飲食店経営をする方の多くは、複数店舗展開を計画していることでしょう。2店舗目、3店舗目は、大きな店舗にしたいと考える方も少なくありません。
しかし、大型店舗を運営していくのは大変で、さまざまなことに配慮が必要であることを知らない方も多くいます。大きな売り上げを確保できる環境にありながら、チャンスロスを発生させているところも多くあり、評判まで下げてしまっている例も・・・。
そうならないためには、どのような点に気を付ければよいのでしょうか?
大型店を出店し、成功するために必要なポイントを整理してみます。
大型店舗とはどれくらいの規模か?
そもそも、大型店とはどれぐらいの規模でしょうか。
営業時間が長い業態の場合、チェーン内では中規模と言われる店舗でも40人が所属しているのは珍しいことではありません。しかし、そのような場合でも、月商700万円を超えているケースもあり、世間一般の規模から言えば、十分大型店舗であることを付け加えておきます。
ちなみに筆者が、これまでに関わってきた最大の店舗は、客席数は約200席。ピーク時には30人以上の従業員が一度に働いていました。店長はその組織の一番手と言われた人が任命されましたし、サポート体制も整っていたのですが、それでも店長は日々気苦労が絶えず、激やせ。一時期は顔色も悪く、廃人のようになり、「店長を続けられないのではないか」と皆に心配されました。
その後、見事に復調したのですが、本人も「想像以上のことばかりで、やばかった」とのこと。一番のベテランをもってしても大変なことが分かり、その会社ではそれ以降、超大型店舗の出店を取りやめ、大きくても100席程度の店舗しか作らないようにしています。
店舗構造や設備の工夫
店舗は単純に大きくすればいいと言うわけではありません。特に導線確保は非常に重要となります。
大型店ではそれだけ多くの人が一度に働きます。また、その中に新人の人が含まれたり、新しい持ち場を担当することも多くなります。こうなると予想外の動きが発生し、混乱が生じ、トラブルが発生するのです。
動線を確保できなかったレストランの事例
あるレストランでは大型店出店にあたり、それまで厨房の一部に設置されていたコーヒーやデザートを出すスペースを「喫茶スペース」として切り離すことになりました。デザート類は盛り付けて出す程度であり、調理スタッフが担当しなくても提供できたため、別のスペースにしたほうがスムーズだと判断したのです。また洗い場も別のスペースとしました。
トレーにコーヒーを乗せたスタッフが皿を下げる人とぶつかる。時には料理を運ぶスタッフとぶつかり、料理とデザートの両方がロスになることもありました。
その原因は、料理を運ぶ人や下げた皿を運ぶ人が出入りする場所に、喫茶部門の出入り口があったからでした。通路は十分なスペースがとられていても、通路の途中から唐突に出てくるスタッフがいるため、ぶつかってしまうのです。
これらの事故は満席時に起こりがちで、そのたびに不穏な空気感がお客に伝わるようになり、「何とか改善しなければ」と危機感をいだくようになります。しかし、それぞれのスペースを移動させるには大規模な改装をしなければならず、結局は声かけを徹底することで回避することに。忙しくなると殺気立つスタッフは、何度も「喫茶、出ます!出ます!」 と大きな声で叫ぶという悲しい結果になりました。
こうなった原因は、スタッフの動きがどう変わるかを理解していなかったことにあります。「通路を広くしても、出入り口までは気が回らず失敗した」と反省していました。
製造ラインを2つ作って失敗したハンバーガーショップ
事例をもう一つ紹介します。
しかし実際に営業がはじまってみると、2つのラインを担当する人によってスピードに大きな差が出てしまいます。ベテランが担当したラインは滞りなく商品が出るのに、もう一つのラインは30分も待たせるケースがでてしまったのです。
ハンバーガーショップでは同じグループの人と会計を分けるために、別のレジを使うことも珍しくありません。そのため、一部の人は食べ終わったのに、一部の人は商品が提供されないケースが続出し、クレームとなります。
それなら、ベテランが担当するライン側の製造量を多くすればよいと考えるのですが、キッチンディスプレイを分けているため、割り振るには工夫が必要で、なかなかうまくいきません。
さらに、売り上げが少ない時間の対応もうまくいかず、ラインを増やしたことで食材のロスが増えるなど、問題は山積み。この手法はこの店舗だけとなり、それ以降は別の方法を模索するようになりました。
休憩室や更衣室のスペースも必要
もう一つ、見落としがちなのは、休憩室や更衣スペースの確保です。
これらはスタッフの満足度に直結することであり、着替えられずに入店が遅れるなどはムダでしかありません。最近は男性でも更衣室を利用するのは普通です。スタッフの人数を考えたスペースの確保をしてください。
スタッフの採用と育成は大きな課題
当然ですが、大型店舗では多くのスタッフが必要となります。店舗ではお客と関わる人が店舗の印象とイコールとなるため、「人がいないから誰でも採用してしまえ」とはいきません。しかし、一定の人数がいなければ十分に店が回らないのは頭が痛いところでしょう。
また、スタート時給が高くなったことで、仕事を覚え、精神的な負担が増えても、アルバイト時給を上げられないところも多くあります。こうなると、ベテランほど辞めてしまうという現象が起こります。これでは円滑な店舗運営はできません。
これについては、スタッフに頼りすぎるのではなく、モバイルオーダーを導入するなど新しいシステムの導入を考えることが重要となります。他にも、配膳をサポートするロボットを入れるなど、マンパワー以外で代用できることは積極的に導入するのが賢明と言えるでしょう。
よい人材を集める最大のポイント
つまり、今働いている人が満足できないような環境では、質の高い人材集めはできないということ。ここを見ていない店舗が多いのはもったいないことです。
教育する側の教育も必要
人が多くなると、常に新人がいる状態となります。また作業面は、先輩アルバイトが新人アルバイトに教えるシーンも多くなり、気がつくと手抜きの方法が一般化してしまうこともあります。
そこで、最も重要となるのはポリシーをどう伝えるかになります。何をやるにしても、基本的な心構えが正しくなければ、正しい行動はできません。どんなに忙しくても、この部分だけは店長が伝える、または動画などを使って経営者の声を伝えるようにします。
また、新人アルバイトに対する教育だけでなく、教える側の教育も必要となります。教える側が違うことを言ったのでは教えられる側は混乱してしまいます。そのために店内で標準化できることは標準化し、マニュアルにまとめます。特に衛生に関することは重要です。
さらに、どのタイミングで何を、どう教えるのかも明確にしておくべきこと。なかなか難しいことではありますが、多くの人を管理するには欠かせないことです。
連絡事項をどう伝えるか?
スタッフが多くなると、連絡事項を伝えるのも一苦労となります。
これについては、手段は店舗によってさまざまです。昔ながらのノートを用意し、入店前に必ず読むということをルールにしているところもあります。また、グループLINEを使って、全員に一度に発信するところもあります。
ここで重要なのは、情報が確実に伝わることであり、手段は何でもいいということ。ノートを使えばスピード感はありませんが、サインさせるようにすればどの人が選んだのかが分かります。一方、グループLINEであれば多くの人がメッセージを開きますが、スルーされることも多くなるかもしれません。
肝心なのは店長や各リーダーによる確認です。「ノートに書いたのに」「LINEで配信したのに」というのは言い訳に過ぎないことを理解しておくべきでしょう。
スタッフが多くなっても派閥は作らせない
スタッフの人数が増えると、仲良しグループができます。それ自体は問題ないのですが、その関係性を仕事にまで持ち込まれると厄介です。さらに派閥のようなものができると店舗運営はうまくいかないことが多くなります。
また、時間によっては、いわゆるお局様のような存在が出てきます。例えば、昼のパートリーダーがいて、その人に気に入られなければ新人はパートを続けられないといった事態が起こります。
夕方になるとフリーターや学生のアルバイトリーダーがいて、新しく配属になった社員を認めず、わざと疎外感を味あわせるケースもでてきます。何かを変えようとしても、「これがうちの店のやり方だ」などと主張し、断絶を起こすことも。
これはどちらも正しい姿ではありません。本来であればこのような派閥ができる前に対処しておくべきなのですが、 社員の異動が多い場合などは、なかなか難しいこと。人がいない時に、ベテランパートやアルバイトに頼らざるを得なかった過去を考えれば、ある意味、のさばってしまったのは当然のこととも言えます。
過去を否定せず、適度な落とし所を見つけることで双方が円満な関係を築けるようにリーダーが配慮するべきであり、これができるのは店長の力の見せ所と言えるでしょう。
アルバイトの上に立つのが社員ではない
ここでも、事例を一つ紹介します。
アルバイト50人を抱えるある店舗では、昼には「主」と呼ばれたパート歴10年のベテラン。夜にはアルバイト歴5年程度の学生マネージャーが3人いました。そこに入社して半年の女性社員が配属になります。
そこで店長と相談し、まずは人間関係を構築することに力を注ぎます。女性社員は「そうなんだ!いろいろ教えて」と積極的にアルバイトに聞く一方、店長は「女性社員は、アルバイトが親切に教えてくれてうれしいと言っている」と積極的に伝えました。
つまり、この時点では、アルバイトが上、女性社員が下という関係性を計画的に作ったのです。
そして1年後、彼女は異例の速さで副店長に昇格します。当時の店長は、「立場が逆転するので関係性が崩れ、うまくいかないのではないか」と心配したそうですが、当の本人は「問題ないです」と言い切ります。
そして実際に、「今の副店長は俺たちが育てた。だからこれからも協力して、いつかは立派な店長にしてやるんだ」という意識をアルバイト側が持ったことで、関係性はさらによくなります。その後、さらに異例の速さで店長となり、売上の記録を達成することに成功しました。
ベテランアルバイトと社員は役割が違いますが、それをアルバイト側が正しく理解するのは難しいものです。重要なのはお客が満足し、店舗が売上を確保することであり、そこで働くスタッフの人間関係が円満であれば、見た目の上下関係は問題ではありません。
「社員はアルバイトより下手に出てはいけない」「社員側の権限を見せつけなくては店は機能しない」とかたくなに主張する人もいますが、それが全てではありません。タイミングやパーソナリティによっては、下手に出ることで関係性が保たれることもあります。また一見下手に出ているように見えても、実は違うことも少なくありません。
リーダーにはさまざまなタイプがあり、最終的に店舗をまとめる力がリーダーシップであり、下から持ち上げるタイプの人もいます。人が多くなると、社員がさまざまなところで意思決定をし、自らの判断で動くことが多くなります。その判断は店長の意思と同じであることが重要ですが、伝え方は違っても問題ありません。この理解をすることが店舗という組織を作る上で重要なのかもしれません。
まとめ
大型店舗を出店し、運営する際に注意することを挙げてみました。
さまざまなところにポイントがあり、また運営をしていく中で常に気にかけなければならないこともあります。大型店舗になると店長やオーナーが全てに目を光らせ、チェックをすることは不可能です。まずはそれを理解し、全ての人が正しい行動ができるようになるために、何をすべきなのかを考えることが重要です。
大変である一方、可能性も広がる大型店舗。挑戦する際のお役に立てれば幸いです。