全米各地にある飲食店の名物料理をデリバリーするビジネスモデルとは

ドアダッシュやUber Eatsなどのフードデリバリーサービスが台頭し、飲食業界の新たなセクターとしての地位を確立しつつある。多くの業者がひしめくフードデリバリー業界において、ローカルではなく遠距離のデリバリーに特化して独自のポジションを固めているある企業が注目されている。ゴールドベリーという企業と、そのビジネスモデルをご紹介する。

ゴールドベリーというスタートアップ企業

ゴールドベリー(Goldbelly)は、2013年に起業家ジョー・アリエル(Joe Ariel)がサンフランシスコに設立したスタートアップ企業だ。アリエルを含む4人の創業メンバーが立ち上げたゴールドベリーには創業当初より大手インキュベーター(ベンチャー育成機関)のYコンビネーターが参加し、創業年の2013年だけでインテルキャピタルなどが300万ドル(約4億1100万円)のシードマネーを供給している。

GOLD BELLY 公式サイト

その後、本社をニューヨークへ移した2018年にシリーズB投資で2000万ドル(約27億4000万円)を、2021年には別のラウンドで1億ドル(約137億円)を調達し、フードテック企業としては珍しい本格的大型ベンチャー企業として注目を集めるようになった。

ローカルのデリバリーではなく、遠距離のデリバリーを提供

投資家の関心と注目を集めるゴールドベリーだが、そのビジネスモデルは至ってシンプルだ。ゴールドベリーは、自らのミッションを「アメリカでもっとも伝説的でアイコニックな料理とギフトを全米の家庭に直接デリバリーすること」と定義している。アイコニックとは「誰にもわかりやすい象徴的な存在」という意味だが、アメリカの各地には伝説的でアイコニックな料理を提供するレストランが多数存在している。

地元民や旅行客に愛され、特に遠方からその料理を求めてやってくるレストランは地元の誇りであり、旅行客にとっては「旅をする理由」だ。「その店の料理を味わうためだけに旅行する価値がある店」とされ、地元を象徴する伝統料理を出す店だ。そのような魅力溢れるアイコニックな料理を、パソコンやスマートフォンで簡単に注文できる仕組みをゴールドベリーは提供している

アメリカにも存在する各地の「名物料理」

GOLD BELLY メニュー例

アメリカを訪れたことがない日本人の多くは、アメリカにも日本と同様に各地に「名物料理」が存在していることを知らない。例えば、イリノイ州シカゴの「シカゴピザ」、メーン州の「ロブスターロール」、マサチューセッツ州ボストンの「クラムチャウダー」、テネシー州ナッシュビルの「ホットチキンサンドウィッチ」、ニューヨーク州ニューヨークの「パストラミサンドウィッチ」、メリーランド州ボルチモアの「クラブケーキ」、フロリダ州キーウェストの「キーライムパイ」、ルイジアナ州ニューオリンズの「ガンボ」等々だ。

日本にも各地に名物料理が存在し、地方と名物料理とを連想することができるが、アメリカもほぼ同様に、それぞれの地方を直ちに想起できる名物料理が少なからず存在している。ゴールドベリーは、そのようなアメリカのアイコニックな料理を家庭にデリバリーし、飛行機に乗ってわざわざ旅行することなしに家族そろって味わうことを可能にしている。「食体験のための旅行の疑似体験」を提供することが、ゴールドベリーのビジネスの要諦であろう

料理の発送は飲食店が

ところで、ゴールドベリーでは料理の発送は各飲食店が行うのが基本となっている。Uber Eatsやドアダッシュなどと違い、スタッフが店に料理を取りに行くのではなく、それぞれの料理に最適にデザインされたコンテナーに店が直接料理を納め、FEDEXかUPSで発送する。そこが一般的な「デリバリーサービス」とは違うのだが、業界関係者の中には、ゴールドベリーは「フードデリバリー企業」ではなく、「フードマーケットプレース企業」であるとしている人もいる。

料理のほとんどは冷凍処理され、受け取った消費者がそれぞれ自宅のオーブンや電子レンジなどで加熱・調理する「ミールキット」という仕組みになっている。注文単位は1家庭分がほとんどで、多くは4人前から6人前で1セットとなっている。価格は他のデリバリーサービスと比較して高めで、1セットあたり100ドル(約1万3700円)から200ドル(約2万7400円)程度となっている。例えば、メーン州マックルーンズ・ロブスターシャックの「ロブスターロール」6パック入り1セットが184.95ドル(約2万5338円)、イリノイ州シカゴのマイ・ピ・ピザの「シカゴピザ」4パック入り1セットが139.95ドル(約1万9173円)といった具合だ。ゴールドベリーが低価格戦略ではなく、高付加価値戦略を採用していることがよくわかる。

日本でも展開可能なビジネスモデル

GOLD BELLY 公式サイトの名物料理一覧ページ

ところで、ゴールドベリーの収益モデルだが、他のフードデリバリー企業と同様、売上から一定のフィーを徴収するフィービジネスモデルとなっているようだ。フィーの料率などは公開されていないが、ある関係者は、ゴールドベリーは「相応のパーセンテージ」を徴収していると見ている。

これまでに全米50州の850店の飲食店がゴールドベリーに参加し、それぞれのアイコニックな料理を提供している。ゴールドベリーへ参加する飲食店の数は新型コロナウィルスのパンデミック開始後大幅に増加し、400店が新たにゴールドベリーに加わったという。また、ゴールドベリーには、別の記事で紹介したニューヨークの名店「モモフク・グループ」も最近参加している。「モモフク・グループ」創業者のデービッド・チャン氏はゴールドベリーについて、「太平洋で採れたキングサーモンの料理と、中南部名物のピザを同時に楽しむことができる。ゴールドベリーは市場を独占する初期のステージに立っている」と評価している。

アイコニックな名物料理に特化し、高付加価値を提供するというゴールドベリーのビジネスモデルは、日本でも展開可能であることは間違いないだろう。日本には、アメリカ以上のアイコニックな名物料理が存在しており、国土面積もアメリカより大分小さい。物流インフラも決済インフラも整っていて、ゴールドベリーのビジネスが花を咲かせるには理想的な場所であると言える。Uber Eatsやドアダッシュがすでに日本でビジネスを開始し、それなりのポジションを獲得しているが、ゴールドベリーが日本でビジネスを始める可能性は十分にあるだろう。ゴールドベリーの今後の動きに注目したい。

参考URL:
https://www.cnbc.com/2022/06/03/how-goldbelly-landed-a-million-new-customers-during-the-pandemic.html
https://www.smithsonianmag.com/travel/the-20-most-iconic-food-destinations-across-america-24768503/