新型コロナウイルスの流行は飲食業界に大きなダメージを与えました。2020年は、「まさか国から時短営業を要請されるなんて」と落胆した人が多かったでしょう。さらに翌年に入り、酒も出せないとなっては、先行きに不安しかないという声も聞かれます。
それでなくても、居酒屋は転換期を迎えつつある業態だとささやかれてきました。そして、新型コロナをきっかけに、その動きが本格化したと分析するむきがあります。
この記事では、なぜ居酒屋が転換期を迎えたのか、大手がどういった動きをはじめているのか、また今後のために、どういった対策をしていけばよいのかを検討します。
居酒屋は1980年代に躍進した
居酒屋はサラリーマンの心のオアシスとして、長く愛されてきました。
居酒屋が誕生したのは江戸時代。酒屋で飲む人が増えたことから、「酒屋さんに居ながら飲む」ということで”居酒屋”と呼ばれるようになったと言われています。
このようにかなり昔から人々の生活に根付いていた居酒屋ですが、これが一般的になったのは明治時代。そして1960年代に居酒屋のチェーンが台頭しはじめ、1980年代にはチェーン店がブームとなります。
1980年代と言えば、女性の社会進出が盛んだった時期。それまで仕事帰りのおじさんがたむろする煙たい場所だった居酒屋が、女性も利用できる明るい場所になり、酒も料理も個性的なものが増えていきました。
居酒屋は外食産業のすぐれた業態だった
さて、居酒屋と言えば、主なターゲットはビジネスマン。そのため営業時間は、夕方5時ぐらいから深夜12時ぐらいまでというところが大半です。もちろんもっと遅くまで営業している店や、ランチタイムに開けている店もありますが、主戦場となるのは、仕事が終わる時間から終電まででしょう。
一方、居酒屋は5時から12時までだとすると7時間。こうなったのは、酒を出すことで客単価を高く設定できることにあります。例えば、簡単な料理とビールはほぼ同じ値段です。料理は2~3人で来て、2~3品程度頼めば満足する人も多くなっていますし、頼む人でも人数の倍、つまり6品程度となります。酒はと言えば、以前は「駆けつけ3杯」と言われるほど多い注文数が見込まれ、その結果、客単価は上がったわけです。
客単価が高くなると来客数はファーストフード店よりずっと少なくても問題はなく、短い時間でも営業は成り立ったわけです。
近年の酒離れとちょい飲み市場の拡大で逆風に
ところが、時代の経過とともに、事情は大きく変わります。居酒屋はバーとは違い、料理を出すことも重要です。実際、料理にこだわる店も多く、専門店との境がなくなっている店舗も増えています。一方、専門店側も酒を飲んでくれれば単価があがるので酒メニューを充実させた結果、お客としては店を選ぶときの垣根はなくなりました。
その結果、「今日、どこに食べに行こうか?」となったときに、たくさんの料理を幅広く出す居酒屋は無難であるけれども個性がなく、選択肢に上がりづらくなってしまったのです。
また、ファミリーレストランやファストフード店が、ちょい飲み需要に対応してきました。酒量が少ない人が増え、お通し代を取られる居酒屋より、気軽に飲めるファミリーレストランの方が気楽だと感じる人が増え、居酒屋は窮地にたたされます。
もちろん、今でも人気の居酒屋は多く存在します。ただし、ガラガラの店も増え、二分する状態となっているのです。つまり、コロナは最後の引き金を引いたに過ぎず、実際には、もっと以前から業態転換期に来ていたわけです。
大手居酒屋チェーンの業態転換の向かう先
このような中、大手の居酒屋チェーンが業態転換を次々と発表しています。ワタミ株式会社は2020年12月、新ブランドとして、高品質な焼肉をリーズナブルな価格で提供する焼肉業態「焼肉の和民」の展開を発表しました。関西地区を中心にスタートし、特急レーンや配膳ロボットを設置し、人件費を最小にする計画。現在のところ、居酒屋全店の3割にあたる約120店をこの業態に切り替える予定だそうです。
居酒屋「塚田農場」は、渋谷にあった5店舗のうち、3店舗を「地どり屋つかだ」「焼鳥つかだ」といった専門店にすでに転換。塚田農場は全国に約100店舗ありますが、今後10年で全店舗を業態転換するそうです。
東京商工リサーチによれば、居酒屋チェーンを運営する上場企業13社の店舗数は、2020年の1年間に12.5%も減少。店舗数が増えたのは串カツ田中ホールディングスのみ(プラス3店舗)の散々な状況です。全体でみると、19年末から873店舗が減少しています。新型コロナの影響があるとは言え、転換期が来ているのは間違いないでしょう。
業態転換の3つのポイント
では、これから業態転換をしようとする場合、どのような方向性を見出せばよいのでしょうか?
これには3つのキーワードが重要となります。
1. 専門店化
2. 個性的かつ斬新さ
3. 脱アルコール
それぞれを詳しく見ていきましょう。
1.専門店化
いろいろなメニューを幅広く扱ったり、一般的な家庭料理など、無難なメニュー展開ではなく、特定の商品ジャンルに特化して展開するものです。塚田牧場が地鶏専門店に業態転換するのがこの代表でしょう。
居酒屋と言いながら、すでに個性を出した料理を売りにした業態は多くあります。それが強化されるイメージ。勝つためポイントは、「〇〇を”食べに”行く」と言ってもらえるかどうかです。
2.個性的かつ斬新さ
次のポイントは個性的かつ斬新さです。これまであった業態でも、新しさを加えることで人気となりえます。
たとえば最近、急速な広がりを見せているのは、卓上レモンサワーサーバーを設置した焼肉店である仙台ホルモン 焼肉 ときわ亭。焼き肉店は換気環境があるとしてコロナ禍でも売り上げを落とさなかった業態です。この各テーブルにレモンサワーを提供できるサーバーを設置し、お客がセルフで入れるという業態が増えています。イメージとしては、回転寿司屋の各テーブルに設置されているお茶(お湯)のレモンサワー版といった感じでしょうか。
飲み放題の価格は60分500円や90分900円など格安。それでも成り立つのは、サワーが原価率の低い商品であり、これに人件費の削減分を加味すれば十分に利益が確保できる公算です。
この業態は2018年10月に大阪で誕生。2020年12月時点で約50店舗に増えており、東京でも増えています。飲食店での酒類提供自粛要請のあおりをもろに受けた業態ではありますが、それでも、今後増えていくでしょう。
すでに、輸入牛の焼き肉380円均一の店やホルモン食べ放題の店、ジンギスカンがメインの店など、さまざなま広がり見せています。今後は焼き肉以外にも広がって行きそうです。
3.脱アルコール
最後のキーワードは、居酒屋の根幹から変えてしまう脱アルコール。鳥貴族ホールディングスが新しくチキンバーガーの専門店を展開することを見ても軽視できません。
ただし、完全にアルコールをなくすと、酒を出す業態のメリットがなくなってしまいます。アルコールを完全に扱わない業態となると営業時間はもちろん、立地も変更しなければなりません。そこまではできない店舗がほとんどでしょう。そのような場合、Uber eatsなどのデリバリー出店するとき、酒を扱っていないゴースト店舗として出店する方法があります。
デリバリーは天候が悪い日に売れる特徴があります。雨が強い日や雪の日はライダーがいなくなりますが、最近ではシフト制でライダーを稼働させたり、天候が悪い日はインセンティブをつけることでライダーを動員するところも出てきています。これらをうまく活用することで、売り上げが落ち込む日をカバーできるというわけです。
業態転換するなら補助金がある今
業態転換をするのは、まだ先でいいという考えもあるでしょう。
しかし、急いだほうがよい理由があります。それは今、補助金が充実しているということです。
例えば、東京都中小企業振興公社の業態転換支援(新型コロナウイルス感染症緊急対策)事業は、東京都内で飲食業を営む中小企業者(個人事業主含む)が対象です。新型コロナによる都民の外出自粛要請等に伴い、大きく売上が落ち込んでいる都内中小飲食事業者が、新たなサービスにより売上を確保する取り組みに対し、経費の一部を助成してくれます。この最終回が追加され、2021年6月30日までとなりました。
これから新型コロナは収束に向かってゆくと言われていますが、だからといって飲食店の売り上げが元に戻るとは言い切れません。たくさんの助成金が用意され、利用条件の緩和、助成額の増額などがなされており、今こそ利用して、早期に業態転換を果たすべきときかもしれません。
まとめ
コミュニケーションの変化や若者を中心とした酒離れにより、不振店が増えていた居酒屋業界。大手のチェーンも業態転換を図りはじめており、このままでは先細りとなってしまうでしょう。それであれば、コロナの逆風を逆手にとって、今こそ専門店化など新しい業態にするベストタイミングなのかもしれません。
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