新型コロナウィルスのパンデミック発生から四年を数えたアメリカ。営業停止やテイクアウト・デリバリー限定などの規制を受け、困難な時期を乗り越えてきた飲食業界は今、アフターコロナの新たな時代を迎えつつある。しかし、もはや構造的・慢性的な課題となった人材不足の問題は、未だ解決の糸口すらつかめず、悪化の一途をたどっている。人材不足に苦しむアメリカ飲食業界の、人材獲得に向けた奮闘をお伝えする。
アメリカの飲食店の62%が「人材不足」を訴える
俯瞰するに、店舗の規模が比較的大きく、スタッフの数が相応に必要な形態の飲食店において人材不足の問題が深刻化しているようだ。その証拠に、事業規模やスタッフの人数が比較的小さい「コーヒー・スナック」のカテゴリーの飲食店では、「人材不足」であると答えた店の割合は49%となっている。
人材の採用意欲は旺盛な飲食店
アフターコロナで飲食店へ客足が戻りつつある中、お客のニーズに対応するためのスタッフが足りていない。新規のスタッフを採用したいが、必ずしも採用しきれていないアメリカ飲食店の苦しい姿が浮き彫りになっている。アメリカ労働省の統計によると、アメリカの飲食業の労働市場においては労働者の需給ギャップの拡大が常態化し、月平均で50万人分の労働力が不足しているという。
大手飲食店チェーンはベネフィット拡充で採用強化
では、このように人材不足が慢性化しているアメリカの飲食業界では、どのように人材を採用しているのだろうか。多くの飲食店、特に大手の飲食店が行っているのが各種のベネフィット拡充による人材採用だ。
ベネフィットとは、具体的には現在教育ローンを返済している学生・元学生を対象にした401Kプラン(確定拠出年金制度)の提供と、移民などを対象にした給与支払口座直結のクレジットカードの付与だ。いずれも対象者にとっての「今そこにある生活上の課題」を解決するためのベネフィットで、直接的なメリットが大きい。特に移民などを対象にした給与支払口座直結のクレジットカードの付与は、現金または現金相当の支払手段を切実に求めている人にとってはすぐにでも欲しいものだろう。
チポトレ・メキシカングリルはほかにも、生活に困窮した人向けの生活資金の貸付や、メンタルヘルスを対象にした健康保険の付与などもベネフィットとして提供している。
小規模飲食店はソーシャルメディアを活用
なお、すべての飲食店がチポトレ・メキシカングリルのようなベネフィットを提供できるわけではない。特に小規模飲食店においては採用コストも乏しく、提供できるベネフィットも限定的だ。そうした状況の中、多くの小規模飲食店が活用しているのがソーシャルメディアだ。
アジアフュージョンレストランAのように、Xなどのソーシャルメディアを採用に活用しているケースは少なくない。あるデリバリーピザレストランは、人材採用をLinkedInのみで行い、ネットでの「リファラル(紹介)採用」を実現している。ほとんどのソーシャルメディアは無料で活用でき、努力と手間を惜しまなければ誰でも有効に活用できるものだ。人材採用にあたって特別なベネフィットが用意できないといった場合は、利用を検討すべきだろう。
日本でもやるべきことは同じ
日本の飲食店がやるべきことは、基本的にはアメリカの飲食店がやるべきことと同じである。つまり、採用対象者にとって価値があるベネフィットを提供することと、ソーシャルメディアなどを活用したコミュニティづくりを行うことだ。いずれも簡単なことではないが、実現した暁には相応のリターンが得られる可能性が高い。特に地域や業態に特化したベネフィットの提供に成功した場合、同業を大きく出し抜くことが可能になる。少なくとも、チャレンジするだけの価値はあると言っていいだろう。
関連リンク
https://restaurant.opentable.com/resources/restaurant-labor-shortage/
https://restaurant.org/research-and-media/research/economists-notebook/analysis-commentary/restaurants-added-jobs-in-24-consecutive-months/