スキャンダル続きでUberのCEOを解任されたカラニック氏
ライドシェアリング大手Uberの元CEOトラビス・カラニック氏が新しいビジネスを立ち上げた。カラニック氏といえばUberの共同創業者で、同社の大口株主として知られている。Uber創業前にもP2Pファイルシェアリングサービスのレッド・スウォーフを起業するなど、アメリカでも有数の起業家だ。ニュービジネスを立ち上げるセンスは素晴らしく、Uberをゼロから時価総額7000億ドル(約77兆円)規模の企業に成長させている。
一方で、カラニック氏には致命的な悪癖がある。女癖が悪いのだ。Uber時代も、自らセクシャルハラスメントまがいの行為を日常的に行っていたほか、社内のセクシャルハラスメントも容認する姿勢を貫いていた。女性幹部を引き連れて韓国ソウルへ謎の慰安旅行へ出かけたり、社員旅行へ出発する前にわいせつなコメントを発するなど、問題行動を連発していた。
カラニック氏の行動はメディアから強く批判され、株主からも辞任を求める声が上がっていた。社会からの辞任要求の声が強まる中、カラニック氏は昨年6月にUberのCEOを辞任した。事実上株主に解任されたといっていいだろう。
カラニック氏が参入するクラウドキッチンビジネスとは?
そんなカラニック氏が、新たな活躍の場として選んだのが飲食業界だ。カラニック氏がロサンゼルスに設立したシティ・ストレージ・システムズ(City Storage Systems)は、クラウドキッチンを主たる事業とする会社だ。クラウドキッチン(Cloud Kitchen)とは、文字通り読むとキッチンがクラウド化したもののようだが、実際にはどのようなビジネスなのだろうか。
クラウドキッチンとは、テーブルも椅子もない、キッチンだけの「飲食店」だ。テーブルも椅子もないのでお客も来ない、一風変わった新しい業態だ。注文は主にインターネットで受け付ける。インターネットで注文を受けると注文の品を調理し、お客の家や職場などへ配達する。配達も自分では行わず、Uber Eatsなどの配達代行業者へ委託する。
テイクアウトも受け付けず、ネットの注文品の調理だけに特化した、キッチンオンリーの「お店」なのだ。
クラウドキッチンのコンセプトは、Uber Eatsなどの、インターネットを使ったフードデリバリーシステムの規模が拡大した事によって生まれたとされている。Amazonの台頭によって消費者がお店で買い物をする回数や頻度を減らしたように、オンラインフードデリバリーシステムの台頭は、消費者が飲食店で食事をする回数や頻度を減らし始めている。クラウドキッチンは、インターネットという世界的インフラの普及によって、成立が可能になったといってもいいだろう。
飲食業界の競争激化、リーンスタートアップの増加
クラウドキッチンの台頭は、飲食業界の競争激化と、飲食店の、いわゆるリーンスタートアップが増加している事が背景にあるともされている。なお、リーンスタートアップとは、出来るだけコストをかけないで事業を立ち上げるという意味だ。
ところで、クラウドキッチンの「先進国」とされるインドでは、高い家賃などの負担を嫌って既存の飲食店がクラウドキッチンへ転換するケースが増えているという。例えば、インドのファーストフードレストラン大手のスプリング・リーフ・リテールは、既存のファーストフード店を閉鎖し、徐々にクラウドキッチンへ転換させているという。
クラウドキッチンは座席がいらないので、8坪程度の大きさのスペースがあれば開業可能だ。しかも、通常の飲食店のように立地を気にする必要もない。目抜き通りに店を構えるのではなく、逆に悪いロケーションの物件に安い賃料で出店する。クラウドキッチンはコスト的に通常の飲食店よりも大きく優れているのだ。
さらに、クラウドキッチンでは接客をする必要もないので、接客用の従業員を雇う必要もない、配達もUber Eatsなどが行うので配達スタッフも雇う必要がない。料理人はあくまでも調理に専念すれば良く、オペレーションが極めてシンプルなのだ。
クラウドキッチンを貸し出す事業も
飲食店が自らクラウドキッチンを立ち上げるケースとともに、第三者がクラウドキッチンを立ち上げ、それを料理人に貸し出す事業も立ち上がっている。
日本でも、美容師の業界でフリーの美容師にインフラを貸し出す「ミラーレンタル」と呼ばれる業態が普及し始めているとされるが、それの飲食業界バージョンのようなものだろう。このようなものであれば、今後日本でも普及する可能性があるだろう。
いずれにせよ、クラウドキッチンは今後、飲食店自らが開設・運営するものと、第三者が開設したものを料理人がレンタルして使うケースとに二分化しつつ、事業規模を拡大させてゆく可能性がある。
カラニック氏のビジネスは成功するのか?
ところで、カラニック氏のクラウドキッチンビジネスは、果たしてうまくゆくのだろうか。クラウドキッチンとは、キッチンというインフラを最適に有効活用するための、一種のシェアリングエコノミー的ビジネスだ。シェアリングエコノミーという点では、Uberと共通する何らかの要素があるかもしれない。その意味において、クラウドキッチンにはカラニック氏の心に響く何かがあったのだろう。
また、カラニック氏が新会社をロサンゼルスで立ち上げたというのも興味深い。ロサンゼルスは現在、物価の上昇が顕著で、特に店舗などの家賃が高騰している。筆者もだいぶ前にロサンゼルスで飲食店を経営していたが、現在の家賃相場は、ここ20年で2倍近くになっている。通常の飲食店にとって家賃が負担になればなるほど、クラウドキッチンに対するニーズが総じて増えてゆくだろう。
卓越したビジネスセンスを持つカラニック氏は、筆者の予想では、まず間違いなくこのビジネスを成功させるだろう。ただ一つ不安要素があるとすれば、カラニックが例の悪癖を新会社において起こす可能性があることだ。そんなカラニック氏には、女癖の悪さには気を付けた方がいいよと、遠く離れた日本に住む筆者からアドバイスを送りたい。
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参照
https://thespoon.tech/former-uber-ceo-lands-in-the-cloud-kitchen-market/
https://thespoon.tech/cloud-kitchens-virtual-food-courts-of-the-future/
https://www.crunchbase.com/organization/city-storage-systems#section-overview
ライタープロフィール
前田健二
東京都出身。2001年より経営コンサルタントの活動を開始し、現在は新規事業立上げ、ネットマーケティングのコンサルティングを行っている。アメリカのIT、3Dプリンター、ロボット、ドローン、医療、飲食などのベンチャー・ニュービジネス事情に詳しく、現地の人脈・ネットワークから情報を収集している。
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