飲食店にも広がるフードテック。注目される背景や実例を紹介

「フードテック」という言葉を聞いたことはあるでしょうか?
これは、「Food」と「Technology」を合わせた言葉。最新テクノロジーを活用することで、単に便利になるだけでなく、食に関する社会課題を解決できると注目を浴びています。
ここで紹介するのは、食に関することであるため、飲食店が担う部分も大きいからです。また、意識していなくても、すでに活用しているケースも多くあります。
今回は、飲食店とフードテックについて考えます。

フードテックとは?

フードテックとか、テクノロジーと聞くと、なんだか難しそうと感じる人も多いかと思います。ですが、具体的に知ってみると、「それなら、すでに取り組んでいる」ということも多いもの。

それもそのはず。フードテックは食糧生産や流通、外食産業など、多くの領域ですでに導入・活用されているからです。

フードテックは一般的に、AIやIoTなど最先端のテクノロジーを駆使し、食に関する問題を解決しようというもの。そもそも食は、人の命の基本となる部分ですから、すべての人にとって関係ないはずはありません。

つまり、フードテックを通じて、食の可能性を大きく広げていくものと考えれば興味が沸いてくるのではないでしょうか?

なぜフードテックが注目されているのか?

フードテックが注目されている理由のひとつに、SDGsとの深い関わりがあることがあげられます。飲食店の食材の中には輸入製品も多く、実は世界の動向や社会貢献を無視できません。

SDGsとは、2015年の国連サミットで採択された「持続可能な開発目標」のこと。17のゴール・169のターゲットから構成されています。世界的なものなので、日本では今ひとつピンと来ないものもありますが、一方で、関係が深そうなものもあります。

特に、「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」などは、フードテックによって解決につながると期待されています。

飲食店とフードテック

ではここから、飲食店の取り組みの中に、フードテックが活用されている例を挙げていきます。

フードロス

フードロス(食品ロス)は、近年、とくに注目度が高くなっています。特に日本では、まだ食べられるのに、廃棄されてしまう食品が多いと言われています。

また、フードロスを減らすことは、環境問題にも貢献できます。ロスは廃棄され、多くは燃焼されるわけですが、こうなると温室効果ガスが排出されます。店舗ごとの影響は微々たるものですが、小さな取り組みを積み重ねることで大きな影響につながることを考えれば、軽視はできないはずです。

フードロスは、家庭からよりも飲食店や小売店から排出されるものが圧倒的に多量です。もちろん、フードロスをなくすために賞味期限切れのものを売ってよいという意味ではありません。ですが、もっと早い段階、つまりまだまだ食べられるタイミングで、フードロス改善に取り組む方法があります。

このジャンルにはフードテックが活用され、売れ残りそうな食品を安価で販売するサービスが登場。いくつかの店舗が組んで、売れ残りそうな商品を早めに、安価で販売する取り組みが注目されています。

また飲食店では、無駄な食材を買わない、作らない、作ったら売り切るといった取り組みも必要となります。中には、お客の意識改革が必要な部分もあると思いますが、食品を提供する飲食店側が取り組める部分もあるはずです。

これについては、自動発注システムを活用し、売り上げ予想などのデータを活用する方法が有効です。

世界に目を向ければ、冷蔵庫に設置されたカメラを通して消費期限・賞味期限が近くなった食材を自動認識して知らせるもの。さらに進んだものは、それらの食材を使ったレシピを提案する機能を搭載しているものもあります。

とはいえ、「フードロスが環境問題に・・・」とか、「世界の飢餓に・・・」などと大きなことを言っても、ピンと来ない人も多いもの。そうであるなら、マーケティングの一環と捉えるのも有効かもしれません。

「当店はフードロスの問題に積極的に取り組んでいます」とすれば、多くのお客が好意的に受け止めてくれるでしょう。フードロスを単なるムダの廃除とするのではなく、もっと大きな枠組みで考えるようにしてください。

食の安全性に関する問題

飲食店では、お客に提供するメニューは、生産・流通・調理・販売というプロセスを経ています。このいずれかのプロセスで問題が生じれば、事故が起こります。

例えば、最近起きた事例を挙げれば、青森で明治時代に創業した「吉田屋」で製造したお弁当が食中毒を起こしました。駅弁だったため、被害者が日本中に広がったことでも大きく報道されました。

この事件は、弁当製造業者だけに問題があったわけではなく、委託を受けて米飯を納品していた業者が食中毒の原因となった可能性も指摘されました。ですが、矢面にたって責任を負うのは、最終工程を行った店舗(業者)です。

一度事故を起こすと、信頼失墜による損害が生じますし、さらに風評被害へ発展するケースもあります。これにより、経営が立ち行かなくなった例もあるので、食の安心・安全への取り組みが求められています。

では、この部分に取り入れるテクノロジーは、どのようなものがあるでしょうか?

例えば、製造段階で食品の腐敗や異物混入などを防ぐものがあります。飲食店での導入は費用がかかりすぎますが、このような取り組みをしている業者から仕入れを行うことで、安心して使用できるはず。

価格優先で仕入れ先を選ぶのではなく、一歩踏み込んだ選択を行うことが、自分の店舗経営を強固なものにするわけです。

食糧生産

食材の出所を探って行けば、農業や漁業、畜産など、生産にはじまっています。この分野は、多くのフードテックが取り入れられています。「スマート農業」や「アグリテック(AgriTech)」などという言葉を聞いたことはないでしょうか?

例えば、温室栽培にセンサーとAIを活用し、温度や湿度を管理。常に最適な状態を保つことで生産量を上げ、収穫時期をコントロールします。また、トラクターの自動運転を行う取り組みも試されています。これらにより、後継者不足や高齢化が顕著な農家の負担軽減や効率化、農作物の品質向上に取り組んでいるのですから、すばらしいことです。

もちろん、店舗だけに意識をむけると生産には意識がいかないかもしれません。ですが、安全な食材を仕入れるだけでなく、「アグリテックで栽培された食品を使用している」などとアピールすることもできます。

もっと視野を広げれば、露地栽培される野菜などは、天候の影響によって収穫量が左右され、年に何度も価格が高騰します。フードテックは工場生産に近いもので、自然災害による収穫量の減少を避け、安定した収穫を目指せます。こうなると飲食店へ与える影響も大きくなってきます。

また、漁業についても、フードテックを使った養殖を行っているところが増えています。中でも、「陸上養殖」が注目を集めています。本来であれば、海や湖などで繁殖する魚介類を、工場など、陸上の人工的な環境で養殖する方法です。

飼育環境が安定しているため、自然環境に左右されず、生産性の向上にもつながっています。また、海洋汚染などの環境負荷も軽減できることから、これからのますますの発展が期待されるところです。

人口が減少する日本では、一次産業の担い手が減少します。このようなところでは、農業用ロボットを活用することで、人材不足を解消できる可能性もあります。

代替食品

フードテックにより、急激に進んだといわれることのひとつに、代替食品があります。たとえば、人工肉や培養肉など。世界の人口増加によって肉の供給が追い付かなくなったときに対応できるのではないかと言われています。

人工肉は動物性原料を使わず、植物由来の成分で作ったもの。大豆で代用した大豆ミートや小麦を原料としたグルテンミートなどが有名です。食材の味わいを重視する日本食ではまだまだ改善の余地がありそうですが、料理によってはあまり違和感がなくなってきています。

また、代替食品をつかうことで、動物性の食材を避けている人も食べられるなど、新たな顧客開拓の可能性があります。

培養肉は、動物の細胞を培養して作られた肉のこと。この分野は、研究が本格化して間がないことから、まだ開発途上ですが、フードテックを活用したことで味が上がり、大量生産にも役立つと言われています。

実は家畜の飼育は、森林破壊や水質汚染など、さまざまな環境問題につながっていると言われています。つまり、代替食品の肉が増えれば、環境負荷の高い家畜の生産を減らすことができます。また、感染拡大防止にも役立ち、畜産農家の負担も減ることが期待されています。

仕入れ

近年大きく変わったもののひとつに、仕入れがあります。以前は、生産者と購買者をつなぐ手段がなかったために、契約するには一定量を仕入れなければなりませんでした。しかし今は、テクノロジーの導入により、直接売買ができるようになり、少量でも仕入れることが可能となりました。

このとき、主に使われているのがECサイトです。生産者がインターネット上に店舗を開き、受注から決済、発送までを行っているところも多くあります。飲食店用には、それぞれの店舗用にオリジナルの発注画面を作り、発注業務が簡単に行えるなど、非常に便利になっています。

また、テクノロジーの導入により、発注から納品のタイムラグが非常に短くなった例もあります。筆者が取引している酒屋では、10年ほど前は最短半日(午前に注文すれば夕方納品)だったのが、ネットを介して注文すれば、1時間ほどで納品可能になりました。

宴会などで、特定のアルコールに注文が集中しても、すぐに納品されるので、非常に重宝しています。

デリバリーサービス

飲食店で取り組んでいるところも多いフードデリバリーサービス。これもフードテックが進んだからこそ発展したサービスです。

お客がパソコンやスマートフォンなどを使って注文するアプリはもちろん、ドライバーが注文者へ料理を届ける際、効果的に人員配置を行うのも、配達の道順を表示させるのもテクノロジーがあってこそ。販促やドライバーへの支払いもすべて、テクノロジーが深く関わっています。

調理

調理のジャンルでも、フードテックが導入されています。

筆者は最近、スチームコンベクションオーブンを購入したのですが、見た目はそれほど変わっていないのに、機能が大きく進化していて驚きました。これもフードテックの例です。

表面温度だけでなく、中心温を図るのも簡単になりましたし、調理状況がわかるようになったので、安心して調理できます。また、誰でも調理できるように設定されたオート調理機能や庫内洗浄機能も全自動になっていて、衛生状態を保つのも簡便になりました。

また、人件費削減に貢献するものとして、フードロボットの導入もあります。チェーンに導入されているチャーハン製造機など、そのフライパンさばきには見とれるほどです。ほかにも、ロボットを使って、盛り付けや配膳の自動化なども行えます。

また、現段階では家庭用の調理家電に限られていますが、冷蔵庫とスマホを連携して、在庫管理ができる機能が登場しています。しかも、継続的に活用することでデータが蓄積され、食材消費のペースをつかむことが可能になっています。こうなると、食品ロスが減りそうです。

「分子ガストロノミー」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?

これは、フードテックの最たる例です。調理を物理的、化学的に解析した科学的学問分野のことで、これを活用することにより、これまで味わったことのない風味を楽しめたり、新しい食感などを体験できるようになると期待されています。

すでに、分子ガストロミーの理論を活用し、五感で味わうレストランを銘打った店舗がいくつか登場しています。

受注

身近な存在になりつつあるモバイルオーダーもフードテックの代表です。

人件費高騰と人材不足という2つの問題を解消する手として注目を浴びましたが、お客にとっても、手軽に注文できる点や多言語対応など、ありがたい存在と捉えられています。

お客自身が注文するシステムとしては、最初はテーブルにタブレットなどを設置するのが基本でしたが、最近はお客のスマホをつかい、WEB経由で注文してもらうモバイルオーダーが増えています。

端末の購入も管理もなく、お客としても自分が使っているスマホを使えることから抵抗感がありません。これからはますます増えていくでしょう。

まとめ

飲食店とフードテックについて解説しました。
意外に身近なものだったと感じた方も多かったのではないでしょうか?

フードテックは、これからますます広がっていくものであり、すべての人にとって重要な意味を持つものです。単に恩恵を受けるだけでなく、食を提供する者として、フードテックを改めて意識するのも面白いもの。

また、食の情報を早くキャッチすることで、新たなビジネスチャンスが見つかるかも知れません。この機会に、一度、フードテックについて深く考えてみることをおすすめします。