新型コロナウィルスの世界的な感染拡大が続いている。本記事執筆時点での全世界の新型コロナウィルス感染者数は370万人を超え、死亡者数は26万人に達している。感染者が多いアメリカやヨーロッパの国々では主要な都市がロックダウンされ、市民は自宅待機を余儀なくされている。食料品や医薬品などを販売する店舗以外の多くの店舗が閉鎖され、営業停止に追い込まれている。
アメリカを直撃した新型コロナウィルス
中でも最大の被害を受けているのがアメリカだ。本記事執筆時点(2020年5月6日)でのアメリカの新型コロナウィルス感染者数は126万人を超え、死亡者数は7万4,577人に達している。当初はワシントン州から始まったアメリカの新型コロナウィルスのパンデミックは、たちまち全米へ飛び火し、ニューヨーク州、ニュージャージー州、ペンシルバニア州などの東部の主要州を中心に感染を広げてきた。さらに、人口が多いカリフォルニア州、テキサス州、イリノイ州などでも感染が拡大している。
感染拡大を抑えるため、各州は直ちに非常事態宣言を発令、各主要都市はロックダウンに追い込まれた。多くの州でレストランやバーなどを含む店舗の営業が禁止され、自宅待機命令から客足が途絶えた。一部の州ではテイクアウトやデリバリーは行えるものの、店内での飲食が全面的に禁止され、通常の営業は停止された。アメリカの多くの飲食店は、売上がほとんどゼロになるという未曽有の事態に突入することとなった。
営業禁止されたアメリカの飲食店、250億ドルの売上が消失
全米レストラン協会が行った調査によると、アメリカで新型コロナウィルスのパンデミックが始まった3月の最初の22日間で、全米の飲食店から250億ドル(約2兆7500億円)もの売上が失われたという。また、これまでに既に3万の飲食店が廃業を余儀なくされ、今後さらに11万の飲食店が廃業に追い込まれるという。単純計算で一日当たり11億3640万ドル(約1250億円)の売上が無くなる計算だが、ロックダウンが長引けば長引くほど飲食店へのダメージは大きくなる。
また、飲食店の廃業に伴い、今後少なくとも300万人の雇用が失われる見通しだ。失業者の増加はそのまま失業保険給付申請の増加へとつながり、パンデミックの発生から48日間で2630万人のものアメリカ人労働者が失業保険給付を申請したという。もちろん、史上最大の数字だ。
トランプ大統領は、早くもアメリカ経済再開についてのコメントを出し始めるなど、ロックダウン解除に向けて動き始めている。一部の州などでは、飲食店やヘアサロンなどの営業再開を来月初めころから認めるところも出てきている。しかし、ニューヨーク州やカリフォルニア州では、逆にロックダウンの延長を決めていて、飲食店の営業の完全再開までにはまだ相応の時間がかかるものと見られている。
営業停止中の飲食店経営者は今、どうしている?
では、厳しい状況を余儀なくされているアメリカの飲食店経営者は今、どうしているのだろうか。チャリティ・セイヤーさんはジョージア州アトランタにあるレストラン、ビットルズのオーナーだ。30年以上続いているビットルズは、地元民に愛されるアメリカン・ブレックファスト・レストランで、年配のお客さんが多いお店だ。セイヤーさんによると、お店のお客は大半がリピート客で、多くのお客が毎日、中には一日二回来店するお客もあるという。
ところが、先月ジョージア州でも新型コロナウィルスのパンデミックが発生し、自宅待機命令を含む非常事態宣言が発令、お店も休業を余儀なくされてしまった。客足が途絶え、テイクアウトとデリバリーのみの営業となったお店の売上はほぼゼロになってしまった。やむなく12人いた従業員のうち10人を解雇したもののキャッシュの持ち出しが止まらず、最終的には自慢の愛車フォード・マスタングを売却して家賃と給料の支払いに充てているという。
「(車を売ったお金で)数カ月はしのげると思いますが、その先はわかりません。一日も早く経済が再開するのを祈るばかりです」と語るセイヤーさん。現在はクラウドファンディングサイトのGo Fund Meで寄付を募り、地元の医療機関関係者や警察関係者のための無料食事提供ボランティアをしているという。
飲食店経営者に対するアメリカ政府の支援策は?
では、セイヤーさんのような苦境にある飲食店経営者を救うアメリカ政府の支援策はどのようなものか。まずは年収7万5千ドル(約825万円)以下のすべての人に払われる1200ドル(約13万2千円)の現金給付だ。納税番号登録者には銀行口座へ入金され、未登録者には小切手で支払われる。被扶養者の子供がいる場合は一人当たり500ドル(約5万5千円)がプラスされる。給付はすでに始まっており、セイヤーさんも受給済みかもしれない。
従業員を解雇せずに経営を続けた場合、給与保護プログラム(Paycheck Protection Program)という公的制度融資が利用可能だ。従業員を解雇してしまったセイヤーさんは残念ながら使うことはできないが、従業員の雇用を維持した場合、従業員一人当たり10万ドル(約1100万円)を目処に借入れできる可能性がある。しかも、一定の期間まで雇用を維持し続ければ、融資そのものが免除される。
ほとんど大盤振る舞いと言うべき給与保護プログラムには申し込みが殺到し、開始からわずか13日間で予算3490億ドル(約38兆3900億円)が払底してしまったという。アメリカ議会は追加で3100億ドル(約34兆1000億円)を計上したが、この追加予算も短期間で払底すると見込まれている。
先行きが見えない飲食店の未来
パンデミックが収束する兆しが見えない中、アメリカの多くの飲食店は先行きが見えない状態が続いている。仮に経済活動が再開したとしても、飲食店の経営は「コロナ後」の「新たな日常」での経営を余儀なくされるだろう。
カリフォルニア州のニューサム知事は、経済活動再開後の飲食店の「新たな日常」として、「使い捨てのメニューを見たお客の注文を、マスクをつけたウェイターが注文をとり、お互いがソーシャルディスタンシングする光景」をイメージとして挙げているが、恐らく大なり小なりそのようなことになる可能性が高いだろう。
新型コロナウィルスのパンデミックは、色々な意味で我々の生活を激変させた。飲食店の経営も、とてつもない打撃を受けている。「コロナ後」の「新たな日常」をイメージしつつ、一日も早い経済活動の再開を祈るばかりである。
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