最近のニュースで、「日本が買い負けする」と耳にする機会があります。飲食店にとって買い負けが問題なのは、海外から輸入される食材価格が高騰してしまうこと。
この厳しい状況の中、いかにして原価高騰をコントロールし利益を確保するかを考えます。
仕入れ値の上昇に悲鳴を上げる飲食店
食材の仕入れ値高騰が続いています。
まずは、いくつかの事例をあげてみましょう。
ひとつめは、仙台の名物でもある牛タンです。
この仕入れ価格は3倍になったとも言われています。
少し古いデータですが、平成26年度の牛タンの国内供給量は3万5千トン。そのうち、国産品はわずか1千トンのみ。実に97%を輸入に頼っています。この数字は今もほとんど変わっていません。
国産に切り替えることが難しい牛タンは、安定供給を求めると輸入に頼るしかなく、他国との仕入れ競争にさらされるため、価格高騰を防ぐ手立てがありません。
それにしても、仕入れ値3倍は高騰しすぎですよね。
これを受け、東京などでチェーン展開している牛タン専門店「ねぎし」が、2021年9月15日からメニューの値上げを実施。
厚切り牛タンにがついた「白たんセット」は1,850円から2,450円に。
うす切り牛タンがついた「ねぎしセット」は1,450円から1,750円に値上げしました。
商品によっては、上げ幅が600円にもなっているのが窮地を物語っています。
その他には、うなぎも仕入れ値が高騰している代表的な食材です。稚魚である「シラスウナギ」が長年にわたる不漁から価格が高騰。約10年で仕入れ価格が2倍になったと言われています。
まぐろは中国を中心に人気が上がっていることに加え、アフリカ新興海賊の発生や資源枯渇を理由に、昨年に比べ2割ほど値上がりしています。
中には、一部のチーズをヨーロッパなどから輸入するときの関税率が徐々にさがっているのですが、そもそもの商品価格が高騰すれば、税金が安くなっても吸収されてしまいます。多くのものは新型コロナなどとは関係なく値上がりしているので、これからも続くものと推察されています。
仕入れ値が3倍になっても、販売価格は3倍にできない
ここで最も大きな問題となるのは、仕入れ価格が3倍になっても販売価格にそれを反映させることはできない点です。
しかし、1,500円の商品が3,000円になったのでは、一気に客離れが起きます。そのため価格アップは一定の範囲内でしかできません。
では、この「一定の範囲内」とはどれくらいなのでしょうか?
心情的なことを言えば、顧客が仕入れ値のアップを知り、「それならば仕方がない」と思える範囲となります。
しかし、それが何パーセントなら受け入れられると、言えないのが難しいことろ。経営者の決断がカギを握ります。
筆者は2021年10月の上旬に仙台に行っていました。
当然、牛タンを食べたのですが、多くの店で、「仕入れが3倍になってしまって、今月から値上がりしました」と言われました。飲食店も苦渋の決断だったんだろうなと感じました。
大胆な施策が必要
販売価格のアップは、うまくやらなければ顧客離れにつながりますが、一方で決断をしないと、商品が売れれば売れるほど赤字が出てしまうことになります。
「値上がりした上にサービスも悪くなった」
と言います。そして来店頻度が減ったり、こなくなったりするケースもでてきます。
ここで考えるべきは、これまでやってきた、「企業努力の範囲で何とかする」ということではなく、新しい発想で大幅に原価をコントロールすることかもしれません。なぜなら、小幅な仕入れ値アップに耐える企業努力は、これまでも散々やってきているはずだからです。
たとえば、肉の切り方を工夫し、10%ほど小さくするなど。お客が気づかない範囲であれば問題はありませんが、最近は SNS などで話題になりやすく、有名店であるほど、内密に取り込みにくい方法となっています。
メニューを変更する
考えられる方法としては、価格はそのままで、メニューの提供方法を変えることが考えられます。
また同じく、「ローストビーフ 季節の野菜添え」とすることでプレート全体を華やかにする方法もあります。
この場合、他の食材をどう増やすのかがポイント。印象を変えるために使った食材の方が原価が高かったり、季節変動が大きすぎたりすると却って利益を圧迫します。
また、手間がかかり過ぎても人件費の高騰につながるので注意が必要です。
使用する食材を変える
場合によっては、使う食材を変えるという方法もあります。
とあるケバブレストランは、この方法で原価率の大幅ダウンに成功しています。パキスタン人が経営する店舗です。
ところが、原価は日に日に上がり、ある日、鶏肉に変えることにしました。こうすることで原価は半額ほどにできます。
ただし、単純に「ラム肉を鶏肉に変えた」と言ってしまったのでは印象がよくありません。そこで、アピール方法に工夫をしました。そして、ポスターにしたのが以下のセリフ。
「日本人の好みに合わせて、肉を変えました。トリ好きなんて、今まで気づかなかったよ!」
外国人にこう言われれば、原価を下げたかったとは思いませんよね。
実際にラム肉独特の臭みがなくなり、さっぱりとした味わいで大好評。売り上げは以前の120%になりました。
準備する食材を減らす
食材の種類を減らし、ロスの減少に徹底して取り組む方法もあります。居酒屋やレストランなど、広いニーズに応えたいとメニューの多様化をした店舗にむいています。
メニュー数が増えれば、それだけたくさんの食材を抱える必要がでてきますし、タイムロスも多く発生します。
そこで専門店化してメイン食材を一本化。抱える食材数を大幅に減らすのです。
たとえば、鮮度の高いうちは生で。少し味が落ちてくれば煮込みや焼き料理に。こうすれば大胆な仕入れが可能になります。
原価コントロールにはデータをしっかり取ることが重要
どの手法を取るにしても、食材を適正に仕入れるには、職人の勘に頼らず、データに基づくことが重要となります。
たとえばPOSレジを使ってデータを取り、分析します。そうすれば、出数はもちろんのこと、ほとんど使ってない食材があることに驚くのも珍しくありません。
あるとき、「これは望んだ状態ではない」と気づきます。なぜなら、食事メインくる客が増えたことで、利益構造が崩れてしまったからです。そこでさらに分析していくと、最初に人気になったハヤシライスが最も売れていないことに気付きました。
一時は、ハヤシライスを無くしてしまおうと考えたそうですが、思い入れがある商品ということで、あえてハヤシライスだけを残すことにします。もちろん、流用性を高め、オムライスのルーにハヤシソースを使ったり、グラタンにしたり。
その結果、食事がメインという客は減り、ハヤシライスが食べたいお客とお酒を飲みに来る客が増え、利益構造は改善しました。
サービスを向上させながら、人件費を削ることも大切
あまりの仕入れ値の高騰は、原価率のコントロールだけ利益を出せません。そこで、他の部分で補う方法も見つけ出さなければなりません。
固定費は減らせないので、次にコントロールしやすいのは人件費となります。
人件費も年齢高くなっているコストのひとつ。
2009年に791円だったのが、2010年に821円になりました。
その後、毎年上昇を続け、2021年は1,041円。2009年と比較すると、126.8%にもなっています。
そこで、モバイルオーダーや配膳ロボットを使って、人件費を削減する店舗が多くでてきました。
モバイルオーダーとは、お客のスマホを使って注文するスタイルのこと。この場合、タブレットなど店舗が用意する必要がありません。また、ピーク時の人員体制を4人から3人に減らせば25%の人件費カットができます。
モバイルオーダーでは、それぞれの商品の特徴を詳しく知ることができ、「安心して注文できる」というのがお客側の言い分です。また、注文したいのに、従業員が来なくて注文できなかったというようなこともありません。
また、配膳ロボットを使う店舗も、コロナ禍で「人との接触が減る」として注目されました。どちらも導入には費用がかかりますが、助成金などでまかなえることもあり、今が導入の最適な時期だと言えます。
接客のIT化は客離れにはつながらない
これらの方法を導入することで、スタッフとお客が接する機会が減ることを危惧している店舗もあります。ですが実際には、一人一人に丁寧な対応ができる時間ができ、必要なときに必要なサービスを提供してもらえた感じるお客も増えています。
一方はお客と接する時間が減ることでサービスが低下したと感じるお客。もう一方は、マイペースに食事ができることを快適だと感じるタイプ。
その店舗では、前者と後者の見極めをし、前者の人に手厚く接客をするように指導し、好評を得ているそうです。
まとめ
原価が上がると売り上げアップできたとしても、利益がマイナスとなるケースがあります。これからは、単に売り上げを見るだけでなく、細かな数字をコントロールする必要があります。
飲食店には厳しい時代ですが、ここで知恵を絞れば、強い体制の店舗になれるはず。なぜなら、飲食店は絶対になくならない商売だからです。
長く続けられる店づくりのために、何をするべきか。今こそ考えるべきです。
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