アメリカのフードテック企業が飲食店向け料理配達ロボットの利用を開始して話題になっている。ロサンゼルスに拠点を置くクリエイティング・カリナリー・コミュニティーズ(C3社)の発表によると、C3社が展開している「ウマミバーガー」「サムズクリスピーチキン」などのゴーストキッチンから周囲2マイル(約3.2キロメートル)の範囲でロボットによる配達を行うという。同社が配達ロボットを使う理由は何か、競合企業の動きなどとともに諸々お伝えする。
クリエイティング・カリナリー・コミュニティーズという会社
クリエイティング・カリナリー・コミュニティーズ(Creating Culinary Communities, 以下C3社)は、2019年設立のカリフォルニア州ビバリーヒルズに拠点を置くスタートアップ企業だ。「飲食コミュニティを創造する」という意味の社名を持つ同社は、創業からわずか2年で「ウマミバーガー」「サムズクリスピーチキン」などのゴーストキッチンを250カ所も開設、運営している。その急成長ぶりから現在アメリカで最も注目されているフードスタートアップ企業のひとつとなっている。同社はまた、これまでに複数のベンチャーキャピタルや個人投資家から総額で9000万ドル(約103億5000万円)の資金を調達している。
そのC3社が先日、サンタモニカ、ウェストハリウッド、ロスフェリスの3カ所のゴーストキッチンで、周囲2マイルの範囲でロボットによる配達を行うと発表して話題になった。
配達ロボットの仕組み
なお、配達はC3社のパートナー企業シアン・ロボティクスが開発した配達ロボット「COCO」を使って行う。COCOは重さ22.6キログラムの箱型小型ロボットだ。車輪の上に箱を載せたようなシンプルな構造で、GPS装置、通信用マイク、LEDライト、カメラなどが付いている。
ところで、運転はロボットによる自動運転ではなく、COCOの「社員」がリモートコントロールで行う。「パイロット」と呼ばれる操縦者は、COCOに搭載されたカメラを見ながら、あたかもラジコンを操作するようにCOCOを操縦して品物を配達する。注文主などと会話をする必要が生じた際は、搭載された通信用マイクを使って音声で会話をする。また、COCOのコンテナーには盗難防止用ロックがかけられるので、第三者による盗難を防止できる。
C3社が配達ロボットを使う理由
では、C3社はなぜ配達ロボットを使うのだろうか。その最大の理由はコストだ。C3社によると、配達ロボットCOCOを使うことで、UberEatsなどの人によるフードデリバリーサービスよりも、時間で最大30%、コストで最大50%を削減することが出来るという。その結果、飲食店の負担を大きく削減出来る。
シアン・ロボティクスによると、現在利用が拡大しているアメリカのフードデリバリーの多くは、飲食店から半径2マイル(約3.2キロメートル)範囲以内で行われているという。
わずか2マイルの距離のフードデリバリーに重さ数千ポンド(約1000キログラム)の自動車を使うことは非常に無駄なことであり、さらには交通渋滞や大気汚染を悪化させることになるのだ。
また、新型コロナのパンデミックにより対面での接触機会の逓減が求められる中、人によるフードデリバリーを避ける機運も高まっている。そうした中、無人の配達ロボットを志向する消費者が増えているという。また、配達ロボットCOCOを配達に使っているある飲食店オーナーは、「あるお客さんなどは、1日に3回も4回もCOCOの配達を注文してきます。同じ注文をわざわざ3回とかに分けて注文してくるのです。無人ロボットが配達してくれるのを、明らかに楽しんでいるようです」と話している。
UberEatsなどの有人フードデリバリー企業も配達ロボットを利用へ
なお、配達ロボットを活用する機運は、UberEatsなどの有人フードデリバリー企業の間でも高まっている。現地紙の報道によると、フードデリバリー大手のUberEatsも、ロサンゼルス市内でロボットを使ったデリバリーサービスを早ければ2022年中に開始するという。
UberEatsは、これまでに配達ロボット開発のサーブ・ロボティクスを買収しており、サーブ・ロボティクスが開発したロボットを使い、完全自動運転での配達を開始するとしている。
また、C3社のライバル企業のキッチン・ユナイテッドも、配達ロボットを使ったデリバリーサービスの提供を検討している。現地紙の報道によると、キッチン・ユナイテッドは、2021年10月18日から22日の日程でサンフランシスコ近郊で開催されたイベントで、同社のゴーストキッチンからイベント会場への配達ロボットの実証実験を行った。実験の結果については明らかにされていないが、ある関係者によると、同社も早ければ2022年中にも配達ロボットによるデリバリーサービスを開始する可能性が高いとしている。
2022年はアメリカの飲食業界におけるデリバリーロボット普及元年に
新型コロナウィルスの影響などにより、アメリカの飲食業界はその構造を大きく変えつつあるが、フードデリバリー市場の拡大は、そこでの主要プレーヤーであるデリバリーサービスの競争を激化させている。現在は、人によるデリバリーサービスが大きなウェイトを占めているが、それに対して配達ロボットが攻撃をしかけ、少しずつシェアを奪い始めている。2022年は、有人無人を問わず、デリバリーロボットがシェアを相応に奪取することになると予想する。いわば、アメリカの飲食業界におけるデリバリーロボットの本格的な普及が始まる元年になる可能性が高いだろう。
一方、日本の飲食業界だが、アメリカのように配達ロボットが導入される気配は今のところ感じられない。しかし、日本でもドアダッシュやUberEatsなどのフードデリバリーサービスの利用は確実に広がっている。日本においても、フードデリバリーサービス業者がオフィス街などで配達ロボットを活用する可能性は残されていると考える。しかし、配達ロボットの本格的な活用が始まったアメリカのような状態に至るまでには、まだまだそれなりの時間がかかるような気もする。
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参照サイト
https://www.restaurantdive.com/news/c3-deploys-robot-delivery-in-los-angeles/609072/
https://www.prnewswire.com/news-releases/c3-the-fastest-growing-global-food-tech-platform-announces-partnership-with-revolutionary-robot-delivery-service-coco-301410570.html
ピンバック: ひろゆき「UberEats専業に未来はない」デリバリー配達員がかかえる将来のリスクについて | コグノル