全世界150カ国で5万店以上のファストフードレストランを運営し、ニューヨーク証券取引所に上場している巨大レストランチェーンのヤム!・ブランズが、AIマーケティングプラットフォーム開発のクヴァンタムと、オンラインオーダリングシステム開発のティクタク・テクノロジーズを買収して話題になっている。アメリカを代表する巨大レストランチェーンは、なぜハイテクスタートアップ企業を必要としたのだろうか。すでに始まっている飲食業のインダストリー4.0の動きと併せて解説する。
ヤム!・ブランズという巨大レストランチェーン
フランチャイズを含めて全世界150カ国で5万店以上を運営しているヤム!・ブランズだが、最近あるハイテクスタートアップ企業2社を買収して話題を集めた。
ヤム!ブランズは、一体どんなノウハウを必要としたのだろうか。
クヴァンタムというスタートアップ企業
クヴァンタム(Kvantum)は、テキサス州ダラス・フォートワースに拠点を置くスタートアップ企業だ。同社はAIを使ったマーケティングシステムを開発し、消費財メーカーなどに提供している。同社のシステムは、独自開発したマシンラーニングプラットフォームと計量経済学的アルゴリズムをベースにしており、各種のビッグデータなどを参照しながら広告配信を「最適化」することを可能にしている。なお、広告配信の「最適化」とは、消費者それぞれに対して最も適切な広告を配信することを意味する。
ティクタク・テクノロジーズというスタートアップ企業
ティクタク・テクノロジーズ(Tictuk Technologies)はイスラエル発のスタートアップ企業だ。同社はFacebookメッセンジャーやWhatsAppなどのメッセージングアプリを使ったオーダリングシステムを開発、提供している。使い方は非常に簡単で、例えばFacebookメッセンジャーの場合、ピザハットなどを「友達に追加」し、その友達とチャットするだけだ。
なお、ヤム!ブランズは、ティクタク・テクノロジーズを買収する前から900店のピザハットやタコベルでティクタク・テクノロジーズのシステムを導入していたという。システムの理解が早いこともあり、ヤム!ブランズによる同社の買収手続きは、わずか数日で終了したという。
飲食業のインダストリー4.0
さて、ヤム!ブランズによる上記二社のスタートアップ企業の買収から、いくつかの重要なキーワードが見えてこないだろうか。それは、「ビッグデータ」「AI(人工知能)」「マーケティング最適化」「カスタマイゼーション」「レコメンデーション」「モバイルコンピューティング」「チャットボット」等々だ。これらは、現在のアメリカで進行中の、飲食業のインダストリー4.0を牽引している極めて重要なキーワードだ。
ヤム!ブランズの経営戦略は、進む方向性においてAmazonと極めて近いと見るべきだろう。同社の2020年のデジタル売上(インターネットやソーシャルメディアなどからの売上)は170億ドル(約1兆8700億円)に達し、前年から45%も増加したという。ヤム!ブランズの経営陣は、間違いなく自分達が進んでいる道が間違っていないと確信していることだろう。
日本の飲食業は今後どうなる?
一方、日本の飲食業の状況はどうだろう。筆者は、日本の飲食業の状況は、残念ながらまだまだ遅れているとせざるを得ない。日本の飲食業においては「ビッグデータ」や「AI(人工知能)」どころか、POSシステムすら導入していない店舗が少なくない。ましてや、「マーケティング最適化」「カスタマイゼーション」「レコメンデーション」「チャットボット」などに対応しているケースなど、まだまだ全然少ないだろう。
いずれにせよ、日本の飲食店経営者は、現在アメリカで進行中の飲食業のインダストリー4.0の動きを注意深く見つめてゆく必要がある。アメリカで先行した経済トレンドは、ほぼ間違いなく遅れて日本にもやってくる。そして、その波に飲まれるか、またはそれに乗るかを決めるは、間違いなく経営者の姿勢そのものなのだから。
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参考URL:
https://www.yum.com/wps/portal/yumbrands/Yumbrands/company
https://www.tictuk.com/