飲食店が繁盛するために必要な要素に、人気メニューの存在があります。近年流行する店舗では、特にその傾向が強くなっていると感じます。また、一時的な流行に終わり、ブームの終息と共に消えていく飲食店が多いのも現実です。
そこで、一過性のブームで終わらず、長く愛される飲食店になるために、必要な要素を考えて行きます。
タピオカミルクティー、パンケーキ、かき氷・・・。人気メニューの傾向とは?
3年前のある冬の日。若い女の子たちが、原宿の路上で凍えながら列を作っていました。その理由は、「アイスモンスター」のかき氷を食べるため。女性は冷えに弱いといわれますが、それでも冬に長蛇の列を作り、さらに冷えるかき氷を食べたいと思わせるのです。ブームとはなんと大きなパワーを持っているのかと驚いたものです。
また、1年半ほど前は、新宿駅西口のロータリーで驚くほどの長蛇の列を見かけました。長年通う場所で始めて見る光景に、「何かのイベント?」と思ったのですが、その正体はタピオカミルクティーの店「ゴンチャ」に通じていました。
他にも、パンケーキや高級食パン、チーズドック、クロワッサンたい焼きなど、近年ブームとなったメニューは数多くあります。
まずは、これらの商品がブームとなった背景から見ていきたいと思います。
今、一番熱いメニュー!再ブームとなったタピオカミルクティー
タピオカミルクティーの第1次ブームは1990年代後半でした。ブラックタピオカと言われる黒くて大粒なタピオカを濃厚なミルクティーに入れた新しい味わいは、多くの人に衝撃を与え、一躍人気となりました。その後、ブームが去っても定番化し、ファミリーレストランやコンビニでも販売されていました。
その後、近年になってタピオカミルクティーが再ブームとなります。きっかけは、海外で展開するオシャレなチェーン店が日本に上陸したこと。それまで知っていたタピオカミルクティーが進化し、新たなドリンクとなったわけですから、親近感も手伝って、一気にブームとなりました。
そんな専門店のひとつ、「THE ALLEY」のメニュー展開を見てみると、タピオカミルクティーだけでも6種あり、ほとんどの商品が、「熱い・温かい・冷たい」の3温度帯からチョイスできるようになっています。これまで、タピオカミルクティーは冷たい商品だと思っていた私たちに、新しい味わい方を提供してくれたわけです。
また、茶葉にこだわった紅茶はもちろん、鉄観音茶や緑茶を使用したメニューまであり、タピオカを入れないお茶としても提供しています。これは新しい驚きであり、親近感を持ったひとつの条件となりました。
韓国フードの新定番。チーズタッカルビとチーズドック
近年ブームとなったメニューに、2つの韓国料理があります。
ひとつは2016年から広がり、翌年に爆発的な人気となった「チーズタッカルビ」です。タッカルビは韓国の辛味噌であるコチュジャンをベースに味付けた鶏肉料理で、以前から知っていた方も多いでしょう。これにチーズを加えたのがチーズタッカルビ。マイルドな味わいでうまいと評判となり、新大久保から全国に広がりました。今ではファミレスでもメニュー化されています。
また、同じく韓国発の料理として人気となっているのが、韓国式のアメリカンドッグ「チーズハットグ」です。こちらは韓国の屋台メシのひとつ。長く伸びるチーズがインスタ映えすると話題となり、新大久保の韓国人街では数十メートル毎にハットグを販売する店舗ができたほどです。ついには「新大久保の街は人が多くて歩けない」と言われるほどになりました。
ブームは新しいメニューではなく、すでに現存するものから誕生する
飲食店の中には、流行のメニューを取り扱ってブームに乗りたいと考える店舗もあるでしょう。また、できることなら、自分たちでブームを作り出したいと考えているかもしれません。
そうなると、「今までにないものを作りだそう」と考える傾向にあるのですが、上記の例を見て分かるとおり、最近のブームの傾向は、「これまであった商品の進化形」であることがほとんどです。
確かに過去には、新しいメニューがブームとなることが多くありました。例えば、タピオカミルクティーの最初のブームもそうですし、ティラミスやナタデココもその代表と言えるでしょう。ただし、これは前世紀までの話。飲食店が専門店化している昨今では、まだ日本に知られていない商品は少なく、今ある商品の中からブームが誕生するのです。
そのブームの最たるものが、高級食パンかもしれません。食パンは、決して新しいものではなく、斬新な新商品は出しにくいものだとも言えます。高級食パンと言っても、見た目はコンビニやスーパーで販売されている商品とほぼ変わりはありません。また、美味しい食パンは、これまでもベーカリーショップで販売されてきました。それでも、高級食パン専門店ができてブームとなり、お客は行列を作って買うのです。
ブームを作り出すには、確かな技術で作った商品作りと時代を捉えた進化が重要
では、ヒット商品の背景には何があるのでしょうか? もう少し深掘りしていきましょう。
前出のタピオカミルクティーの場合、今のブームが起こったのは「専門店が登場し、オシャレな商品ができたこと」にあります。
これまでタピオカミルクティーと言えば、ブラックタピオカが主役で、紅茶はそれを支える脇役でしかありませんでした。ここに、こだわった茶葉とおいしいミルクを使った紅茶や、中国茶、日本茶が登場することで、新たな味わいを提案してくれました。定番品が進化したため、お客は新しいものに対する抵抗感を感じることもなく、すんなりと受け入れたわけです。
また、見た目が美しく、オシャレになることも必須条件です。これは、お客自身がその場で満足するだけでなく、SNSで「自慢する」ことにつながります。この行為は、お客にとってはただの自慢であっても、店舗にとっては大きな宣伝。「○○で新商品を食べた(飲んだ)」と発信することが自慢となるような店舗となれれば、必然的に来客が絶えない店となれるわけです。
これらの要素を満たすためには、女性の心をくすぐることが重要となります。なぜなら、どの新商品も、行列を作っているのは女性とカップルがほとんどだからです。もちろん、ラーメン店のように男性が列の主体となる店舗もありますが、それは例外的と言えるでしょう。多くの商品は、最初に並ぶのは女性。口コミ力の高い女性が並ぶからこそ話題となり、加速的にブームとなるのです。
地方の店なら、ブームが来たことを確認してから乗っても遅くはない
では、いち早くブームに乗らなければ間に合わないのでしょうか?
答えは、NOです。多くのブームは、東京から発信されます。また、それ以外の地である場合も、多くは大都市から火がつきます。地方の飲食店であれば、そのブームの動向を見てから、そのブームに乗っても遅くはありません。
例えば、チーズハットグは新大久保で大ブームとなりましたが、その後、茨城県水戸市のスタンド酒場「ニューもっさん」が2018年秋から店頭で販売を始めました。10月からは女子高生が列をなすようになり、多い日は1日に300本ものハットグを販売するようになっています。新大久保がハットグを食べる人でごった返したのは2017年ですから、1年半後に発売を開始しても、十分ブームに乗れたと言うことです。
地方の店舗では、新商品を発売してもブームを作り出すのには時間がかかってしまいます。それであれば割り切って、すでにブームとなっている商品を売るほうが賢明な選択だと言えるでしょう。
いつまでも人気店でいるためには魅力的な店作りが欠かせない
ここまではブームとなる商品について話を進めてきました。ですが、できることなら短期的な流行に終わってしまわず、息の長い商売をしていきたいと考えるのは当然です。そうなるために何が必要かを考えていきましょう。
商品としてのブームは下火となっても、「あの店に行けば美味しい商品が食べられる(飲める)」「あの店に、また行きたい」という店舗が誰でもあるはずです。こういった店舗には、多くのファンが存在し、商品や店舗の魅力を支持してくれます。つまり、ブームをきっかけにファン作りに成功した店舗が生き残っていけると言うわけです。
商品については、定番商品にこだわりを持つこと、そして美味しいことは当然の要素に過ぎません。これに加え、アレンジ商品を次々に出すことで、いつまでも新鮮な印象を与え続けることが重要となります。全国的なチェーン店でも、季節限定商品や新商品は必ず出しています。それと同じように、今しか食べられない特別な商品を提供し、「早く試したい」と思わせることがリピート率アップに欠かせません。
また、飲食店だからといって商品にこだわるだけでなく、魅力的な店作りも重要となります。飲食店を利用する理由は、ただ「美味しいものを食べたい」という欲求だけではありません。非日常な雰囲気を感じたいとか、心地よいサービスを受けたいなどの理由があるはずです。ブームの間は、「流行の商品を試しにあそこに行きたい」だったわけですが、ブームが去った後は、このきっかけ作りにも力を入れる必要があります。
情報発信力が何よりも重要。オリジナルストーリーは積極的にアピールする
また、ファン作りには、ストーリーが欠かせません。見て分かる、味わって分かるものだけでなく、その背景にあるストーリーが店舗の魅力を下支えするのです。例えば、「この商品を作るために数々の失敗を繰り返した」とか、「店舗オープンまでの苦労話」などは多くの人が興味を持つ話題です。これを知ることで、ますます店舗や商品を好きになります。
ずっと以前であれば、これを伝える手段はありませんでした。ですが、今はWEBがあります。そう言ったものを使い、さまざまな情報を発信することでお客は店のストーリーを知り、ますます魅力を感じ、ファンになるわけです。
流行っているからと訪れた客がリピート客となり、ファンとなる。このための努力をした店舗だけが生き残っていけるのです。ぜひ、さまざまな情報を積極的に発信し、息の長い商売を続けてください。
ライタープロフィール
原田 園子
兵庫県出身。 株式会社モスフードサービス、「月刊起業塾」「わたしのきれい」編集長を経てフリーライター、WEBディレクターとして活動中。