70%の飲食店は3年で閉店する。その理由と経営感覚を身につける方法

飲食店は身近な存在で、アルバイトで関わる人も多く、なおかつ、簡単に儲けられるようなイメージがあります。そのため料理人が「いつか自分の店を出そう」と思っていたり、サラリーマンが「貯金で飲食店を始めてみようかな」と言ったりする話はよくあります。

けれど、飲食店の半数は3年以内に潰れているのが現状です。そこで、なぜ潰れるのか、閉店しないためにはどのようなことをするべきなのかを考えたいと思います。
これから飲食店を始めたい方だけでなく、美味しいものを出しているつもりなのに経営的に芳しくないという方にも参考になると思います。



魅惑の飲食店開業。しかし実情は難易度が非常に高い

飲食店に行ったことがないという人はいないでしょう。飲食店はそれだけ、なくてはならない身近な存在であり、その証拠にあらゆる場所に存在します。

しかし、飲食店が身近な存在だからといって、気軽に始められる業種というわけではありません。飲食店の閉店率は1年目で約3割。2年目になると約5割が閉店し、3年目では7割にも達します。これは驚きの数字ではないでしょうか。

これは、「料理の素人がオープンしたからだ」という人もいるかもしれませんが、実際には料理人がオープンしたお店でも潰れていることは多くあります。
それは何故でしょうか?
最初の計画が甘かったからでしょうか?

もちろん潰れてしまうわけですから、計画が甘く、見通しが立っていなかったということは否めないでしょう。しかし、飲食店にはそれ以上の理由もあります。

飲食店はオープンするときに店舗を構え、什器を購入またはレンタルするところからスタートします。食器やグラスなどを数多く揃えなければなりません。さらに、店舗には毎月家賃がかかり、水道光熱費やアルバイトや社員に払う人件費、食材を買う仕入れなど、売上に関わらず、たくさんのコストを負担しなければなりません。

つまり、初期コストに加え、ランニングコストが非常に多く必要な飲食店は、そんなに気軽に始められるビジネスとは言えないのです。ところが身近で、アルバイトでも接客や調理ができるから簡単だろうと考えてしまうところに、飲食店の閉店率の高さの理由があるのです

 

最も危険!?経験者の独立ほど失敗する傾向にある

飲食店を始める人は、大きく二つのタイプに分かれます。
一つは料理人だった人がオープンするもの。そしてもう一つは、包丁を持ったこともなく、調理はまったく素人だと言う人がオープンするものです。どちらの方が、閉店率が高いと思われますか?

明確なデータはありませんが、筆者の経験上、圧倒的に多いのは前者の調理経験者が開業した店舗です

彼らが考える店舗作りで一番大切なのは、美味しいものを出すこと。そのために厨房の設備投資を惜しまず、美味しいものを出すための努力はいといません。もちろん接客もないがしろにしません。お客に快適な時間を過ごして頂くための席配置、人員配置を考えます。

ただし、投資額はふくれがちです。居抜き物件でスタートすれば数百万円の投資額で済むところを、新規物件を借りて排水設備から作るために、数千万円の投資をしてしまう人もいます。

彼らの言い分は一つ。
「美味しいものを出していれば、お客は来る」です。

実際に彼らには旨いものを作る腕があり、一度食べればもう一度食べに行きたいと言ってくれる人が多いものです。

しかし、仮に圧倒的な商品力があったとしても、利益が出ているのかは別の話。典型的な例として、快適な店舗で原価度外視の商品を提供していれば、お客は来るでしょう。しかしそれでは、商品を出せば出すほど赤字を垂れ流してしまうわけです。

「そんなバカな」と思う人もいるかもしれませんが、すでに複数店舗化されている店舗でも、実は利益が出ていなかったという例は意外にあります。

さらに悲しい例としては、美味しいものを出していればお客は来ると言うそもそもの理論に反し、お客が来ない店舗もあります。実は料理人が出せる美味しい商品とは、味覚を主体としたものに過ぎません。しかし、実際にお客が感じる美味しさは、五感で判断されるもの。謎の異臭がする店、常にアルバイトを怒鳴っている店などでは快適に食事ができません。その結果、心地よい雰囲気で味わえば圧倒的に美味しいはずの料理でも、不味いと感じ、お客は近寄らなくなるのです。

 

経営的観念を持つことの重要性

経験者でも閉店率が高い中、「包丁持ったことすらない」という人が飲食店を成功させている例があります。料理人を雇わなければ飲食店として成り立たず、「そんな人が作った店がうまくいくはずがない」と感じる人がいるでしょうが、実際にはこちらの方がうまくいっている例が多くあります。

筆者が知っているだけでも、エステティシャン、美容師、大工、弁護士など、飲食店とは無縁の職業が挙げられます。数えあげればきりがありません。その理由は何でしょうか?

それは、彼らが自慢の料理を出す店ではなく、経営的観念を持った発想で店舗作りを行っているからです

ビジネスとして成り立たせるためにお客を呼んでこなければなりません。そのためには、どのような商品を出すべきか、どのような価格帯の商品を作るべきか、そのための原価はいくらか、どのような雰囲気にすればいいのかなどをトータルに考えているのです。

飲食店でありながら料理を出すことだけに意識が集中しないため、逆にバランスのよい店が作れるというわけです。ここに飲食店が生き残っていくための大きなヒントがあります。

 

飲食店経営に必要な3つの顔

規模は違いますが、飲食店をビジネス的な側面から見られる例として、フランス料理の高級店を挙げてみましょう。ます支配人やマネージャーと呼ばれるトップがいて店舗をトータルに見ています。その下に料理の専門家としてのコックと、接客サービスの専門家としてのホール係がいます。

この役割分担は、小さな飲食店でも変わりません。もちろん、3人の役割分担を3人で分けなければならないというわけではありません。

一人の人がやるにしても、『経営の専門家』、『料理の専門家』、『接客サービスの専門家』という3つの顔が必要だということです。

ところが潰れる店では、料理の専門家しかいない、または料理と接客サービスの専門家しかいないことが多いのです。

それもそのはず。
飲食店では、実際に経営をしているのは一人です。チェーン店などでは店長と言っても、経営を行っていない場合がほとんどです。ましてや、ホールの社員やアルバイトマネージャーが仕事として、シフト作りや点検業務、発注業務、アルバイト指導があったとしても、それは本来の経営とはまったく違うもの。

経営とはもっと広い部分をトータルで俯瞰してみることであり、多くの人にとっては、それがあることすら分かりません。こういう状況なので、店舗運営には経営感覚が必要だということが本質的に分からないまま店を始めてしまい、3年以内に潰れてしまうのが大半のケースになってしまうわけです。



経営的感覚が入ると物事の決定工程が変わってくる

では、飲食店を潰さないために、何が必要なのかを考えましょう。

飲食店経営に必要なのが、料理・接客・経営の3つであることは説明しました。もちろん全てを一人でこなすのが無理というわけではありませんし、実際に行って成功している人も多くいます。

例えばメニュー作りを例にすれば、料理人的考えであれば、高い食材を使い、時間をかけて作り、ゴージャスな盛り付けにすればお客が喜ぶと考えるかもしれません。

接客の立場から言えば、タイミングよく提供し、快適な雰囲気の中で食事をしてもらうのが一番だと考えるでしょう。どんなに美味しい料理でも、提供するタイミングが悪ければ意味がありません。また、実際にお客に怒られるのも自分自身なので、スピーディに商品を作ってくれることはとても大切なことです。

多くの飲食店では、この2方向から考えて商品を作ります。しかし、ここに経営的な考えを入れると印象は変わります。

商品の料金は原価率を考えて、ロジックに算出するべきと考えられます。また接客についても、お客様に快適な空間で食事を取ってもらうことを重視しながらも、一定の売上を上げるために回転率にも注視する必要があるでしょうし、そのために、何人がけのテーブルを用意すればいいかといった発想も必要でしょう。

POSによる分析

また、2回目、3回目と足を運んでもらうには、美味しいものを出しているというだけでは不十分です。ときには割引クーポンが必要かもしれません。しかし、クーポンの発売は綿密な計算の元発行しなければ、かえって首を絞めることになります。何を強化すべきなのか、何を見失ってはいけないのかといった総合的な判断をする必要があるのです。

またこの経営的判断をするためには、元となるデータも必要になります。勘と経験に頼らず、客観的な判断をするには、POSレジなどを使った分析も必要だと言えるでしょう

 

セミナー受講や新しいFC加盟制度を活用する方法も

では、今までずっと包丁を握ってきて、経営的感覚で物事を見る習慣がなかった人は、飲食店をやらない方がよいのでしょうか?
決してそういう意味ではありません。経営的感覚を身につければ、逆に料理の腕も生きてくるというものです。

例えば、飲食店開業セミナーのようなところに行けば、これまで持ってなかった視点で判断する方法を教えてくれます。これらのセミナーでは、居酒屋、カフェ、レストラン、焼鳥屋など、いろいろな業態の人が一緒に学んでいます。繁盛店を作るのに料理が大切なのであれば、これらの業態がミックスで学ぶ場は得策ではないはずです。一緒に学んでいるところに大きなヒントがあることがわかれば一歩前進と言えるのかもしれません。

また、開業前に教わるだけでは不安だと感じる人は、コンサルタントの手を借りる方法もあります。店舗をトータルに見て、経営をサポートしてくれると言う面では、彼らの力は大きいものです。

また、フランチャイズに加盟するという手段もあります。フランチャイズと聞くと、「自由にやりたいから」と敬遠する人がいますが、今はフリーネーム方式などと呼ばれる新しいタイプの加盟店が増えているので、印象は違うかもしれません。

店舗名は自由につけてよく、メニュー作りも自由裁量が許されています。フランチャイズと言っても、全てにおいて本部が決めたルールを守るのではなく、経営に失敗しない程度のルールを守った上で自由裁量が許されています。また、経営的ノウハウを長期にわたって提供してくれるので、安心できるという面もあります。これであれば店舗を長く続けることができますし、ノウハウを身につければ2店舗目、3店舗目を出すときは、自分で完全にオリジナルな店舗が作れるかもしれません。

自分の店を持ちたいという夢を実現したつもりが、3年でなくなってしまっては意味がありません。そうならないために、時には人の力を借りることも重要なのです。

 

まとめ

初期投資とランニングコストが必要な飲食店は、ビジネスとしては実は非常に難しく、また絶対に失敗すべきではない業種だと言えます。それなのに、美味しい料理が作れるからとか、接客が好きだからと気軽に始めてしまえそうな雰囲気があるのが飲食店の怖いところです。

多くの人に足りないのは経営的感覚。これを身につけることで、息の長い商売を実現してください。何より、店舗がなくなってしまっては、美味しい料理も心安らぐ接客時間もお客に提供できなくなります。
飲食店を開業する意味を、今一度考える機会にしてもらえるとうれしく思います。

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ライタープロフィール
原田 園子
兵庫県出身。  株式会社モスフードサービス、「月刊起業塾」「わたしのきれい」編集長を経てフリーライター、WEBディレクターとして活動中。

 


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