サンフランシスコにロボットカフェが登場し、地元市民の話題になっている。オープンさせたのはスタートアップ企業のカフェXだ。
サンフランシスコ中心部にオープンしたカフェX
カフェXは北京出身の若き中国人起業家ヘンリー・フー氏が立ち上げた企業で、ロボットカフェを運営することを事業目的にしている。
コーヒー専門店で自らコーヒーを飲みながら、何とはなしにバリスタが一杯ずつコーヒーを淹れているのを見ていたフー氏は、バリスタの動きが極めてパターン化しているということに気づいた。注文を受けるごとに手や腕を動かしてコーヒーを淹れるのだが、いくつかの固定化された動きのパターンを組み合わせて作業フローを完結させている。その動きは、工場で使われている高度な作業用ロボットに近い。
バリスタの動きをロボットにやらせればバリスタの人件費をまるごとカットすることができる。そう思いついたフー氏はロボット探しに奔走し、いくつもの工場を回っては理想とするロボットを探し続けた。最終的に部品製造工場で使われていた三菱製のアセンブリ・ロボットアームにたどり着き、ロボットカフェ実現の目途をつけた。そしてシリコンバレーのベンチャーキャピタルから500万ドル(約5億5千万円)の資金を調達したフー氏は、ただちにロボットXを立ち上げた。
ロボットアームが各種のドリンクを製造、支払いは電子マネーかクレジットカードで
さて、カフェXのロボットカフェだが、店舗というよりはコーヒースタンドまたはキオスクと呼んだ方が実態に近い。大きさ3坪程度の箱型キオスクで、スタンドの中央にロボットアームが位置している。注文は前面のガラスに設置された三台のタッチパネルで行う。コーヒー豆は地元の有名ロースター三店がローストしたものからチョイスすることができる。また、スマホに専用アプリをインストールして、リモートで事前注文することも可能だ。
メニューは豊富で、エスプレッソ、エスプレッソマキアート、カフェラテといった本格的なコーヒーに加え、ホットチョコレートや抹茶ラテなども注文できる。サイズも8オンスと12オンスから選択できる。クリームやシロップの有無や量なども、もちろん選択可能だ。
支払いはAppleペイなどの電子マネーか、クレジットカードで支払う。現金による支払いは受け付けていない。
なお、カフェXはキオスク型の店舗に加えて、サンフランシスコの別の場所にカフェスタイルの店舗も新たにオープンさせている。店舗では三台のロボットがフル稼働し、各種のドリンクを製造している。来店客の反応も上々で、口コミサイトYelpには前向きなコメントが多数寄せられている。新しいもの好きなサンフランシスコ市民も、ロボットカフェをポジティブに受けて入れているようだ。
海外からもライセンスの話が
フー氏によると、カフェXにはすでに世界中からライセンスやフランチャイズの話が持ち込まれているという。一方でフー氏は、現時点ではサンフランシスコを中心にキオスク型のカフェXと店舗型のカフェXを水平的に拡大する戦略を採りたいとしている。人口密度の高いサンフランシスコで、ロボットカフェのリーダーとして圧倒的なシェアを早期に取得し、ナンバーワンの地位を確保するという戦略だろう。
カフェXが世界中から関心と注目を集めている理由は明確だ。カフェの主役たるバリスタをロボットに置き換えることでオペレーションコストが下げられるからだ。カフェXによると、ロボットは1時間に120杯のドリンクを製造でき、人間のバリスタのパフォーマンスを大きく上回るという。かつて産業用ロボットが工場の生産ラインから組立工の職を奪ったように、バリスタロボットが人間のバリスタの職を奪う可能性は低くない。
カフェのオペレーションコストが下がることで、ドリンクの販売単価も下げられる。実際のところ、カフェXの販売単価は、ライバルのスターバックスの販売単価よりも10-15%程度安い。単純にハイクオリティのコーヒーをスピーディーに安く購入したいという人には、カフェXはうってつけだろう。
カフェ業界への影響は?
カフェXのカフェ業界への影響だが、どうなるだろうか。筆者は、カフェXはサンフランシスコなどの都市部を中心に、カフェ市場全体の一定のシェアを確保するまで成長すると予想する。一方で、スターバックスやブルーボトルのような、人間のバリスタがコーヒーを淹れるタイプのカフェが淘汰されることはないとも予想する。
また、カフェXの店舗のうち、キオスク型の店舗がより多く普及するとも予想する。フー氏は、キオスク型の店舗を学校、空港、ショッピングモールなどに設置する構想を描いているようだ。キオスク型の店舗は、いうなれば大型の自動販売機のようなもので、日本の自動販売機のような多様な課金モデルが応用される可能性もある。日本ほど自動販売機が普及していないアメリカで、キオスクの店舗がニッチ的に市場開拓する可能性がある。
カフェXの登場は、アメリカの飲食業界においてインダストリー4.0のムーブメントが着実に広がっていることを示すシンボリックな事例だ。好むと好まざるとにかかわらず、飲食業界においても今後、インダストリー4.0のトレンドが加速する。それをポジティブにとらえるか、またはネガティブにとらえるかで今後の運命が大きく変わるだろう。
そして、そのムーブメントは今後、間違いなく日本にもやってくる。カフェXの登場を単なる外国での出来事として見るか、あるいは何らかの予兆として見るかで大きな違いが生まれる。筆者の目には、カフェXは、ロボット好きの日本文化と極めてケミストリーが合うものとして映る。そして、ケミストリーが文字通り化学反応を起こし、日本に新たな市場を誕生させる可能性もあると考えている。
参照:
https://thespoon.tech/cafe-x-debuts-2nd-gen-kiosk-coffee-robot-in-downtown-san-francisco/
https://www.wired.com/2017/01/cafe-x-robot-barista/
ライタープロフィール
前田健二
東京都出身。2001年より経営コンサルタントの活動を開始し、現在は新規事業立上げ、ネットマーケティングのコンサルティングを行っている。アメリカのIT、3Dプリンター、ロボット、ドローン、医療、飲食などのベンチャー・ニュービジネス事情に詳しく、現地の人脈・ネットワークから情報を収集している。
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