飲食店を新たにオープンするとき、それまでの経験やデータを駆使し、さまざまな角度から、どのような業態がよいか、客層はどのような層を狙うのか、客単価はどれぐらいかなどを検討するでしょう。

しかし綿密に計画したとしても、全てが計画通り行くことはありません。超大手チェーンのように、すでに何百店もオープンしているならデータの正確性は高いでしょう。しかし、一般の店舗では、なかなかそうは行かないのが現実です。

こうなると将来を見据えて業態転換しやすい店を作るという発想も重要となってきます。

今回は、将来の業態転換を見据えた店舗づくりというテーマで考えていきます。

飲食店はブームがおきやすいが廃れるのも早い

飲食店は流行り廃れが顕著な業種です。もちろん、長年続いているそば屋や居酒屋、レストランなどもありますが、一方で、行列ができるほど人気だったのに、今はなくなっている店舗も思い浮かぶのではないでしょうか?

飲食店をオープンする人は、「長年続く店舗をつくる」という人がほとんどだと思いますが、狙って長続きする店舗ができるわけではありません。また、「一時のブームに乗ってガッツリ儲ける」という人も、うまく流行の波に乗れないこともあります。

飲食店は実に難しい業態なのです。

ここで、流行の発信地について見ていきましょう。

バブルの頃、ファミリーレストランのデニーズでナタデココが大流行しました。当時、いつでも食べることができたのはデニーズだけだったこともあり、ナタデココのために毎日通う人もいるほど。つまり、このタイミングでは専門店は不要だったわけです。

その後、時代は進み、いまブームを起こすには専門店が欠かせません。たとえその商品の発症がデパートの地下や飲食店の一つのメニューだったとしても、それが大きなムーブメントとなるには、専門店が必要です。

例えば、タピオカミルクティーはこれまでも何度かのブームがありました。しかし、今回のブームは最大で、それを支えたのは多くの専門店でした。流行り出し当初、一定以上の年齢の人は、「今さらタピオカなの?」という印象があったかもしれませんが、これまでにない「オシャレなドリンク」にリニューアルして再登場。タピオカミルクティー専門店には長い行列ができました。並んでやっと手にすることができる希少性もこのブームの重要な要素でしたが、そもそも並んで買うのは店舗が必要であり、これが今の時代に欠かせない要素となります。

専門店の方が好印象

飲食店はイメージに左右されやすい業態とも言われ、なんでも食べることができる店よりも、専門店の方がより高品質のものを提供してくれそうだと思ってもらえます。不思議なもので、それほど美味しくなくても(ときには味が劣っても)、居酒屋で出される天ぷらより、天ぷら専門店で出される天ぷらの方がよいと感じる人が多くなります。

これを逆手に取ったのが、Uber Eats上での多店舗展開です。客席も一般客の対応スペースもない厨房を作り、そこに20軒以上の「○○専門店」が並ぶゴースト店舗が登場しました。店内には20店舗分のブースがあるわけではなく、何が入っても同じスタッフがひとつの厨房で作り分けます。また「普通の居酒屋でUber Eatsの複数店舗を展開している」と悪評となった店舗もありました。

飲食店は本来、味で勝負するものであり、美味しければ問題はないと思います。ですが、専門店ではないところが専門店と言ったばかりに、「消費者をバカにしている」「騙された」と感じる人もいるわけです。確かに、専門店でないところが専門店と言い切る手法はフェアじゃないとの意見にも納得はしますが・・・。

何にしろ、専門店であることは特別に美味しいという印象付けに繋がっていて、商売をする上で非常にポイントが高いということになります。これは通常の飲食店を出店する上でも非常に重要なことです。

専門店はつぶしがきかない

とはいえ、専門店を作ったものの、そのニーズがなかったというケースや、ブームに乗って専門店を作ったが早々にブームが去ってしまったというケースもあります。

専門店と謳いながら、他のものも出したのではもはや専門店ではなくなるわけで、そのせいで何屋だか分からなくなっている店舗もあります。これは正しい方法とは言えませんし、商売としても成功はないでしょう。

このような事態を避けるには、ブームが去ってしまったら、あるいはニーズがないと感じたら、早々にその専門店を撤退し、他の専門店を作るようにするべきです。つまり、業態転換(業態変更)です。

業態転換のメリット

新しく店舗を作るのではなく、業態転換することのメリットを見てみましょう。

物件の取得コストが不要

物件を新しく借りて飲食店をオープンするには、物件の取得コストが必要となります。地域や物件の状態によりますが、東京都の場合、保証金が家賃10ヶ月程度、礼金が2ヶ月程度が多いようです。あわせて1年分を契約時に納めなければなりません。家賃50万円とすれば、600万円です。これはかなりの負担になります。

その点、業態転換であれば自分がすでに契約している物件ではじめられますので、この費用は不要となります。

基本的な立地調査が不要

成功するためには、物件を取得する前の立地調査は必須です。しかし、既存店舗で業態転換をするのであれば、すでに基本的な調査は住んでいる上、土地勘などもあるので、新たに立地調査をすることは不要であるか、必要があっても最小限で済みます。

たとえ違う客層をターゲットにする場合でも、肌感覚である程度のことはわかっているはず。これは商売をするうえで強みになります。

内外装費が安くすむ

スケルトンで物件を契約する場合、内装外装を工事するのに大きなコストがかかります。イメージを設計士に伝えて設計してもらい、予算内で店舗をつくることが、いかに大変かお分かりのはず。

その点、業態転換であれば一部を変更するだけですむので、コストと手間をカットできるのは大きなメリットです。

また、最初の店舗をつくる時点でいくつかのポイントを押さえておけば、業態転換のしやすい店舗ができます。

仕入れ先が近くにある

野菜意外に盲点なのが仕入れ先。ほとんどの飲食店は近所の業者から食材を仕入れているので、この点は欠かせないことなのですが、「何とかなる」と考える傾向にあります。特に鮮度が関係している食材は重要です。

過去に筆者が関わった例では、仕入れ先業者(この例では精肉店と八百屋でした)が変わったために、食材価格が1.2~1.5倍になったというケースがありました。これを考えると、すでに取引のある仕入先があるのは安心です。

業態転換を考えた飲食店のポイント

飲食店を作るとき、つぶれることを前提に考えるのは間違っていると考えるかもしれません。しかし、業態転換することを頭に入れておくと、いざとなったときの抜け道を増やすことになりますし、改装がしやすかったり、什器の入れ替えが容易になるなど、そのままの業態を継続する場合でもメリットは多くなります。

そのポイントをまとめてみました。
すべてをやらなければならないというわけではありません。可能な範囲で実行するようにしてください。

1.内外装にお金をかけすぎない

たとえば、タピオカミルクティの場合、店舗が急拡大した背景には、出店がしやすかったことが挙げられます。専門的なマシンの類いは不要。専用のフィルムをコップに貼り付けるシーラーマシンにしても、10万円程度で入手できます。

タピオカを手作りするにしても専門的な高額な機械が必要なわけではなく、また油を使用しないため高性能なグリストラップを設置する必要もありません。そのため、出店しやすかったことが爆発的に店舗が増えた理由でした。

また多くの店がテイクアウト専門、または客席は少しだけという店舗作りをしたことも特徴で、一部のチェーン店を除き、店内は徹底してシンプルにつくり、コストを掛けなかったことが高利益を生み出しました。

これを活かし、個人店でタピオカミルクティ屋を出店した人は、別の業態に変更しているところも多く出ています。ある店舗は、タピオカミルクティ屋からバーに業態転換しましたが、内装は壁とテーブル、イスを暗い色に塗り替え、ポスターを貼り替えて対応。見事に別の雰囲気に生まれ変わっています。

飲食店の中には、内外装にお金をかける方が個性が出てよいと考えるところもありますが、どれだけの利益がでるのかが分からない以上、コストはできるだけ安く抑え、シンプルな造りにする方がおすすめです。

2.専門什器は取り外し可能なものを選ぶ

厨房機器の中には専門的で、他には流用しにくいものがあります。その代表は、作り付けのピザ窯。

客席から見える大きなピザ窯はショーアップ効果もあり、特徴的な店舗づくりができます。しかし、他の業態に変えたいと思った時、処分するのに困ってしまいます。

同じピザを出すにしても、いざとなったら撤去できる機器を選択することをおすすめします。逆に、お金をかけたいのであれば、まずはピザ屋として成功し、バージョンアップとして本格ピザ釜を設置した店舗にリニューアルする方が正攻法だと言えるでしょう。

特に作り付けの厨房機器は撤去するのが大変なので注意してください。

3.グリストラプやダクトなどに配慮した業態を選択する

飲食店と一口に言ってもグリストラップやダクトの性能は業態によって異なります。例えばラーメン屋は、規模が小さな店舗であってもスープに油脂が多く含まれるため高性能なグリストラップが必要となります。

また焼き鳥屋は煙が出るため高性能なダクトが必要となります。性能が見合っていなければ店内に煙が漏れ、服に匂いがつくからとお客が敬遠するでしょう。

では、最初からどんな業態でも対応できるように高性能なものを作れば解決するかと言えば、やはり高性能なものはコストがかかります。効率のよい投資という点では賢い選択とは言えません。

過去には、「構造上、ダクトの性能は上げられないが、どうしても焼鳥屋にしたい」といって、店頭に焼き台を設置した店舗がありました。確かに、煙を外に逃がすことができ、店内の問題は回避できたのですが、住宅街だったために近隣からクレームが来て、再度、業態を変更することになりました。

やはり、業態を変えるなら、自店のグリストラップやダクトなどの性能を加味した上で決める方が現実的だと言えるでしょう。

4.業態転換には類似性の高い業態を選ぶ

業態転換をする時、什器や備品をそのまま流用できる業態を選ぶのも賢い選択です。かなり前の話ですが、狂牛病が騒がれた時、テーブルに鉄板を設置した焼肉屋が、数日のうちにセルフ式の焼き鳥店に業態転換した例がありました。

この当時、自分たちで焼き鳥を焼く店舗はなかったため、客単価が下がっても、売り上げは伸びる結果となりました。

また最近の例では、タピオカミルクティー屋がカップケーキの専門店に変わっているのを見かけました。カップケーキはオーブンが1台あればよく、あとは好みでトッピングをするというタピオカミルクティー屋で培ったノウハウを活かしていて、賢い選択だと感心しました。

このようにお客からの印象はガラッと変えながら、ノウハウや厨房の什器・備品は可能な限りそのまま使用するという意味では、類似性の高い業態を選ぶのが賢い選択になります。

業態転換だからこそデータが重要

業態転換は場所が変わらないために、勘だけに頼って、業態を選択する店舗もでてきます。しかし、せっかくその店舗で培ってきたデータを活かさない手はありません。

データはPOSレジを入れておけば、客単価や客数、曜日による売り上げの変動など、さまざまなことが分かります。これらは、業態が変わっても参考にでき、飛躍のためには欠かせないものです。

例えば、どうにも売り上げが芳しくなく業態を変える場合でも、どの客単価でうまくいかなかったのかというデータがあることは、次の戦略に役立つでしょう。これが新たな地で出店する場合、絶対に得られないものです。

最近はPOSレジは高性能になっていて、なおかつキャッシュレス決済にも対応するなど、さまざまなメリットを享受できます。たとえ、今の店舗が順調に売り上げを伸ばしているとは言えなくても、これからの成功のために、導入することをおすすめします。