飲食店には、さまざまな指標があります。中でも重要なのは、「FLコスト」と呼ばれる食材費と人件費を足したもの。なぜ最近、FLコストの注目度が上がっているのか。なぜこの2つを合わせて管理しなければならないのか。変わりゆく飲食店を取り巻く環境とともに、各店舗の最適な数値を探ってみます。
FL コストとは?
「FLコスト」とは何でしょうか?
「F」とは、FOODの頭文字で食材費のこと、「L」とは、LABORの頭文字で人件費のことを指します。
FLコストが売上に占める割合を算出したいときは、FLコスト÷売上×100で求めることができます。
食材費は原価と非常に近しい関係にあり、イコールと考えてコントロールをする店舗も多くあります。実際には、テイクアウト専門店やファストフードなどでは包装資材も原価に含まれますが、それにしてもほとんどのものが食材費で占められているからです。
人件費に関しては、実際に働いたアルバイトや社員に支払う時給換算分だけで毎日、仮計算する店舗もありますが、月単位で考えれば月給制の人がいたり、アルバイトでも支給される有給があったり、家族手当や福利厚生費も含みます。もっと大きな単位では賞与、退職金などもあり、これらも加味して管理しなければならないのが難しいところ。人件費総額は、給料として支払うものの1.5~2倍だと言われています。
さて、もう気づいた方もいらっしゃるかもしれませんが、このFLコストは飲食店の中で最も高い比率のものです。経営を考えるとき、比率の高いものから管理をしていくというのは当然のノウハウ。つまり、 FLコストを管理することは、重要な経営数値をコントロールするということに直結するわけです。
FLコストに注目するようになった歴史的背景
古くから飲食店をやっている人の中には、原価率や食材費を重視し、人件費をあまり気にしない人がいます。にわかには信じられないのですが、これには歴史的な背景があります。
近年、人件費が高騰していることは、すべての方がご存知のことでしょう。東京と神奈川の最低賃金が千円を超えたのは2019年のこと。この年、最も低い地域でも790円となりました。この790円は、10年前(2009年)の東京都の最高賃金とほぼ同じ。全国的にみれば、最低賃金は10年で約1.3倍に上がっています。
もっと前にさかのぼると、人件費を重視しない理由が分かりやすいかもしれません。最も高い東京都の最低賃金は以下のようになっていました。
2002年(平成14年) 708円
1993年(平成5年) 620円
1989年(平成元年) 525円
今の50代の人が仕事を始めた頃は、人件費は今の半額程度だったわけで、人件費にあまり敏感にならなくても何とかなった時代。その証拠に飲食店では、「経費コントロールは原価コントロールにあり」と言われていました。しかしその後、人件費が右肩あがりに上昇し、店舗によっては原価率よりも高くなっているケースが出てきたのです。
例えば、10年前と変わらぬ労働時間で店舗を回しているとすれば、人件費が25%で収まっていた店舗は、30%を超えていることになります。他のものが全く変わらないと仮定すると、この上がった分は単純に利益が減ることを意味します。利益が5%減少すると言われると、その大きさに驚く人もいるかもしれません。そんな歴史的背景もあり、食材費と人件費を合わせて考える FL コストが重視されるようになりました。もし、店舗内に今でも人件費を気にしないリーダーがいるのであれば、できるだけ早期に再教育をすべきです。
FLコストは何パーセントが適正か?
では、FLコストはどれぐらいが適正なのでしょうか?
ネットをチェックすると、実にさまざまな数値が出てきます。「Fコスト30%+Lコスト20%で、合わせて50%に抑えるべき」と書かれたものがあったかと思えば、「60%を目指すベき」と書かれたところもあります。
なぜ、このようなばらつきが出るのでしょうか?
それは、急激に人件費が上がる中、古い情報を参照しているサイトがあるからでしょう。また、もしかすると、東京や神奈川を無視し、全国平均で解説しているのかもしれません。
ちなみに、人件費20%以下と言う数字を東京で達成するには、よほど大きな店舗かシステム化されたチェーン店、個人事業主か経営する店舗に限られると言われています。
あえて基準の数値を出すなら60%。これを越えてはビジネスとして成り立たない
それでも基準は必要です。あえて言うのであれば、FLコストは60%が限界でしょう。この数値の根拠となっているのは、「他の数値から逆算するとこうなった」と言うこと。つまり、これを超えてしまってはビジネスとして成り立たないのです。
飲食店では約30%の経費が必要です。これをベースに逆算すれば、利益を10%出そうと考えれば、自ずとこの数値が出てくると言うわけです。
ただし、ここでポイントとなるのは、 FL コストの合算の上限が60%だと言うこと。その内訳まで決めることはできません。逆に言えば、「基準はこれくらいだ」と安易に表示できないほど、飲食店経営は難しい時代になっているのです。
例えば、FLコスト比率を改善するためにやるべきことを挙げてみましょう。
- 料理の価格を引き上げる → 売上が上がることでFLコストが下がる
- 作業効率を上げ、最小限の人員でオペレーションを行う → 人件費が下がる
- 仕入れを見直し、食材原価を抑える → 食材費が下がる
利益体質に改善するのに、改善は必要なことです。しかし、どこをどう改善するかは、それぞれの店舗判断と言うこと。つまり、適正な数値も店舗によって違うのです。
しかし、基準がないことと、だから気にしないというのは違います。全体的な基準がないのであれば、独自に算出するしかありません。
自舗の目標値を導き出すために必要な3つの視点
飲食店を経営するには経営者からの発想も必要ですが、お客様の存在を無視するわけにはいきません。ここでは目標値を導き出すために必要な3つの視点についてお話しします。
ひとつ目は、経営的視点
ひとつ目は経営的視点からの算出です。
店舗には、FLコストの他にもさまざまな経費があります。その基準が30%であることは前述しましたが、正しく算出し、FLコストに使える費用を逆算して出してみてください。最近では、都心の一等地のお店では、高い家賃(Rent)も加味して、「FLRコスト」と言われるようになりました。他にも、店舗によって大きく違いがあるはずです。
また、経営的視点では、売上予測の設定も重要。これは目標ではなく、現実的な予測を立てることが大切です。
ふたつ目は、お客の満足度という視点
経営的視点から出てくる数値は、かなり厳しいものになるでしょう。この真逆にあるのが、お客の満足度という視点です。
お客、つまりサービスを受ける側からすれば、スタッフはたくさんいて、高級な食材をたっぷり使っていることが満足につながります。ただし、それを言っていては埒があきませんので、あくまでも自店で最高の満足を出すために、何が必要かを考え導き出します。
例えば、最低でもこれぐらいのスタッフがいなければお客さんを満足させられない。食材の質はこれぐらいのものを使わなければいけない。量を減らしてはいけない。など、現実的なところを考えるべきです。
なぜ、これを考え開ければならないかと言うと、経営的視点によってしまうと、確実に商品の質は落ちて行きます。それはお客さんの足を遠のかせ、売上を減らすことになり、さらに FLコストを下げなければならず、悪循環を引き起こすからです。そう言った間違った判断をしないために、お客様視点での発想は欠かせないのです。
3つ目は、オペレーション状況からの視点(スタッフ目線)
次に重要なのは、スタッフからの目線です。何人いれば無理なくオペレーションが回るかと言う視点からみます。主に人件費に関わるところになるでしょう。
本来であれば4人いなければ絶対に回らないのに、現実的には3人で回している。そのためチャンスロスが発生しているというのであれば、4人にすることで効率が上がり、売上も上がるかもしれません。
かといってやみくもに人数を増やして売上が上がらなければ人件費が上がるだけ。これも実際に働いている人の声を集約し、どのようにすれば効率よく最高のパフォーマンスを出すことができるのかを考えます。
3つの視点を合わせ、総合的に判断する
最後に、この3つを比較し、落とし所を見出すことが大切です。
多くの場合、この3つは大きく離れていて、落とし所を簡単には見つけるのはできません。ただし、どれもが正しい視点であり、そこに大きなヒントが隠されています。
人数を増やすことで売り上げが上がるのであれば、その選択が第一になります。逆にスタッフの人数を減らすことで売上が下がっても利益が上がるのであれば、そちらを選ぶべきかもしれません。
また、FLコストのどちらも削減できないというのであれば、客単価をあげる必要があります。そのためにはクオリティを上げることは必須。何をどう変えることで、どういった影響があるのか、スタッフの知恵を集め、検討してください。
ではここから、食材費、人件費の具体的なコントロールについてお話ししていきます。
食材費のコントロールは、まずロスを最小限にすること
食材費のコントロールを考える上で注意しなければならないのは、理論的な数値と現実とに差があるということです。簡単に説明すると、理論原価は理想的な数値であり、正確な使用量に理論的なロス(歩留まり)を含んだものです。理論的なロスとは、タイムオーバー(仕込み過ぎたことなどによる時間切れ)やオーバーポーション(食材を多く盛り付けすぎてしまうためのロス)を含みません。袋から出したときにどうしても袋に残ってしまう分や、仕入れた食材から製品化するときにどうしても出てしまう廃棄分は歩留まりとして加味するものの、それ以上は全て使える前提で計算します。
一方、実際に使った食材費(原価)は、どれだけの売上を上げるのにいくらの食材を使ったのかと言う現実の数値であり、結果として計算することができます。
食材費のコントロールをするときには、この理論的な原価に、実際の原価を近づけていくことが重要です。適正な管理がされていない状態では、10%以上も乖離していることもあるので注意したいものです。
なお、原価率のコントロールについては、こちらの記事でも紹介しておりますのでご参照いただければと思います。
次にやるべきは根本的な改善
ギリギリまでコントロールしても、調整がつかなくなれば、次にやるべきは価格の調整です。これには単純に価格を上げる方法と、質や量を減らす方法があります。ただし、どちらにしても、ただの値上げだと思われてしまってはうまくいきません。不用意に質が落ちるとお客が離れていくことは簡単に想像できると思います。
- 食材の量を減らしても盛り付けを変えることでお値打ち感をアップする。
- 食材の質落としでも、調理方法で味を一定に保つ。
- 高級感を出して価格を上げる。
- メニュー構成を変えてロスを減らし、食材費全体を下げる。
- 仕入先を変更する。
他にも方法はいろいろあります。知恵を出し合って、お客様の満足度を上げながら食材費をコントロールしてください。
人件費のコントロールは効率を考える
人件費のコントロールで最初にやるべきなのは、作業効率のアップです。効率よく動くのに妨げになっている導線を改善したり、作業を行うタイミングを見直したりして、しっかりとピークタイムに対応して売上げを確保しながら、無駄な時間がないようにします。
年中無休で営業していた店が、店休日を作る。または、長時間営業をしていた店が、営業時間を短縮することで経営効率を良くするという方法もあります。売り上げは多少下がっても、お店の大きな負担となっているFLコストが削減できれば、結果的に利益率はよくなるかもしれません。
また、人不足に悩む飲食店は、店長や社員といった高い人件費の人が深夜に残業をするケースが目立ちます。これでは人件費は高騰するばかり。深夜時給であれば1.25倍、残業についても1.25倍になるわけですから、人不足が人件費高騰にさらに拍車をかけていることになります。さらに、人もいつかず、採用費や教育費がかさむ原因にもなるでしょう。時には思い切った判断も重要です。
なお、人件費のコントロールについては、こちらの記事もご参照ください。
まとめ
店舗のコスト管理で重要なFLコスト。あまり気にせずに飲食店を経営している人も少なくありませんが、今後はますます厳しい経営環境になることは間違いなく、最悪の状態になってから慌てたのでは正しい判断が行えません。少しでも余裕があるうちに適正な数値を導き出し、それを達成するための工夫をはじみてはどうでしょうか。