新型コロナウイルスから通常に戻ろうとしている今、飲食店で一番大きな問題となっているのは人不足。これをできるだけ早く解決する策として、マニュアルを整備するところが増えています。
「マニュアルなんて、うちの店舗のサイズ感では不要だ」と考えていたところも、やむにやまれず導入することで事なきを得て、また売り上げも回復しているところがたくさんあるのです。
この記事では、飲食店の人材育成になぜマニュアルが重要かを説明した後、マニュアルを作成するコツについて説明します。
マニュアルの基礎知識
マニュアルとひと口に言っても、さまざまな種類があります。まずはこの分類を正しく認識しなければ、的を射たマニュアルを作れなくなるので注意が必要です。
マニュアルの分け方はいくつかありますが、飲食店においては以下の4分類に分かれます。
● 業務マニュアル
● 規範マニュアル
● 取扱説明書
● 育成マニュアル
業務マニュアルとは、接客の仕方や商品製造など、具体的な行動によって区別されるもの。内容は、各作業の基本的な考え方から具体的な行動までが書かれ、マニュアルを読めば正しく作業ができるようになるイメージです。
規範マニュアルは、ポリシーやクレドが書かれるなど、行動以前の考え方などを表したものになります。
取扱説明書はユーザーズガイドなどと言われるもので、機器やアプリの操作方法に特化したものです。
育成マニュアルは、従業員のステージに合わせた育成方針や流れを示したものとなります。
飲食店ではもちろん、どのマニュアルも重要ですが、最も重要で、かつ最も身近な存在は業務マニュアルとなります。
業務マニュアルの考え方
ここから、業務マニュアルの作成について説明します。
業務マニュアルの中には、基本的な考え方や具体的な行動、そして機器の操作方法などが含まれます。
業務マニュアルは、基本的な、または効率的なやり方を示すものであり、それを読んだ人が具体的に行動できるようになることが大切です。またそれにより、皆が無駄な動きをせず生産性を上げることを目的としています。
ポリシーを書いた規範マニュアルと同じことが書かれる部分もありますが、業務マニュアルに書かれるのは生産性向上やサービスレベルの均一化に必要なことのみ。それ以外のことは書きません。
また取扱説明書の内容から、基本的な部分を書くことがあっても、トラブルシューティングのような基本的な行動からはみ出したものは書きません。
具体的に言えば、アルバイトにレジ操作を教える時、接客の心構えは必要ですが、会社のポリシーなどについてレジ操作と一緒に教えれば、かえって行動が伴わなくなってしまいます。
また基本的なレジ操作は教えるべきですし、よく起こるトラブルについては対応方法が必要ですが、トラブルが発生したときの具体的な対応方法は、「社員を呼ぶ」と言う程度。これ以上のことは書く必要はありません。
新人アルバイト向けのレジの業務マニュアルであれば、レジ操作を教わったアルバイトが、現場では覚えきれないことを後から復習して漏れがない程度が理想的です。
新人アルバイトは何度も人に聞くことを申し訳ないと感じています。そのために、正しい操作を把握したいと考える人も多く、現場で教わった内容とマニュアルに書かれていることが同一であればマニュアルを活用するようになります。
マニュアルはサービスレベルの向上にも役立つ
忙しい中で作業を教えると、ついつい効率化を目指しすぎてしまう人が出てきます。例えば、ハンバーガーショップで注文を聞くシーン。注文を聞くことより、注文を厨房に通すことに意識が行き、やたらと大声で叫んでいる姿をよく見かけます。
それが店舗の決まりで、そのような方が正しいと言うならば別ですが、これを厨房で働くアルバイト個人の判断でやっているというのならばマイナスです。
またレジで注文を聞きながら、ちょっとした隙にドリンクを作りに行ってしまう人もいます。これも接客という面ではよくないと感じることもあるでしょう。
新人アルバイトは教わったことに忠実ですから、「少しでも早くオーダーを届けるように行動する」と強く言えば、間違った行動に走ってしまいます。
このようなことがないように、基準となる行動を決めるのがマニュアルです。
トレーニングも効率的に進められる
また、人によって指示が違うというのも新人アルバイトが戸惑う原因となります。
例えば、アルバイトリーダーの A さんは、「オーダーを聞いてる途中であっても、少しでも手が空いたらドリンクを作りに行くように」と指示をします。しかし、社員の B さんは、「注文を聞いている間はレジから離れないように」と言います。
これを防ぐのもマニュアルの大きな役割のひとつ。作業の基準を決めることで、誰でもが同じレベルで行動できるようにし、トレーニングの内容も統一します。
さらにそれが効率化が図れる作業であり、なおかつ接客レベルを低下させない方法であれば皆がその行動することで店舗の印象も効率化も上がるはず。これを明確に示すのがマニュアルというわけです。
よくあるシーンとして、ベテランのアルバイトが新人のアルバイトに教えるということもありますが、 これにより教える内容がばらつくのは一番よくないこと。このバラつきを抑えるのが業務マニュアルと言えるわけです。
ちなみに、 教え方については育成マニュアルでないのかと思った人がいるかもしれません。ここで誤解してはならないのは、育成マニュアルは、どういったシーンで、どういったことを教え、どのように育成していくかを明確にするもの。
具体的な行動の内容は業務マニュアルに沿ったものであるわけで、ここに大きな違いがあるということをご理解ください。
マニュアル作成の手順
マニュアル作成をするとき、最初に決めなければならないことが3つあります。
一つ目は、誰に向けた、どのような目的を持ったマニュアルにするのか。
二つ目は、誰が作るのか。
三つ目は、どのような形態にするか、です。
作業にはさまざまなレベルがあり、新人にはやらせないけれども、ベテランにはやってほしいことがあるでしょう。それならば、別で作成するのが業務マニュアルです。
また、誰が作るのかも非常に重要です。作業を知らない人が作ってしまえば、現実離れして理想に偏り、机上の空論になってしまいます。机上の空論になれば誰もマニュアルを見なくなります。
そうしないためには現場にいる人、少なくとも現場で教育を担当している人をメンバーに入れることが重要です。それが難しい場合、実際に作業している人にどのような作業しているか、またどのようなことに困っているかをインタビューしてまとめることが必要となります。
またどのような形態にするかを決めることも重要です。
マニュアルは企業秘密やノウハウが載っていますが、だからといって読むのが困難になれば誰も見なくなってしまいます。
これは考え方次第ですが、早期のアルバイトに教えることはより自由にアクセスできるものにすることが重要です。最近ではクラウド上に公開し、 ID とパスワードさえ入力すれば、いつでもどこでも見られるようにしているところもあります。
もちろん、レベルによって見えるマニュアルを変えるのがポイント。誰でもなんでもフリーにするのではなく、それぞれのレベルやノウハウの重要性に合わせることが重要です。
動画マニュアルならスピーディに作成できる
最近は動画でマニュアルを公開するところも増えています。マニュアルは文字で伝えるべきことと、イラストや写真で伝えるべきこと 、また動画で伝えた方が伝わりやすいことがあります。
場合によっては、文章を一から考えるよりも、誰かが実際に行っている作業を撮影し、そのまま公開する方が楽にできるというケースもあるでしょう。
現状を考えながらどういったマニュアルを作るのが最適なのかを考えるようにしてください。
事例紹介:マニュアルを作成しバイトの定着率がアップ
ここである事例を紹介したいと思います。
全国に50店舗ほどを構えるチェーン店です。店名やメインの商品は何種類かあり、店舗の構造等もさまざまですが、接客のスタンスは同じです。以前は各店舗でトレーニングを行っており、ベテランアルバイトが新人アルバイトに教えるというスタイルでした。
しかし人件費が高騰しはじめ、トレーニング時間の最小化と生産性の向上に加え、サービスレベルを一定以上に保ちたいとマニュアルの導入を決めました。
そこでマニュアルプロジェクトを立ち上げ、店舗所属の人も含め、業務マニュアルに載せるべきことの設計からはじめます。そしてマニュアルは基本的にクラウドを使って公開し、「テキスト + イラスト」のものと「動画 + キャプション」で伝えるものの2種類で展開しました。
店舗により扱う商品も違うので、基本的に同じ作業の部分に特化。お辞儀の仕方やお客への声のかけ方やタイミング、商品製造に関しては食材の基本的な扱い方やルール、ドリンクの入れ方の基本などを中心に作成しました。
その結果、バラバラだった作業が統一化され、店舗によってはピーク時の人員を8人から6名に減らしても十分に回るようになったと言います。
アルバイトからは、「あやふやだったところがしっかり分かり、自信をもって接客できるようになった」という意見や、「教えてくれた人によってやり方が違ったが、統一されて安心した」という感想が返ってくるようになり、定着率もアップしています。
しかも、アルバイトが持つ店舗への思い入れが明らかに変わってきたと言います。
その後、オーダーエントリーシステムや POSレジを新しいシステムに入れ替える作業などを行いましたが、このときも動画マニュアルを作成することで移行もスムーズ。今では。マニュアルを導入してよかったと考えるようになっています。
このようにマニュアルの導入はメリットが多く、特に人件費が高騰する現在、教育に時間をかけられないからこそ、有効に働くことが分かっています。
ぜひこの機会にマニュアル作成に着手されてはいかがでしょうか。