンし話題になっている。「ロボットバーガーレストラン」とはどのようなレストランか、現況をお伝えする。

カリフォルニア州のファストフードレストラン従業員の最低賃金が引き上げ

労働者の最低賃金が全米最高クラスに高いことで知られるカリフォルニア州で、州内の主要ファストフードレストラン従業員の最低賃金が1時間20ドルに引き上げられる。現時点の最低賃金が16.60ドル(約2490円)なので、3.40ドル(約510円)の引き上げとなり、アメリカ最高を更新する水準となる。ファストフードレストラン従業員にとっては喜ばしいことだが、彼・彼女らを雇用する雇用主にとっては頭が痛いことだろう。

人件費の上昇を危惧するファストフードレストランの中には、2024年4月1日の引き上げ実施を前に、一部のデリバリースタッフをレイオフしたり、価格の値上げで対応したりするところが出始めている。しかし、ただでさえ物価が高いカリフォルニア州においては、メニュー価格の値上げは客足をさらに遠退けさせる「悪手」だとする意見が少なくない。そうした中、人間のスタッフではなくロボットが注文受付や調理などのオペレーションを行う「ロボットバーガーレストラン」がロサンゼルス近郊の街パサデナにオープンし、現地で話題になっている。

ロサンゼルス近郊の街パサデナにオープンした「ロボットバーガーレストラン」

「ロボットバーガーレストラン」カリエクスプレス(CaliExpress)は、パサデナの目抜き通りマディソンアベニューに面したハンバーガーレストランだ。一見するとどこにでもある普通のハンバーガーレストランだが、店の主なオペレーションをロボットやAIが行う世界初の「ロボットレストラン」だ。カリエクスプレスの立上げメンバーでもあるレストランロボットメーカーのミソ・ロボティクスのリッチ・ハルCEOによると、カリエクスプレスは、「注文受付から調理、会計までの主なオペレーションをロボットが行う、世界初のロボットレストラン」だ。

確かに、ハンバーガーレストランやピザレストランなどを中心に、調理用ロボットを導入する機運がカリフォルニアで高まってきているが、多くの店では主なオペレーションを人間が行い、ロボットは調理や接客などの部分的業務をアシストする存在だった。カリエクスプレスでは、主なオペレーションをロボットやAIが行い、人間はバックエンド業務などのロボットができない業務をアシストする。これまでの飲食店における人間とロボットの関係を完全に逆転させているところが画期的なのだ。

注文はキオスク端末で受付、主要な工程はロボットが担当

カリエクスプレスでは、注文はカウンターに設置されたキオスク端末で行う。注文はキオスク端末に加えて、スマートフォンなどのリモートオーダリングで行うことも可能だ。メニューは「ハンバーガー」「チーズバーガー」「レタスラップ」と「フレンチフライ」のシンプルな構成で、いずれも注文を受けてからロボットが調理を開始する。ハンバーガーの場合、ハンバーガーのパティをロボットがグリルし、それを人間のスタッフがバンや野菜の上に乗せてパッキングし、お客へ手渡す。フレンチフライも、ポテトを油で揚げるという調理の工程をロボットが行い、揚がったポテトは人間のスタッフがパッキングしてお客に手渡している。

カリエクスプレスでは、ハンバーガーやフレンチフライをつくるすべての工程をロボットが担当しているわけではなく、あくまでも主要な工程をロボットが行っているのだが、カリエクスプレスの店長によると、調理ロボットの導入コストと運用コストは「正社員の調理スタッフを数人フルタイムで雇用するよりも安い」そうで、「例えば調理スタッフを含めて12-3人で行っていたハンバーガーレストランのオペレーションを、3-4人程度にまで削減することが可能」だ。高騰する人件費を削減しオペレーティングコスト全体を下げるという多くの飲食店が直面している経営課題を、カリエクスプレスのロボットが解決できる可能性を十分に示していると言っていいだろう。

飲食店へのロボット導入がブームに?

実際に、従業員の最低賃金引き上げを間近に控えた多くのカリフォルニア州のファストフードレストランでは、ハンバーガーロボットなどを導入する機運が着実に高まってきている。ミソ・ロボティクスのハルCEOは、特にカリフォルニア州のファストフードレストランにおけるロボット需要の高まりについて、「QSR(Quick Service Restaurant)のオーナー達は、現在進行中の(人件費高騰という)雇用問題にまさに直面しています。彼らは雇用問題という大きなプレッシャーを抱えており、その解決策を求めているのです」と説明し、自社の調理ロボットへの需要が大きく増加していることを示唆している。

カリフォルニア州においては、ファストフードレストラン従業員の最低賃金引上げという現実に対応するかたちで飲食店におけるロボット導入の機運が高まっている。カリフォルニア州を含むアメリカの主要州においては今後、特に調理ロボットの導入が急速に進んでゆく可能性が高いだろう。
かつては人間が手作業で自動車を組み立てていた自動車工場のアセンブリーの現場が、いつの間にかロボットに置き換わったように、飲食店、特にQSRと呼ばれる飲食店の調理現場において人間からロボットへ置き換わる。そんなパラダイムシフトの歴史的瞬間を、アメリカの飲食業界は迎えているのかも知れない。

 

関連サイト
https://misorobotics.com/caliexpress/
https://www.restaurantbusinessonline.com/technology/miso-robotics-believes-it-will-put-its-flippy-robot-everywhere
https://www.nasdaq.com/articles/miso-robotics-stock:-is-an-ipo-coming-soon