シェフと企業をマッチングするハングリーのビジネスモデルとは?

米バージニア州にハングリー(Hungry)というベンチャー企業がある。ハングリーはワシントンDC、バージニア州、メリーランド州、ペンシルベニア州の、いわゆるアメリカ首都圏を対象にサービスを提供しているフードテック企業だ。

 

2016年に起業家イーマン・パーラヴァニ氏が立ち上げ、2017年からサービスを開始したハングリーは、先日投資家などから150万ドル(約1億6500万円)の資金をシードファンディングで調達し、話題を集めた。これにより同社が集めた資金の総額は450万ドル(約4億9500万円)となったが、比較的ローテクのフードテック企業が集めた額としては少なくない金額だ。

なお、同社に投資している投資家の中には旅行情報サイト大手エクスペディアの元役員、ブレント・トンプソン氏も含まれているという。ところで、同社は調達した資金をマーケット拡大、シェフの確保、オーダーリングシステム・デリバリーシステムの開発などに使うとしている。

シェフと企業をマッチングするハングリー、企業の中にはAmazonやマイクロソフトも

ハングリー(Hungry)シェフ紹介画面

さて、そのハングリーのビジネスモデルだが、一体何がユニークなのだろうか。まず、ハングリーのビジネスモデルは単なるケータリングでもなければ、レストランと企業をマッチングするマッチングサイトでもない。ハングリーのビジネスモデルは、同社がネットワーク・オブ・シェフズと呼ぶシェフのネットワークをベースにしている。

ネットワーク・オブ・シェフズには地元エリア内の著名シェフに加え、元ホワイトハウス専属シェフ、アメリカ版アイアンシェフ、料理バトル大会優勝者などの各種の豊かなタレントが含まれている。ハングリーのビジネスモデルは、そうしたシェフ達と企業とをダイレクトにマッチングさせるものだ。

単に料理をレストランやケータリング会社からデリバリーしてもらうのではなく、アイアンシェフやセレブリティシェフなどの有名シェフに直接料理を注文でき、オフィスで楽しむ事ができるというハングリーのサービスは開始直後よりたちまち評判となり、立ち上げからわずか1年で売上が100万ドル(約1億1千万円)を突破したという。

また、ハングリーのサービスは、特にワシントンDCエリアのハイテク企業に人気で、これまでに300社以上のハイテク企業が同社のサービスを利用したという。なお、それらの企業の中にはAmazon、マイクロソフト、Eトレード証券、デルコンピューター、シスコシステムズといったハイテク企業も含まれているという。


シェフにも企業にもメリットをもたらすビジネスモデル

なお、ハングリーの使い方は非常に簡単だ。注文者は、ハングリーのウェブサイトから好きなシェフを選んで料理を注文するだけ。注文が入るとその旨がシェフに伝えられ、シェフが注文日と時間に合わせて料理をする(注文者は最短24時間前まで注文できる)。料理ができると「キャプテン」と呼ばれるハングリーのスタッフが料理を取りにゆき、注文者のオフィスに配達、そのままテーブルをセットしてパーティ開始となる。

ハングリーのビジネスモデルは、シェフにはエクストラの売上をもたらし、企業には「食のエンターテインメント」というメリットをもたらす。特に、従業員の誕生日や会社の設立記念日といった特別な日には、大きなバリューとして利用者に認識されるだろう。

ハングリー利用の背景にはアメリカのハイテク企業の文化が

ところで、なぜ多くのハイテク企業がハングリーを利用しているのだろうか。その背景には、アメリカのハイテク企業間の人材獲得競争と、飲食などを含む社内環境を充実させようとする文化が関係していると考える。

GoogleやAppleなどの巨大ハイテク企業では、従業員がレストランを無料で利用できる制度がある。特にGoogleのレストランはその豪勢なメニューで知られ、従業員はコンチネンタル風の朝食からスナック、サラダ、各種のオードブル、肉や魚のアントレーまで、好きな物を完全無料で食べることができる。

このように、アメリカのハイテク企業においては、従業員に優れた食事を提供する事が優秀な人材確保のための前提となりつつある。Googleなどに勤務するエンジニアの給与は高く、会社が朝昼晩の食事をすべて提供しても、エンジニアに外食されて時間を使われてしまうよりも元が取れる。ましてや従業員の誕生日といった特別な日に、若干の経費を使ってアイアンシェフの料理を届けてもらうことなどは、痛くもかゆくもないだろう。

ハングリーのビジネスは成功するか?

以上のように、ハングリーのビジネスは、アメリカのハイテク企業に特有の文化が支えている面があるように思える。少なくとも、ハングリーを実際に利用している企業の顔ぶれを見る限り、そのことに間違いはないと思われる。

一方で、ハングリーのビジネスモデルは、シェフという個人のタレントと企業を直接マッチングするという点でユニークであるともすべきだろう。いわばハングリーがシェフというタレントのエージェントとして機能しているわけだが、シェフをタイムシェアリングするというこの仕組みは、今後の日本でも展開される可能性が高いだろう。

ハングリーは現在、アメリカ首都圏という限定されたエリアでのみ営業しているが、今後はニューヨーク、シカゴ、ロサンゼルス、シリコンバレーといった、アメリカの他のエリアにも拡大してゆくのは間違いないだろう。特に、シリコンバレーにはハングリーと相性の良さそうなハイテク企業が集中している。ハングリーがシリコンバレーで活動を開始することで、全米のシェフがシリコンバレーに集まってくる「シェフの大移動」が発生する可能性すらあるかもしれない。色々な可能性を秘めたハングリーの今後に注目したい。


参照:
https://thespoon.tech/hungry-raises-1-5m-for-its-chef-centric-corporate-catering/

http://www.finsmes.com/2018/06/foodtech-startup-hungry-raises-1-5m-in-seed-funding.html

https://www.businessinsider.com/photos-of-googles-free-food-2016-8


ライタープロフィール
前田健二

東京都出身。2001年より経営コンサルタントの活動を開始し、現在は新規事業立上げ、ネットマーケティングのコンサルティングを行っている。アメリカのIT、3Dプリンター、ロボット、ドローン、医療、飲食などのベンチャー・ニュービジネス事情に詳しく、現地の人脈・ネットワークから情報を収集している。




コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。