飲食店の人不足を解消する高齢者という選択と育成ポイント

飲食店で抱える課題の中に、人件費の高騰と人手不足があります。時給を高くすれば勤務希望者は増えることは分かっていても、経営面から見れば、それは簡単に実行できることではありません。

一方で、働き口を探している人たちが多くいる層があることをご存知でしょうか?

それは高齢者。

と言うと、「うちの店では高齢者は使えない」と鼻からシャットアウトしている経営者も多いかもしれませんが、 少し着眼点を変えることで、人不足の問題が解消され、時給アップなどに伴う人件費の高騰問題も改善できるかもしれません。

今回は、高齢者を雇うことについて掘り下げ、活用のポイントについて考えます。

高齢者とは?

まずは、高齢者の定義について確認しておきます。

世界保健機構 WHOでは、「65歳以上の者」となっています。日本では、65~75 歳を「前期高齢者」、75 歳以上を「後期高齢者」と分類しています。今後、高齢者の定義を変える議論も出ています。つまり、それだけ元気な高齢者が増えているということです。

では、高齢者にはどのようなイメージを持つでしょうか?

■良いイメージ
• 経験や知識が豊か
• 時間に縛られておらず、好きなことに取り組む時間がある
• 健康的な生活習慣を実施している
• 地域の活動に熱心

■悪いイメージ
• パソコンやスマホが使えない
• 物覚えが悪い
• 古い考えに固執し、融通が利かない
• 心身が衰え 健康面での不安が大きい
• 経済的な余裕がない

最近では「老害」などと言われ、あまり良くないイメージを持っている方も多いようですが、個別に見ていくとずいぶん違ってくるのがお分かりいただけるでしょう。

高齢者という大枠で捉えるのをやめてみる

先に述べた 高齢者の悪いイメージを考えると、雇用側が躊躇してしまうことは分かります。しかも、「高齢者をこき使っている」となると、さらにマイナスになってしまいそうです。

では、20代~50代ならマイナスイメージに該当する人がいないかと言えば、決してそうではありません。

経験や知識がないにもかかわらず、自分の考えに固執し融通が利かない人もいます。体が弱く健康面での不安が大きい人もいます。パソコンを全く使えない人もいます。

一方で、さまざまな経験をしてきたからこそ、あたたかな気持ちで受け入れる高齢者もいます。また、健康面に配慮し、体力作りに励んでいる人もいます。スマホを使いこなしている高齢者も珍しくありませんし、パソコンを使いこなし、町内会のウェブサイトなどを作る高齢者もいます。

出典:内閣府「高齢化の状況 ー 就業の状況」
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2020/html/zenbun/s1_3_1_2.html

このグラフは高齢者に対し、仕事をしている理由を性別、年齢別に示したものです。

ピンクの「収入がほしいから」と回答した人は、経済的に困窮しているのかもしれません。つまり、「働きたくはないけれど、働かなくては生きていけない」という人も含まれます。

しかし、注目すべきは、それ以外を選択した人が多い点です。「仕事そのものが面白い」「仕事を通じて友人や仲間ができる」「体によい」「老化を防ぐ」など、働かざるを得ないという環境に置かれていないにも関わらず、自ら進んで働きに出ている人が多いということです。

つまり、高齢者と一括りにすることはまちがいだということ。採用するのは、たった一人の目の前にいる人。高齢者だからムリとステレオタイプで判断するのではなく、若者同様、個人で見るようにするとよい人が出てくる確立も上がるのです。

高齢者採用のメリット

では、高齢者を採用することにメリットはあるのでしょうか?

もちろん、人手不足の解消という大きなメリットがありますが、その他にも優位な点はあります。

先ほどの特徴でも出てきましたが、高齢者と言っても、働く理由はさまざまです。経済的に余裕がある人の場合、働くことに価値があり、対価が高いかどうかの優先事項はありません。それゆえ、最低時給での募集でも人が集まりやすくなります。

また、年齢を重ねることで採用されにくく、新しいことを覚えるのも大変だからと、職を変えたがらない人が多くなります。その結果、時給をあげなくてもスタッフの定着率がアップします。

高齢者募集時の注意点

では、店舗側のニーズに合致した高齢者を採用するには、どのような募集をすればよいのでしょうか?

残念ながら、そのような人だけが応募してくるような都合のよい募集方法はありません。これは他の世代でも同じことです。面接を重視し、選ぶスキルをつける必要があります。

では、面接時に、どのような問いかけをするとよいのでしょうか?

それは、志望動機の回答がもっとも分かりやすいと言われています。

「生活が苦しい」とか、「とにかくお金が欲しい」という人もいれば、「歳をとっても社会とのつながりを持ちたい」「家にずっといるとボケそうで」など回答はさまざま。当然、後者の方を採用するのが正解です。

もちろん、前者でも人柄がよければ採用して問題ないのですが、「お金に困っている人の方が必死に働いてくれるはず」と考えているのであれば間違いです。筆者の経験上、ゆるい考え方の人の方が、ゆるゆるとずっと続けている印象です。

また高齢者は、今よりも感覚的に組織を優先することが正しいと言う感覚の中で生きてきました。それがよいというわけではありませんが、三つ子の魂百までと言うように、その感覚は人間形成に染み付いているので、組織が円滑に進むように協力してくれる傾向も強いと感じています。

形だけでも退職年齢を決めておく

高齢者は長く働く傾向にありますが、これはいつまでも辞めないことの裏返しでもあります。そのため、仮にでも、退職年齢を決めておくことをおすすめします。一定の年齢に達した時点で、基本的には辞めてもらうのですが、働きがよい人には例外として残ってもらえばよいわけです。

これは70か75歳くらいがよいかと思っています。

また最初に、「店舗側が体力に不安があると判断した場合、辞めてもらうこともあります」と伝えるようにします。退職勧奨ではなく、あくまでも相談事項としてです。このとき、能力が足りない(覚えが悪いとか戦力にならない等)からではなく、「高齢者を気遣った結果、辞めてもらう」というスタンスであることを伝えることが後々のトラブルを避けることにつながります。

「高齢者はパソコンやレジが使えない」は誤解

よく経営者が言う言葉に、「うちはPOSレジが入ってるから無理」というものがあります。IT機器が使えない人はいますが、高齢者だけが使えないわけでなく、全世代に使えない人がいるのにです。

日本には前期高齢者と後期高齢者がいることを最初に書きました。このうち前期高齢者は、パソコンが普及しはじめた頃に40代だった人で、難なく受け入れてきた世代でもあります。

例えば、一般家庭にパソコンを普及させたと言われるWindows 95は、1995年に登場しています。今の前期高齢者は、30代中盤から40代中盤だったわけで、パソコンはすでに身近にあったわけです。もちろん、すべての人がパソコンに触れたわけではありませんが、触れた人が多い世代だということは間違いありません。

その影響もあり、パソコンやレジに最初は抵抗感があっても、実際に触りだすと問題なく扱えるという人が多いのも特徴です。実際、周りを見渡しても、スーパーやコンビニなどで働く高齢者も見かけますし、難なくレジを扱っています。

高齢者の育成のために必要なこと

では、高齢者を戦力化するにはどうすればよいのでしょうか?

物覚えが悪いのならメモをとらせる

歳をとるほどに物覚えが悪くなるのは事実です。これは加齢に伴うことで、個人差はあるものの、避けて通ることはできません。

ただし、だからといってあきらめる必要もありません。「必ずメモを取ってください。そしてメモを見てください」ということを徹底します。

筆者の印象での話しで恐縮ですが、意識の高い高齢者の方ほど、休憩時間に必死にメモを見ている傾向があると思っています。覚えが悪いからメモを見る時間が長くなり印象に残るのかもしれませんが、いずれにせよ、必死に欠かせない人材になろうと思っていることに違いはありません。

無理をさせない

高齢者といえば、体力的に不安があると考えます。それも事実ですが、そもそもお金を稼がなければならないという感覚のない人であれば、無理をして仕事をしようとはしません。個人差があるでしょうが、週に2~3回。時間的にも無理のない範囲で数時間程度の勤務なら問題はないでしょう。

ある店舗では、長い間立っていることが不安につながると、キッチンの空きスペースに椅子を一つ置いておき、「疲れたら座ってよい」としているところがありました。

ただしルールがあり、座っていいのは1時間につき3分以内。お客は最優先事項で、呼ばれればよろこんで中断せよ!というもの。座って1分経ったときにお客に呼ばれれば、残りの2分をまた座りに来てよいとしているとのこと。また、椅子は1つしかなく、順番に使うことがルールになっています。

誰でも、1時間に3分ぐらいはしゃべったり、ぼーっとしてしまうことがあります。その時間を、座らせることで、「休ませてもらっている」という感覚を持たせ、他の57分は集中して仕事をやるようになっているということでした。

安全を確保する

滑りやすい厨房や、納品した食材がいつまでも放置されていて、通路が通りにくい環境は高齢者だけでなく、全世代に危険を与えかねません。

滑りにくい素材のペンキを塗ったり、出入り口にマットを置くだけでもずいぶん変わるはず。店内を見回すことは、全世代のよりよい労働環境作りに役立つはずです。

作業自体をスリムアップする機会に

高齢者を採用することで、店内作業全体を見直す機会にできるとよいかと思います。例えば、メニュー数が多いと聞き間違えることも増え、ロスにつながるかもしれません。これは若い人でも同じ問題を抱えているはずです。

それであるなら、モバイルオーダーを取り入れたり、ポスレジを使うことで、作業全体をスリムアップすることができるかもしれません

「高齢者が増えたらモバイルオーダーの導入なんてムリ」と考えるかもしれませんが、何もスタッフ全員が機械トラブルがあった時に対応しなければならないわけではないはずです。むしろ、使い方がわからないお客がいた時に、親切に教えられるのが高齢者かもしれません。

またPOSレジについても、不安はありません。POSレジで最も難しいと言われるコンビニでさえ、使いこなしている高齢者はたくさんいます。覚えるのに多少時間もかかるかもしれませんが、長く続けてくれることを考えれば、決してマイナスではないはずです。
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高齢者を使う店というレッテルは心配無用

経営者としては、「高齢者をこき使うような店だ」とマイナスイメージを持たれることを毛嫌いするところもあるでしょう。

でもそれは、飲食店が3Kと言われる仕事場で、そこで酷使され、辛そうな顔をして働いている高齢者をイメージするから気にすること。もちろんそのような雰囲気が溢れ出てしまう高齢者もいますが、正しい 採用基準を持って採用活動を行っていれば恐れる必要はないはずです。

むしろ、いつも楽しそうに働く高齢者を見て元気をもらうという例もあるでしょう。それをうまく活用しているのがマクドナルド。いきいきと働く高齢者が、新聞などで紹介されています。そして彼女たちは しっかりと自分の仕事をこなし、周りの雰囲気もよくしています。

意外な副作用につながった成功事例

最後に、とても面白い事例を紹介します。

ありがちな、「意地悪なベテランがいて、新人アルバイトが続かない」という問題を解決した高齢者の話です。

その店舗には、新人潰しを生きがいにしているのでは?と思うほどのベテランの50代の女性がいました。彼女は勤務歴が長く、いつしか店長も何も言わせない存在となり、同世代の新人が来ると、何かにつけてネチネチと言い辞めさせていました。本人的には、自分の立場が危ぶまれるという危機感があったのかもしれません。

そこに初めて採用した高齢者がアルバイトとして入ります。「最近まで着物を着ていたのよ」と言う彼女は、旦那さんが亡くなり、新しい世界を見てみたくなったとバイト先を探したとのこと。ベテラン女性は、「高齢者に仕事ができるわけがない」と思ったようで、いじめのターゲットにはしませんでした。もちろん嫌味は散々言うのですが、笑顔でやり過ごしていたそうです。

高齢な新人はとても意識の高い方。仕込み担当として入店したのですが、実際に使っているところを見たいからと料理長に頼み込み、 キッチンを見学させてもらったり、休みの日には友人を伴って店に来るような人だったそうです。

そして仕事の時にはいつもニコニコ。こうなると、嫌味なことを言うベテラン女性に対し、「なぜそんなに厳しいことを言うのか?」という雰囲気ができてきます。最初は抵抗していたものの、そのうち意気消沈。

また、新人アルバイトが来て嫌味なことを言われている姿を見かけると、高齢者スタッフがすかさずフォローをするようになり、雰囲気は改善。新人の定着率も上がったようです。

まとめ

高齢者の採用についてまとめた記事はいかがだったでしょうか。
人手不足に悩む飲食店は多いのに、高齢者を避ける風潮は不思議でなりませんでした。もちろん、高齢者なら誰でも採用してよいというわけではありませんが、人を見て採用するというスタンスはどの年代でも変わりません。
それなら高齢者も含め、人選をしてみてはいかがでしょうか?

きっとこれまでにない新しい着眼点をもたらしてくれると思います。