ついに始まる飲食店のたばこ規制。国と都の違いと実施ポイント

タバコが健康を害することは誰もが知ることとなり、喫煙者の数は大きく減少しました。そして、世界中で拡大する飲食店を含む屋内でのたばこ全面禁煙。日本でも法整備が進められ、2020年のオリンピック・パラリンピックに向けて、大きく変化しようとしています。ここでは、東京都と国が定めた飲食店の喫煙規制を整理しながら、今後の対応について紹介していきます。



1.   喫煙規制は世界的な動き

まずは、わが国の喫煙習慣者数の推移を見て見ましょう。JTが2017年に行った全国喫煙者率調査によれば、現在の男性喫煙率は28.2%、女性は9%と、かなり少数派になっていることがわかります。調査が始まって最も高かったのは昭和41年で、男性の喫煙率は83.7%もいました。つまり、約半世紀前には、男性はタバコを吸うのが当たり前でしたが、今は4人に1人しか吸わないように変化したことになります。ちなみに、女性の喫煙率が最も高かったのも昭和41年。このとき、18.0%でしたから、ちょうど半分になっています。

2017年「全国たばこ喫煙者率調査」

この背景には、喫煙による健康被害が世界中で声高に叫ばれるようになり、喫煙者の肩身が狭くなったことが挙げられます。タバコは喫煙者本人だけでなく、周りの人への副流煙による健康被害も起こします。このため、喫煙者の吸う権利を主張しにくいのが現実です。

 

この世界的な喫煙規制の中で象徴的な動きとなったのは、2010年に、世界保健機関(WHO)と国際オリンピック委員会(IOC)が「タバコのない五輪」を目指すことを発表したことでした。これにより、それまで一部の国しか取り組んでいなかった公共の場での喫煙の規制が、一気に加速しています。

 

これまでのオリンピック・パラリンピックの開催都市を見ると、2008年の中国(北京)、2012年のイギリス(ロンドン)、2016年のブラジル(リオデジャネイロ)に加え、2024年のフランス(パリ)までもが、飲食店やホテルでの屋内禁煙が法で禁じられています(北京は喫煙室設置可)。全世界で見ると、公的な場所の屋内を全面禁煙としている国は、55カ国(2016年時点)にも及びます。

 

2.   禁煙のモデルケースとなったスターバックスと時間帯禁煙

日本は、2016年にWHOが発表したタバコ対策の国別評価で、先進7カ国中最低評価を受けました。もちろん、これまで何度も、受動喫煙やたばこ規制が議題となってきましたが、自民党内に「たばこ議員連盟」などもあり、与党の意見統一すらできませんでした。そのため、パッケージへの危険表示や増税をするのがやっと。全面禁煙については、議論すらままならなかったのです。

 

その一方で、禁煙や分煙をめぐる飲食店の動きは、ここ20年ほどで大きく変化してきました。特に大きな影響を与えたのは、1996年にスターバックスが日本に上陸したこと。全面禁煙を特徴の一つにしながら、常に満席という存在感は大きなインパクトとなり、禁煙飲食店のモデルケースとなったのは間違いありません。

 

また、同じ頃、ビジネス街の飲食店を中心に「時間帯禁煙」を採用する動きが活発化してきました。その顕著な例が、ランチタイムの禁煙。ただし、これは受動喫煙への配慮というより、回転率を上げるために採用する店舗が多かったとも言われています。

 

3.   チェーン店が主体となって取り組んだ分煙

その後、チェーン店を中心に分煙の動きが加速していきます。最初は、禁煙席と喫煙席を単純に分けるだけで、煙は店中に蔓延しているということも珍しくありませんでしたが、徐々に仕切りを設けるようになり、吸煙機や空気清浄機を設置して、禁煙席にタバコの煙が行かないようにする工夫が重ねられていきました。

 

また、回転率を重視するファストチェーンやこだわりの料理を提供する個人店が自主的に全面禁煙をすることも増えていきます。職場でも喫煙場所を制限されるようになり、喫煙の意識が高まったことで、飲食店を利用するお客が「タバコを吸ってもよいですか?」と確認してから喫煙するケースも多くなりました。

 

ただし、飲食店全体を見渡せば、「全時間帯全面禁煙」としている飲食店は、まだ少数派。嫌煙者の声が大きいとは言え、実際には4人に1人が喫煙をしている現状では、その人のために喫煙可能な店を選んだり、分煙の店を選んだりすることが多いからです。その証拠に、飲食店の中には、オープン当時は禁煙にしていたにも関わらず、客足が伸びなかったことで喫煙可能に変更した店舗や、一時禁煙に乗り出すものの、売上げの減少から再び喫煙可能にした店舗も多く存在します。

 

4.   国の改正健康増進法による規制対象は、飲食店の45%

そんな中、国内での喫煙をめぐる大きな舵取りが行われました。2020年のオリンピックに向けて、国と都が受動喫煙対策を打ち出し、法整備したのです。

 

国は、2018年7月18日、改正健康増進法により受動喫煙対策を強化することを決めました。段階的に適用し、東京五輪・パラリンピック開催前の2020年4月に全面施行されます。これにより、飲食店を含む、人が多く集まる施設は原則として屋内禁煙となり、違反者には罰則が適用されます。

 

ただし、個人や中小企業(資本金5000万円以下)が経営する飲食店のうち、客席面積が100平方メートル以下の既存店は例外となり、「喫煙可能」などと示すことで喫煙を認めることができるようになっています。

 

飲食店で客席面積が100平方メートル以下の店は主流であり、約55%の飲食店は対象外となります。「果たして法制化する必要があったのか?」と疑問を持つ人が多いのも当然かもしれません。政府は当初、例外なしの全面禁煙を目指し、後に30平方メートル以下のバーやスナックを例外とする案を示しましたが、規制慎重派の反発が大きく、たばこ産業や飲食業への影響に配慮という名目で例外を認めることとなりました。

 

この法案により、国として喫煙規制に取り組んでいることを国際社会にアピールすることができます。また、5年で3割の飲食店が入れ替わることで、例外が適用される飲食店が徐々に減少していくこと。それにより、飲食店での喫煙不可が常識となることを狙っていると言われています。

 

現実問題として、客席面積100平方メートル以下の既存店舗は、店頭に喫煙可能の表示することで喫煙を続けられることになり、すぐに大きな影響がでる法案ではありません。ただし、喫煙可にすることで、お客、従業員ともに、20歳未満の立ち入りを禁止しなければなりませんので、人材確保の面では配慮が必要になります。

 

ちなみに、この法案では、客席面積が100平方メートルを超える大型飲食店でも、飲食不可の喫煙専用スペースを設けることができます。さらに、加熱式たばこに関しては、「受動喫煙による健康への影響が明らかでない」として、喫煙室での飲食も可能となります。



5.   84%の飲食店が対象となる東京都の受動喫煙防止条例

国の法改正は、多く飲食店に大きな影響がありませんが、一方で、オリンピック・パラリンピックが開催される東京都が2018年6月27日に成立させた「受動喫煙防止条例」は一段と厳しいもの。これは、飲食店の面積には関係なく原則禁煙とするもので、都内の飲食店の約84%が禁煙にしなければなりません。対象店舗は約13万軒。全面施行は東京五輪開会直前の2020年4月1日です。

国との最大の違いは、「望まない受動喫煙を防ぐ」という観点から従業員を守ることを前提にしたこと。そのため、従業員を雇う店は原則、屋内禁煙としており、煙を遮断する専用室を設けれなければ喫煙は認められません(従業員のいない飲食店については、禁煙・喫煙を選ぶことができる)。

 

[参考資料]

平成29年度 「飲食店における受動喫煙防止対策実態調査」東京都

[東京都全域(島しょ地域を含む)に所在地がある飲食店から無作為抽出した20,000 標本]

 

東京都は家賃が高いこともあり、国の基準を適用した場合、多くの店舗が規制対象から外れることになります。単純に客席面積だけで見ると、100平方メートルを超える飲食店は6.6%しかありません。そこで、着眼点を変えることで規制対象店舗を拡大させたとも言われています。

 

例外として喫煙が認められるのは、従業員がおらず、客席面積が100平行メートル以下で、資本金5千万円以下の店舗のみ。ここで事業者が喫煙可を選択することで、店内の喫煙ができるようになります。

 

国同様、飲食のできない喫煙室の設置は可能。加熱式たばこについては、健康被害の実態が明らかになるまでの経過措置として基準を緩和し、専用の喫煙席を設ければ、飲食しながらの喫煙も容認されます。また、受動喫煙防止を目的としているので、煙の出ない「かみたばこ」や「かぎたばこ」は規制対象外です。

 

等の条例にも罰則規定があり、施設管理者については、改善命令に従わなかった場合に適用となり、5万円以下の罰則が適用されます。

 

6.   都内の路上喫煙禁止とのバランス

多くの飲食店にとって厳しい内容となった東京都の受動喫煙防止条例ですが、もうひとつ注目すべき点があります。それが、都内のいくつかの自治体が実施している屋外の禁煙条例の存在です。

たとえば、千代田区の場合、区のほとんどの公道上で路上喫煙が禁止されています。厳密に言えば、喫煙を禁止しているのはあくまでも公道上のみ。店舗の敷地内(たとえば、コンビニエンスストアの敷地内に設置された灰皿など)での喫煙は条例違反にはなりません。それでも、「屋外は全面禁煙」だと理解しているお客が多いため、「屋内でも屋外でもタバコを吸えないのであれば、外食をしない」という選択をする可能性も決して低いわけではありません。

 

とはいえ、「コンビニの前でどうぞ」とアピールするのは滑稽であり、ルール的にも問題があるでしょう。どうしてもタバコを吸いたいというお客をどう取り込んでいくかは、今後の大きな課題となることは間違いありません。

 

7.   禁煙化や喫煙室を設けるための助成金

2020年に向け、喫煙室を設置するとなると、工事費などが必要となります。これは決して安価なものではありません。そこで、国や都は、飲食施設の喫煙室整備等補助や喫煙室の改修整備に対して行う財政的支援を活用することを考えるとよいでしょう。

 

「受動喫煙防止対策助成金」

厚生労働省が実施している「受動喫煙防止対策助成金」は、労働者災害補償保険の適用事業主であって、常時雇用する労働者数が50人以下、または、資本金が5,000万円以下の事業主が対象となります。

この事業主が行う、・一定の要件を満たす喫煙室の設置に必要な経費

・一定の要件を満たす屋外喫煙所の設置に必要な経費

・喫煙室・屋外喫煙所以外に、受動喫煙を防止するための換気設備の設置などの措置に必要な経費に対して助成金が支払われます。
助成額は、工費、設備費、備品費、機械装置費などにかかった金額の3分の2で、上限は100万円です。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000049868.html

 

分煙環境整備補助金

東京都が行っている「分煙環境整備補助金」は、外国人旅行者の受入れに向けた飲食施設の分煙環境整備補助金で、都内で飲食施設を営む中小企業者であり、大企業が実質的に経営に参加していない店舗が対象となります。

 

金額は、補助対象経費の5分の4以内で、1施設につき300万円が限度と、かなり積極的な補助を行ってくれます。具体的には、喫煙室の設置やエリア分煙などに必要な設備・備品購入費、改修整備費等が多少となります。

平成30年度の事業については、「決まり次第、東京都ホームページにおいて公表」となっていますが、受動喫煙防止条例が決まったことで、間もなく発表されると言われています。

 

8.   まとめ

1990年代以降、世界中で禁煙が進む中、ついにその動きに追いつこうとし始めた日本。今回の法整備が行われても、WHOが行う基準では、まだまだ合格とは言えませんが、最初の一歩としては有効なものと言えるでしょう。

 

これまで、「自分の店だけが禁煙にすると、周りの店舗にお客が流れてしまう」といった理由で禁煙を実施的なかった飲食店も多く、今回を契機に多くの飲食店が同時に禁煙化することで事情は変わってくるはずです。飲食店の禁煙が常識化することで、たとえ法による禁煙の強化が行われなくても、社会的なムーブメントが起こる可能性もあります。逆に、今回の規制対象から外れた店に喫煙者が集中し、非喫煙者との棲み分けが進むのかも知れません。

 

どちらにしても、2020年に向けた喫煙規制の動きは、飲食店に大きな変化を与える可能性が大きいことは間違いないようです。ぜひ、周りの店舗や社会的な感覚を取り入れながら、どういった対策を取るべきなのかを考える機会を定期的に持ちたいものです。

 

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ライタープロフィール
原田 園子

兵庫県出身。  株式会社モスフードサービス、「月刊起業塾」「わたしのきれい」編集長を経てフリーライター、WEBディレクターとして活動中。


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