さまざまなサービスで「月額定額制=サブスクリプション」が採用されています。2017年からは、その波が飲食店にも押し寄せ、2018年には次々と採用されるようになってきました。利用者が増えれば原材料費や人的コストが増大する飲食店で、なぜサブスクリプションが導入されるのか?それでも利益が出せるのか?
実際に採用している店舗の例を見ながら、その仕組みを探って行きます。
さまざまなジャンルに広がる定額制の波
あちこちで目にするようになった定額制。毎月定額を支払うことで、サービスを無制限に使えるもので、携帯電話代金や動画配信サービス、IT関連サービスなどではすっかりおなじみのものとなりました。また、スポーツジムなどは以前から月額制を採用しているところが多く、これ自体は新しいサービスではないと言えるのかもしれません。
そんな中、昨年あたりから定額の波が、飲食店にもやってきました。ただし、飲食店の場合、利用者が増えるほどに利益が上がるIT業界とは違い、一定額の中で大量に飲み食いをすれば原価は確実に高騰します。また、来客数が増えればスタッフを増やさなければなりません。そでれもなお、定額制を導入する店舗が増えている点に疑問を感じている人も多いでしょう。
確かに、飲食店には以前から、「食べ放題」「飲み放題」を提供する店舗がありました。その意味では、月額定額制はその発展系だと言えるのかも知れません。でも、120分という短い時間の中で好きなだけ飲み食いをしてよいという制度と、1ヶ月という長期に何度も無料で利用できるのでは事情も大きく違うはず。まずは、飲食店における定額制の実情をチェックしてみましょう。
飲食店定額制の牽引役「はなまるうどん 天ぷら定期券」
最初に紹介するのは、定額制の中で最もメジャーなサービス。「はなまるうどん」の天ぷら定期券です。期間限定となりますが、2017年秋に続き、2018年春にも実施。今後も定期的にキャンペーンを実施すると予測されています。2017年秋の定期券販売数は全店で約14万枚記録。飲食店における定額制の中では、間違いなく最大のサービスとなります。
2018年春のキャンペーンでは「吉野家コラボ定期券」となり、1枚300円で『天ぷら定期券』を購入すると、最長で37日間、はなまるうどんでは天ぷら1品、吉野屋では丼・定食・皿・カレーが80円引きでオーダーできます。
ラーメン業界初の定額制。アプリまで作った「野郎ラーメン」
フードリヴァンプが展開する「野郎ラーメン」は、ボリューム満点のラーメンを提供するチェーン店。都内を中心に16店舗を展開し、男性客に圧倒的な人気を誇っています。この野郎ラーメンは、2017年11月に定額制をスタート。月額8600円を支払えば、1日1杯、3商品の中から好きなラーメンを選んで食べられるサービスとなっています。
野郎ラーメンの取り組みは、ラーメン業界初の定額制だったことに加え、「野郎ラーメンアプリ」(iOS版・Android版あり)を同時リリースしたことでも話題となりました。このアプリでは、店舗検索ができるほか、キャンペーン告知なども発信する仕様となっています。
1日何度も利用できる「Coffee mafia」と「ハンデルスカフェ」
ビジネスパーソンにとってコーヒーは日常的なドリンクであるのはもちろん、カフェスペースがリフレッシュの場であったり、ノマドワークに活用したりとその存在自体が重要となっていることも多いでしょう。そんなコーヒーショップでもサブスクリプション制が採用されています。
夜対応の割引サービスもついた定額会員制度Coffee mafia
西新宿と飯田橋にある「Coffee mafia」は、いち早く定額制を採用したことで知られるコーヒースタンドです。定額会員になると、指定のコーヒーが無料で飲めるほか、ディナータイムには同行者も一緒にアルコールをお得に飲むことができます。
定額コースは2種類あり、月額3,000円であれば1杯300円のラージサイズコーヒーがいつでも無料。6,500円であれば、全てのソフトドリンクをいつでも無料(一部例外あり)で利用できます。
ソフトドリンクの価格は、クイックコーヒーLサイズ300円の他、チョコレートオレ550円、バターコーヒー700円、カフェオレ450円。1回の来店につき1杯無料で、1日に複数回利用することも可能です。ディナータイムの会員価格は、モルツ480円が280円、ハイボール400円が280円などとなっています。
西新宿店と飯田橋店共通の会員制度となっており、2店舗を利用することができます。
定額会員になりたい人が殺到しているハンデルスカフェ
初回の会員募集時は50人分が5分。翌月は100人分が14分で完売したことで有名なのが「ハンデルスカフェ」です。横浜、池袋、大阪、京都に店舗があり、月額制飲み放題会員になると、コーヒーの他、紅茶、ラテなど14種類のドリンクが無料となります。こちらも1日何回でも利用でき、テイクアウトも可能です。
会員価格は、通常が5,800円ですが、大阪と京都の店舗は3,600円、横浜と池袋は3,900円で会員になることができます(2018年5月現在)。現在は定員数に達している店舗もあり、まずはプレ会員になっていくつかの特典を受けながら、定額会員募集のお知らせを待つこととなります。
雰囲気のある店舗でフレンチを格安定額で楽しめる「Provision」
立地は、六本木の路地裏ではありますが、地下鉄「六本木駅」出口からは徒歩2分。六本木交差点やミッドタウンにも近く、便利な場所に位置しています。
月額会費は、Solo(会員のみ)が1万5千円、Unison(会員含め4名まで)が3万円と非常にお得。メニューは仕入れ状況や季節により異なりますが、冷菜、サラダ、スパゲッティ、魚介料理、肉料理、デザートなど充実のラインナップです。
250種のドリンクが飲み放題になるアンドモワの定額制飲み放題サービス
個室居酒屋を中心に全国で347店舗を展開する「アンドモワ」がスタートしたのが、4つの期間設定から選べる定額制飲み放題サービス。首都圏の30店舗を皮切りに、地方にも提供店舗を増やしています。
飲み放題の価格設定は、1ヶ月が3,000円、2ヶ月5,000円、3ヶ月7,000円、6ヶ月13,000円の4種類。紹介者が会員になると、サービス期間が延長されます。
最大のポイントは、対象ドリンクが250種にも及ぶ点。飲み放題は、120分制(90分ラストオーダー)ですが、30分500円で延長可能で、同行客も1,780円の飲み放題を1,500円で利用することができます。また、会員は宴会コースが1,000円割引になるなど、使い方次第でますますお得になるシステムになっています。
定額制でも収益があがる5つの理由を徹底解明
定額制を導入した店舗で入会待ちの人が続出していることを見れば、消費者のニーズが高いことが分かります。また、店舗側にとっても新店をオープンさせたり、導入店舗を増やしたりしていることを見れば、メリットが多いことが分かります。つまり、定額制を導入しても収益は十分に確保できるということ。その理由を見ていきましょう。
理由1:常連客を囲い込み競合より優位に立てる
メリットのひとつめは、常連客を囲い込む点にあります。ラーメン店や居酒屋は、周りに同業他社があり、競争を強いられています。つまり、「ラーメンを食べに行こう」ではなく、「あの店にラーメンを食べに行こう」と思ってもらう必要があるのです。
お客は月額会員になれば、よりお得に利用したいという心理から何度も足を運ぶようになります。「どうせラーメンを食べるなら、無料で食べられるあの店に」となるのはもちろん、「給料前で財布がさみしいからあの店に」とこれまでラーメン以外のものを食べていたタイミングでも足を運ぶこととなり、利用頻度はさらに上がります。これにより、店の存在感は増していきます。
また、通常であれば「並んで待つなら他の店に行こう」と思っていた人も、「ちょっとくらいなら待ってもいい」と思うようになり、回転がよくなります。人気の店という雰囲気が出てくれば、会員外の人にも好印象を与えることとなり、呼び水効果となって売上げが向上するわけです。
また、コーヒーショップで夜もお得に利用できる特典をつければ、これまで昼利用だけだった人が夜にも足を運ぶようになります。元々低い昼の客単価を下げることで、単価の高い時間帯に常連客が流れてくるのですから、これは大きなメリットと言えるでしょう。
理由2:会員が広告塔となり、他の客を連れてくる
レストランや居酒屋を利用するときには、誰かと一緒というのがほとんどです。誰かが会員であれば、「あの店に行こう」と誘ってくれることで、複数人での利用が促進されます。
また、コーヒーショップなど、女性客が多い店舗では、あちこちで話題にあげてくれるため、大きな口コミ効果が期待できます。
宣伝方法はさまざまありますが、口コミにまさる宣伝はありません。会員だけのことを考えると赤字になるとしても、それを広告宣伝費と考えれば決して損失にならないというのが、大胆な価格設定をした会員価格の損益の考え方。同行する人を含めて考えれば、結果的に利益がでたり、人が人を呼ぶ効果を含めて考えるからこそ、飲食店での定額が成り立っているのです。
理由3:客単価は意外に下がらない
飲食店で営業売上げを確保するには、客単価を下げないこともポイントとなります。居酒屋の定額飲み放題の場合、利用すればするほど客単価が下がりそうですが、その差はごく少額で済むことがほとんどだと言われています。
もちろん、定額で利用する最初は、「できるだけ得をしたい」との考えから、とにかくたくさん飲もうとすることもあるでしょう。ただし、何度も利用を重ねることで、「ドリンク代がタダになる分、いつもは頼まない高価な商品を頼もう」となる人が多く、結果的に客単価は上がってくるのです。
コーヒーの定額制でも同じで、それまでランチ利用がなかった店舗に、無料のコーヒーを飲むためにランチ利用する人が増えれば、客単価の低下以上のメリットを感じられるはずです。
理由4:気軽だから、利用頻度が上がる
最近は電子マネーを使う人が増え、財布を出して小銭のやりとりをすることを面倒だと感じる人も増えています。コーヒースタンドの定額制の場合、会員カードを発行しているため、それを見せるだけでコーヒーをもらえる利便性は大歓迎のはず。
朝や昼休みなど忙しい時間帯に利用者が多い業態であれば、面倒さを感じさせない定額制は歓迎され、長く会員であり続けるはずです。
理由5:生きた顧客リストを集められる
何かのキャンペーンをするとき、多くの人に情報を届けることが成功の鍵を握ります。そのため、どの飲食店でも顧客リストをどう充実させていくのかは大きなテーマです。その点から言えば、定額会員は顧客情報を集める最良の手段といえます。
月に何度も利用しようというお客は、店のファンとも言える存在。登録時に名前や住所、メールアドレスを一緒に登録してもらうことで、以降のキャンペーン情報などを定期的に発信することが可能となります。受け取った側も、毎日利用している店舗のメールとなれば開封する人も多くなり、双方にとってよい結果につながるのです。
導入は慎重に。諸刃の剣であることを理解しておく
サブスクリプション制(定額制)導入のメリットが非常に多いことをおわかりいただけたと思いますが、だからといってどの店舗でも導入をすすめてよいかというと、答えは「NO」です。実際、定額制を早々に導入した餃子店などはすでに閉店しており、やり方を間違えれば利益を圧迫することを証明しています。
ポイントは、前述のようなメリットをできるだけ多く享受できるような戦略を立てることが最初のステップになるでしょう。実際に会員登録した人が「お得感」を感じられることは継続してもらうための必須条件となります。そのためには大胆な価格設定も重要と言えるでしょう。
また、飽きられない商品作り、店作りも欠かせません。定額制になったことで、利用頻度は確実に上がります。それによって「もう飽きてしまった」となり、足が遠のいてしまっては意味がありません。「食べ放題・飲み放題だから、多少質が下がってもよいだろう」という考えは顧客満足度を低下させるだけ。定額制は諸刃の剣であることを理解しておくべきです。
お得に利用できるということ以外に、いかに付加価値をつけていくのか。それが定額制(サブスクリプション)成功の鍵を握るのです。
ライタープロフィール
原田 園子
兵庫県出身。 株式会社モスフードサービス、「月刊起業塾」「わたしのきれい」編集長を経てフリーライター、WEBディレクターとして活動中。