ラーメン店の前にそびえ立つ1000円の壁を超える方法とシミュレーション

1000円の壁というキーワードを聞いたことがありますか?

これは単価が1000円を超えると客足が伸びなくなる、売れなくなるというもので、ラーメン店やファーストフード店に対してよく使われます。この1000円の壁の影響か、ここ数年のラーメン店は倒産件数が増えています。

原材料、光熱費、人件費の高騰と三拍子揃った現在、1000円の壁を超えずにやっていくのは現実的ではありません。しかし、その一歩を踏み出せない…。

今回はラーメン店の前にそびえ立つ1000円の壁を分析しながら、これを超えるためにどうするべきかを考えていきます。

1000円の壁に悩むのはラーメン店だけではない

ラーメンは日本の国民食とも呼ばれます。これは世界にも定着していて、インバウンドの中には、「日本にラーメンを食べに来た」という人も少なくありません。ちなみに中国でも、現地のラーメンとは違う日本のラーメンは「日式ラーメン」と呼ばれ人気です。

さて、一見すると順調に見えるラーメン業界を悩ませるのが、1000円の壁。近年の社会事情から、物の値段は確実に上がり、それに合わせて単価を上げたラーメン店も多いことでしょう。それでも、990円と1000円では与えるインパクトが違います。3桁と4桁の違いと言ってしまえばそれだけですが、ラーメンに4桁を払うことに抵抗感があると考えるのは妥当です。

もちろん 1000円の壁が存在するのはラーメン業界だけではありません。 いわゆる ファストフードと呼ばれるものは、同じことに頭を痛めています。

例えば、牛丼店。牛丼と言えば、安価でお腹を満たしてくれる食事の代表でした。日本の不景気を支えた店舗と言っても過言ではありません。もちろん以前ほどの安さはないにしても、松屋の牛めしの並は今でも400円です。

ところが、最近投入された商品を見てみると、期間限定の「たっぷり明太タルタルチキン定食」が890円。「シャリアピンソースハンバーグ定食」は890円。大盛りはプラス60円なので、ギリギリ1000円いかない価格となっています。

もうひとつ。1000円の壁にあえぐ例を挙げます。これまで、「他のチェーンよりも安い」とされてきたマクドナルドですが、近年は値上げを繰り返しています。

ビックマックは、2020年には390円でしたが、2022年に410円。23年1月に450円になり、7月には都市店価格が導入され、都心では500円になり、さらに今年の1月からは530円になりました。約4年間で35%もの値上げをしているのです。

一方、業界2位のモスバーガーは値上げの回数も少なければ、値上げ率もそれほど高くありません。その結果、マクドナルドとモスバーガーが価格では、ほぼ変わらなくなってきています。

この理由のひとつに1000円の壁があると言われています。看板商品である「モスバーガー」は、2023年の値上げで440円になりました。これにレギュラーセット(ポテトMかオニポテかサラダのいずれか1商品とドリンクMサイズ)をつけると890円です。1000円の壁までは余裕がありそうですが、モスバーガーより高いモスチーズバーガーセットは930円、海老カツバーガーセットは930円と、こちらは1000円の壁、目前です。

つまり、レギュラー商品のセット価格が1000円近くなっていたモスバーガーは若干の値上げにおさえざるを得なかったものの、その価格帯よりは安かったマクドナルドは値段を上げでき、ついには同じ価格帯にまで迫ってきたということです。

業界1位のマクドナルドと2位のモスバーガーには圧倒的な差があるので、今後のマクドナルドの動きに注目です。ともすると、先にマクドナルドが値上げし、モスバーガーはじめ他のチェーンが追随していくのかもしれません。

何はともあれ現段階では、1000円の壁に悩みながら、周りの様子見をしているところが多いのです。

ラーメン店は参入障壁が低いが…

話題をラーメン店に戻しましょう。

ラーメン店は大規模な調理設備の投資を必要としませんし、内装もあまりコストをかけずにはじめられます。つまり、参入障壁が低いということです。

そのせいもあり同業が多く、競争が激しくなります。日本のラーメン業界は、こうしてより強い個性を求め、進化してきたわけです。

特に、ダシに個性を出す店舗が多く、お客の目に見えない部分のコストが莫大にかかり、利益率が落ちてしまう店舗も多くあります。それゆえに、そこそこ人気の店なのに経営が立ち行かない…というところが多いのが現状です。

ですが、成功している店舗の利益率は高く、外食全体を見ても年収では比較的高い方だというのが筆者の印象です。

飲食店経営者の年収実態とアップするコツは?

結局はやり方次第なのかもしれません。そして、ここにヒントがあります。

ラーメン店、苦戦の実情

では、なぜ経営が立ち行かなくなるラーメン店が多いのでしょうか?
それに大きく関係しているのが1000円の壁です。

飲食店に限らず、人件費や 原材料費が高くなれば、それを売価に反映させるのが理想的な運営となります。昨今の物価高の影響を受け、少しずつ値段を上げてきたという店舗もあるでしょう。

しかし、さすがにこれ以上は上げられないと感じるのが1000円。原価などが高くなっていることは誰もが分かっている一方、大企業の給料も上がっていて、ある程度の値上げを許容する風潮はあります。

それでも1000円の壁を超えるのは有名店でも容易ではないと言われるほど大きな壁。超えなければ経営状態が悪化し、超えれば客足が遠のく。そのジレンマに陥っているのです。

実際、国民食として人気の高いラーメン店の倒産、休廃業は加速しています。2023年のラーメン店の倒産は45件で、前年比114.2%増。前年の2.1倍と大幅に増えたことになります。2009年以降では最多。休廃業・解散も増え、こちらも最多を更新しています。

1000円の壁はいつから?

ではいつから1000円の壁と叫ばれるようになったのでしょうか?

1000円の壁と言われ出したのは、2020年頃。この年は新型コロナウイルスの感染者が出た年です。それまでも1000円の壁は感覚的にあったものの、補助金などの恩恵もあり、大きな問題になるのが先延ばしになったのかもしれません。

ラーメン店が不利な2つの理由

ラーメン店が他業態と比較して不利な理由は2つあると考えます。

ひとつは、店内で食べるのが基本で、来客数に上限があるということ。もちろんテイクアウトもできますし、Uber などのデリバリーサービスを活用している店舗もあります。しかし、麺がのびてしまうことや、冷めるとおいしさが半減するなど、店側からは「積極的には取り組みたくない」という声が聞かれます。

客側にしても、家でのびたラーメンを食べるくらいなら、冷凍食品のラーメンを食べたり、コンビニのラーメンを食べようという発想になりがちです。

そしてもうひとつが、低価格型のラーメンチェーンの存在です。

総務省の「小売物価統計調査(東京区部、小麦関連製品の年平均小売価格の推移)」によれば、「中華そば(外食)」の価格は2022年が707円です。10年前(2013年)が594円だったことを考えると20%近く伸びていますが、低いと感じる方は多いのではないでしょうか?

この低さの理由が低価格型のラーメンチェーンの存在というわけです。

この数字ですが、小麦に着目するとラーメン店の苦戦状況が見えてきます。

出典:総務省 小売物価統計調査年報 2022年(小売価格の動き-東京都区部-)
https://www.stat.go.jp/data/kouri/doukou/2022np/pdf/kourikakaku2022.pdf

2013年の価格を100として2022年の価格を指数化してみると、小麦自体は138.7となっています。また、ゆでうどんは127.5、カップ麺は120.4、うどん(外食)は119.0となっているのに対し、中華そば(外食)は93.1。

つまり、ラーメン店だけが、値上げできなかった現状が浮き彫りになっています。これは苦戦以外のなにものでもありません。

1000円の壁は超えるしかない

では、1000円の壁は越えられないのでしょうか?

これの答えは1つ。
超えられるか、超えられないかではなく、超えるしかないということです。

人件費も 原価率も上がったのに、いつまでも1000円の壁を超えなければ、遅かれ早かれ閉店という道しかなくなります。

問題なのは、どのタイミングで、どうやって超えるかということです。

社会的な流れとしては、「超えたってよいのでは?」という方向に進みつつあります。ホリエモンプロデュースのラーメン屋が登場し、ラーメン1杯1万円、餃子は2千円という店ができたり、インバウンド向けに喜多方ラーメン1杯3000円の店が登場しているからです。両店は1000円の壁なんて小さなことと考えた大胆な値付けです。

これらの店は風当たりが強いようですが、社会に「ラーメンにこんなに払う客もいる」という印象を与えたのは大きいこと。これは大きな風穴になってくれそうです。

まずは、「気がついたら超えていた」状態を目指す
それでも超えられないというのなら、お客自ら、小規模に超えさせていくという手法はどうでしょうか?

ラーメン1杯は1000円を超えない価格に設定し、トッピングを足すと1000円を超えるのです。実際、これまでもトッピングを全部のせにすると1000円を超えるという店は多かったでしょう。このハードルを下げるわけです。

もちろん、トッピングをプラスするから味わえるお得感を強化していくことを忘れてはいけません。

今は、給料が上がった人と上がらない人に二分されているのが現状です。それでも上がった人は、数年前と比べて1割、2割と上がっている人も多く、その実感もあります。こうなると食事にかける費用も上がって当然。1000円の壁と言われはじめた2020年とは環境が変わっているのです。

もちろん、今までのお客のすべてが1000円の壁を越えても受け入れてくれるというわけではありません。アップデートできなかったお客を追うのではなく、新たな顧客を増やす方向にシフトすることが大切というわけです。

1000円を超えても売り上げを維持できるシミュレーション

それでも、1000円の壁を越える勇気がないと言う方のために、ひとつのシミュレーションを紹介します。

席数が15席のラーメン店を例にします。イメージとしてはカウンター10席に、テーブル席が1~2つで5席分ある感じです。

お客ひとりあたりの滞在時間は20分と考えると、最大の客席回転数は3回転。1時間で受け入れられる最大客数は45人です。この場合、客単価を900円とすると、時間当たりの最高売り上げは、以下になります。
900円×45客=4万5,000円

また、1日を通して考えると、ラーメン屋では客席回転数8回転がひとつの基準とされています。これをベースに試算すると、1日の売り上げは、
900円×15席×8回転=10万8,000円
このときの客数は、120客です。

では、価格を1,100円に上げるとどうなるでしょうか?
すべてのお客(120人)がそのまま来店を続ければ、1日の売り上げは13万2,000円になりますが、そうはいきません。

そこで、現状と同じ売り上げをキープすることを目標にします。そのためには、何人の来店が必要でしょうか?

1日の売り上げは10万8,000円ですから、
108,000円÷1,100=98客

つまり、約2割のお客が離れても、約8割のお客がくれば売り上げがキープできることになります。売り上げが同じなら、固定費の負担は変わりません。

一方で、お客が8割に減ると、仕入れは変わります。
仮に客単価が900円のときの1杯あたりの原価率が40%だったとすると原価は360円です。客単価を上げても商品がそのままであれば原価は変わりませんので360円のまま。これを1,100円で売ると、原価率は32.7%にダウンします。

しかも、同じ売上をキープしながら客数は80%に減っているので、仕入れ値は減ります。

900円のときの仕入れ値
360円×120客=4万3,200円

1,100円のときの仕入れ値
360円×98客=3万5,280円

1日あたりの仕入れ値は、7,920円も減少します。

また、値上げをしたことで2割のお客が減れば、スタッフの労働時間を減らすことができるかもしれません。すると人件費は減少できます。このように経営効率はよくなっていきます。

これは理論上の数値ですが、可能性の面から考えれば、ありではないでしょうか。

まとめ

ラーメン店を悩ます1,000円の壁について考察してみました。

1,000円の壁は確かに越えずらい壁ではありますが、単価を上げることで客数が減っても経営効率が上がると視点を変えれば、無理なことではありません。

もちろん、お客の一部は足が遠のくかもしれません。それでも、支払意欲をもったお客に手厚いサービスを提供することで、新しい道を模索できるのです。1,000円の壁は確かに大きいのかもしれませんが、一度超えてしまえば、次は5000円の壁、または1万円の壁までは来ないでしょう。

今こそ思考を変えるときなのです。