コロナ禍のアメリカで店舗外売上を3倍増に成功した飲食店チェーンの挑戦

新型コロナウィルスの感染拡大が続くアメリカでは、多くの州で飲食店の営業が規制されている。一部の州ではデリバリーやテイクアウトによる営業や店舗の営業一部再開を認め始めているものの、「コロナ前」の状態にはまったく戻っていない。
そうした中、日本でもブランド展開しているアウトバック・ステーキハウスなどをアメリカで運営するブルーミン・ブランズが、デリバリーとテイクアウトを強化して売上を確保し、すべての従業員の雇用を守るという奮闘ぶりを見せている。暗いニュースが続くアメリカの飲食業界で、久しぶりに垣間見えた明るいニュースをお伝えする。

 

経済再開が始まるものの、未だ続く飲食業界の営業規制

アメリカで新型コロナウィルスの感染拡大が続いている。本記事執筆時点(2020年5月21日)でのアメリカの新型コロナウィルス感染者数は161万人を超え、死者数は9万5千人に達した。感染拡大の中心地であったニューヨーク州やニュージャージー州などでは感染拡大のピークを迎え、感染者数と死者数が減少し始めている。しかし、イリノイ州、テキサス州、ルイジアナ州などで感染拡大が広がり、新たな感染の中心地になりつつある。また、人口5万人以下の過疎地の多くで感染が広がっていて、医療資源の不足が問題になりつつある。
一方で、経済活動の停滞に苦しむ多くの州が経済再開へ向けて動き始めた。全米の半数以上の州で小売店やヘアサロンなどの営業再開が認められ、バーやレストランも営業を一部再開している。しかし、ほとんどの州で店への入場制限が課せられ、ソーシャルディスタンシング(社会的距離の確保)の実施やマスクの着用が促されている。また、感染を恐れる客の足は遠く、ほとんどの店で売上が少ない状況が続いている。アメリカの飲食店が「コロナ前」の状態へ戻るには、まだ相当長い時間が必要のようだ。



奮闘するブルーミン・ブランズ

そうした状況の中、ひとつの明るいニュースが伝わってきた。アウトバック・ステーキハウス、カラバズ・イタリアングリル、ボーンフィッシュ・グリルなどの複数のブランドの飲食店1,450店を運営するブルーミン・ブランズ(Bloomin’ Brands)が、デリバリーとテイクアウトを強化し、デリバリーとテイクアウトの売上を対前年比で3倍に増やしているという。
同社が発表した2020年度第一四半期決算(1月から3月)によると、新型コロナウィルスの感染拡大による影響により、同社の店内での売上は大きく減少したものの、デリバリーとテイクアウトの売上が助け舟となり、同期間中の売上は対前年比でわずか10%のマイナスにとどまっているという。
さらに、多くの飲食店がキャッシュフローの不足に苦しむ中、同社のキャッシュフローは「損益分岐点を上回る状態を確保している」という

 

リワードプログラムとオンラインオーダリングシステムへの投資が奏功

ブルーミン・ブランズのデイヴィッド・ディノCEOによると、同社の「店舗外売上」の3分の2はテイクアウトから、3分の1はデリバリーからもたらされているという。ディノCEOは、今後も店内の売上が低迷することを前提に、今後さらにテイクアウトを強化して売上を確保したいとしている。
ところで、ブルーミン・ブランズの「店舗外売上」に3倍の売上をもたらしたものは何だろうか。ある関係者は、同社が近年行ってきたリワードプログラムとオンラインオーダリングシステムへの投資が奏功したと見ている。

リワードプログラム

リワードプログラムとは、ブルーミン・ブランズが常連客に提供している会員制のポイント提供プログラムのことだ。お客様が同プログラムに登録すると、ブルーミン・ブランズの各店舗を利用した際に規定のクーポンが付与される。例えば、6カ月以内にブルーミン・ブランズの3店舗を利用し、それぞれ20ドル以上支出すると50%の割引きクーポンが付与される。また、家族や友人などを紹介すると、一人につき5ドル分のクーポンが付与される。リワードプログラムにより顧客の来店を促し、リピーターにすることに成功していると見ていいだろう。

 

オンラインオーダリングシステム

オンラインオーダリングシステムとは、ブルーミン・ブランズの各ブランドのウェブサイトからお客様自身が店舗を選択して、オンラインで注文する仕組みだ。料理はテイクアウトかデリバリーが選択できる。リワードプログラムとも連動していて、クーポンなども使える。
ブルーミン・ブランズは、リワードプログラムとオンラインオーダリングシステムで常連客の囲い込みを実現し、店内での飲食が制限された中でも「店舗外売上」で売上を確保することに成功しているのだろう。「店舗内売上」でしか顧客との関係を築いてこなかった飲食店には大いに参考になりそうだ。

 

一人の従業員も解雇せず、「コロナ後」の営業再開に備える

新型コロナウィルスの感染拡大により、アメリカではこれまでに550万人の飲食店関係者が職を失ったという。解雇される労働者は後を絶たず、今年6月末までにさらに150万人が職を失う可能性があるとされる。しかし、9万3千人の従業員を抱えるブルーミン・ブランズは、現時点までに一人の従業員も解雇しておらず、今後もする予定はないという。
ディノCEOは、これについて極めてシンプルに説明している。

「我々は今日までに従業員を一人も解雇していません。
パンデミックが収束してコロナ前の状況に戻ったら、我々の熟練したスタッフ達はすぐに店舗で活躍することができるのです」

ブルーミン・ブランズクラスの企業であれば、マネージャー職から現場のスタッフまで、相当の教育投資をしているはずだ。育て上げたスタッフを温存し、平時が戻ってきたらオペレーションを元に戻す。人的資源への投資を無駄にしない戦略が見て取れる。

 

インターネットとIT技術を使って顧客の囲い込みに成功

ブルーミン・ブランズのケースは、パンデミックという非常時においても飲食店が売上を上げ、事業と雇用を守ることが可能であることを教えてくれる。一方で、同社がデジタル技術やIT技術に投資し、非常時の「店舗外売上」を確保しているという現実も見せつけてくれている。AmazonがインターネットとIT技術を使って顧客の囲い込みに成功したように、ブルーミン・ブランズもインターネットとIT技術を使って顧客の囲い込みに成功しているのだ。
新型コロナウィルスのパンデミックは、飲食業界をかつてない危機的状況に陥れた。そして、飲食店を「ITで顧客との関係を構築する店」と「そうでない店」とに二分する結果となった。日本でも、SNSやテレビ会議などを使い、顧客との関係を構築する飲食店などが登場してきているが、そうした機運は今後さらに高まるだろう。あなたのお店が、後者にならないことを願ってやまない。

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参考URL:
CNBC https://www.cnbc.com/2020/05/08/bloomin-brands-blmn-q1-2020-delivery-spikes.html



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