AI という言葉を新聞や雑誌、WEBなどで見かけるようになって久しいですが、なんとなく取り残された感のある飲食業界。「なんだかんだ言っても店舗によって事情が違うし、経験がものを言う業界だから、AIなんて通用しない」と心のどこかで考えていないでしょうか?そんなこと言っていると、あっという間に取り残され、店は生き残っていけないかもしれません。今回はAIを使って分析や予測を簡単にすることでどんな変化が起こるのか。もう始まっている未来の話をしたいと思います。
予測をKKDに頼る時代は終わった⁈
生活のあらゆるところにパソコンやスマホが活用されるようになりました。コロナに翻弄された2020年、政府は子どもたちに1人1台パソコンをもたせる計画を、2023年度から本年度中に前倒ししています。ランドセルにパソコンが入る時代が年内に完了するのです。
「データなんていらないよ。KKDだよ!」
と満面の笑みで答えられることがあります。頻繁に・・・。
KKDとは、勘と経験と度胸の頭文字をとったもので、ご存じの方も多いのでは?
この言葉は、「客商売である飲食店はデータ化できるものではなく、結局は人がやるしかない」ということを暗示しています。
飲食店経営に携わっている方は、「飲食店は特別だから」と言います。ところが、いろいろな業界で同じように考えられており、これをクリアした会社だけが効率経営を手にすることができていると言ったらどうでしょうか?
思わぬところから体質改善を求められたカメラメーカー
少し飲食業と離れますが、しばしお付き合いください。
カメラメーカーと飲食店ではまったく違うように感じますが、実はここで、よく聞くセリフが出てきます。
「製造数は長年の経験で分かるものだから、この判断はAIにできるわけない」
「いろんな事情を察してやるもので、柔軟な対応は機械にはできない」
「製造数の算出にはKKDが必要だ」
業界は違っても、出てくるセリフは同じなのです。
ところがこの業界では、ある問題が出てきます。それは物流。一昔前まではドライバーの長時間勤務に支えられていた物流業界が、労働環境の改善と、高齢化した運転手がやめていったことで便数が激減。結果、部品はあるのに納期までに必要なところに運べないという問題が出てきます。
これにより、各工場がデータによる管理をすることで事前に部品を製造し、各拠点に早い段階で集めておかなくては経営が立ち行かなくなったのです。つまり、勘と経験によって部品を製造するのでは間に合わなくなったわけです。
もちろんここには、「俺の頭の中にしかないことを、AIに伝えるなんてできっこない」という人が何人も出てきたのですが、そうも言っていられない状況の中、強制的にAI導入が推し進められました。その結果として、このメーカーはチャンスロスがなくなり、いろいろな面で経営の効率化が図れたのです。
同じような環境にある飲食店
これを踏まえ、飲食店の話に戻りましょう。
中には、元からの性格でKKDのD、つまり度胸だけがある人がいて、「どうやったらこんな発注になる?」というほど食材を余らせ、店舗に大きな損害を与えることもあります。人件費の高騰で利益が圧迫されている飲食店にとって、余剰在庫は大きな痛手となることでしょう。
つまり、事情は違えど、カメラメーカーがAIを導入しなければならなかったような状況が、飲食店にも来ているというわけです。
データ活用やAIを導入すれば人材育成は楽になる
では、時間的に足りない勘や経験の醸成期間をどうやって補えばよいのでしょうか?
その答えの一つが、過去のデータや、それを元にして結果を導き出すAIです。過去のデータを元に、未来の売上予測を立てるのであれば経験が浅い人でも問題はないはずです。さらに、前年の売上を出すだけでなく、さらに古いデータや天候などの外的要因も加味してAIに導き出させれば、人が考えるより正確性はますでしょう。
「いやいや、それでは必要な勘が育たないよ」
そう考える人もいるかもしれません。
しかし、よく考えてみてください。これから先、取得できるデータが増えることはあっても、減ることはありません。こうなると、新人に必要なのは自分で予測を立てられることではなく、データを正しく読めることのはず。育てるべき能力は明らかに変わっているわけです。もしそれに気付いていないとすると、それが近い将来、経営の足を引っ張ることになるかもしれません。
人かAIかの二択をする必要はない。最先端企業がやっていること
ここで、データ重視の経営をかなり前から行っている例を挙げましょう。それは、ほとんどのコンビニエンスストアと、飲食店のリーダー的存在である日本マクドナルドです。
こういったデータは、オープン初日から円滑なオペレーションを実現するだけでなく、チャンスロスなく売上を確保することを意味します。さらにそれには、お客さまの満足が付いてきます。その後は、店舗独自の傾向をさらに加味し、制度をますますあげて行きます。
では、完全にデータだけをもとに発注をしているかというと、実はそうではありません。もちろんデータは重要ですが、それはあくまで過去のこと。これまでの予測では追いつかないこと、たとえば新たなキャンペーンではこれまでにないほど力を入れていきたいとか、諸事情によりアルバイトに欠員が増えてオペレーションが回らないというようなことは予測できません。
そのためデータから弾き出される数値をベースに、店舗の方向性や店長の考え、その時に入っている人員などを加味し、発注担当者が増減して発注します。つまり、通常営業のときは導き出されるデータのまま、何らかの特別な要因があるときは人によって柔軟に対応するということです。
これでも発注者の業務負担はかなり楽になり、これまでは店長あるいは社員だけの仕事であった発注業務をアルバイトに任せることも可能になります。さらに、欠品などを起こすことも最小に抑えられます。
人かデータかという二者択一ではなく、人のやる作業の適切なサポートをデータやAIにやらせると考えればよいのです。こうすれば、データ活用にアレルギーがある人も受け入れやすくなるのではないでしょうか。
データを制する者が勝者になる!
実際に個人店でも、過去のデータを徹底的に分析したり、それをAIに分析させたりして売上を向上させている店舗が出てきています。
それなら、発注や売上予測に基づく人員配置など、これまで人が(なかでもリーダー的な人が)行っていた作業を軽減させ、アルバイトに引き継ぎやすくかつ時短が図れれば、人員に余裕ができ、お客と接する時間を増やせるというわけです。
POSレジが強い味方になってくれる
とはいえ、データ化やAIの導入はそれほど簡単なものではありません。一部ではAIを使ったシステムを自分たちで開発しようというワーキンググループもありますが、本格的に活用できるものを作るには、専門家による開発が必要です。しかも、話を詰めるさいには専門の開発用語が出てきて混乱します。それを考えると、二の足を踏んでしまう人もいるでしょう。
また、これからはPOSレジのシステム自体にAIが導入されてくると予想します。飲食店は専用のPOSレジシステムが完成している業界ですから、そのAIはもちろん、飲食店ですぐ活用できるものに違いありません。
どうせ組み込まれるのなら、使わないと損という時代がすぐそこまで来ています。使っていないデータを有効活用し、店舗業務を軽減。効率経営を目指せる日は、すぐそこまできているのです。
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