コロナウイルス対策の水際対策として実施されてきた海外観光客(インバウンド)の受け入れが解除され、身近な存在になる日が近づいています。
こうなると、インバウンドをどう取り込んで行くかが、これからの飲食店の大きなテーマとなります。これは、新型コロナウイルス以前にインバウンド対策を全くしてこなかった店舗だけでなく、以前はしていたというところも同じです。
この記事では、これからインバウンドを取り込むために、何をどうすればよいのかを考えます。
コロナ禍で海外の評価が上がった日本
日本政策投資銀行は、「次に海外旅行したい国・地域は?」という調査を行いました。調査の対象国は中国、台湾、韓国、米国、英国、オーストラリアなど。12の地域に住む6139人。
この調査では、「日本に行きたい」と回答した人がもっとも多かったのです。その理由は、「食事のおいしさ」「清潔さ」「治安の良さ」が際立っていました。
この調査は2020年12月に実施されたのですが、その後、円安が進み、「日本は物価が安い国」となって、さらに注目度が上がっています。
筆者の知人であるスペイン人が、今年のゴールデンウィークにビジネス目的で来日しました。彼の来日は4回目。以前から日本びいきだったのですが、「日本は素晴らしい、奇跡の国だ」と連呼していたのが印象的でした。
どれくらい円安かと言えば、2019年は1ドルが108円でした(年間平均)。それが2022年6月現在、135円前後ですから、その差は25%。1000円のランチは、2019年は9.25ドルだったものが、7.4ドルになっているわけで、安さに感動するのは当然です。
旅行では、「予算はいくらくらい」とある程度決めておくのは各国共通のこと。ただし、それは日本円ではなく、自国通貨で決めています。円安により、日本国内で使える金額は25%も増加。当然、外食費も増額していることから、飲食店はこの絶好の機会を逃すわけにはいきません。
早めに取るべきインバウンド対策
ではここから、インバウンドを最大限に取り込むために、今すぐにやるべき対策を上げていきます。
英語のメニューを見直す
コロナ前の2019年、インバウンドの数は3188万人でした(日本政府観光局)。もちろん、コロナによって外国人がゼロになったわけではありませんが、その多くは日本語が理解できる人でした。そのため、いつしか外国人向けのメニューを作らなくなったという店舗が多くあります。
最近は食材の仕入れ値が上がり、メニューや価格を見直したところも多くあります。インバウンドを取り込みたいなら、英語のメニューは必須。一刻も早く取り組むべきことでしょう。
ちなみに、英語のメニューを作るというと、完全に英語発想のものを作らなければならないと感じる方がいます。しかし、それはインバウンドが求めているものではない、という話を聞いたことがあります。
例えば、「肉じゃが」を表すのに、「Meat and potatoes stew」と記載しているところがありました。少しでもわかりやすくしたいという日本人の優しさが出ている英訳ですが、伝わりやすいかどうかは疑問です。
どうしても使いたいなら、商品説明に使ってください。なぜなら、日本らしさを体験することまで奪ってしまうからです。
日本食ブームは各国で起こっていて、そこでは「NIKU-JYAGA」のままで通じることも少なくありません。「本場で肉じゃがを食べた」という体験をしてもらうためにも、商品名はそのままにすることをお勧めします。
そうすれば、「Meat and potatoes stew」と注文されたスタッフが戸惑うこともありません。
注文のしやすさはモバイルオーダーがベスト
コロナ禍で増加したもののひとつにモバイルオーダーがあります。以前から徐々に広まりつつはありましたが、人件費を減らしたい飲食店や、人との過剰な接触を避ける目的で導入した店舗が増えました。
お客の側も、モバイルオーダーによる注文のしやすさを理解し、便利だと感じる人が増えています。
某大型寿司チェーンでは、店舗によってモバイルオーダーができる店舗と、各テーブルに設置されたタブレットでのみ注文ができる店舗とがあります。
その店舗では、アプリをインストールするタイプのモバイルオーダーだったのですが、かなり気に入り、「他の店のもインストールしたい」とのことで探して行きました。他は、QRコードを読み込んで、サイトにアクセスするタイプだったのですが、URLをEvernoteに保存していたほどです。
もちろんモバイルオーダーはその場でしか使えません。しかし自分のスマホの中に、日本の店舗の写真付きのメニューがあるということ自体が嬉しいようでした。また、商品説明が英語で書かれているのもよかったようです。
帰国するときには、「ぼくのスマホの中に日本のレストランのメニューがあることは素晴らしい。帰ったらみんなに自慢するし、次に日本に来た時には、またこの店に行こう。メニューはスペインで考えてくるよ」と言っていました。
インバウンドが参加しやすいコースを設定し直す
コロナ禍の飲食店では、それまでインバウンド向けの企画だったものを、子供向けの企画に変更したところがあります。
典型的な例で言えば、ラーメンを自分たちで作って食べると言うコースを設定していた店舗が、子ども向けの企画に変更していました。自作のラーメンを食べつつ、関連商品も注文してくれるので客単価がアップしていたのですが、対象を子どもに変えたことで、客単価は大きくダウンしたと聞いています。
同じく、忍者体験と銘打って、ちょっとした遊びをした後に、カフェで食事をするという店舗がいくつかありました。実は前述のスペイン人が来日した時、「忍者を体験したい」ということで調べたのですが、生き残っている店舗は全て、子ども向けになっているようでした。
もちろん子ども対象で今後もやっていくならば問題はありません。しかし、インバウンドを取り込みたいと考えているなら、策を練らなければなりません。
同時に日本人の子どもとインバウンドを楽しませるのは難しいこと。まずは、時間によって対象を変えるなど、工夫が必要かもしれません。
また、前述のように円安が進み、インバウンドの財布の紐は緩んでいます。コースの内容を見直し、高めの特別コースを新設するのもよいかもしれません。
インバウンドが利用する口コミサイトをチェックする
私たちは店を探す時、インターネットを利用します。これは海外の方も一緒。日本人以上に口コミを重視すると言われる海外では、インターネット上にあるクチコミサイトの存在感は大きいものです。
では、何を見ているのかといえば、日本語で書かれている「食べログ」や「ぐるなび」ではありません。代表的なサイトは、「tripadvisor(https://www.tripadvisor.jp/)」です。
このサイトは日本語と英語のページが連携しているので、英語が得意でない人もチェックしやすいのが特徴です。参照方法は以下です。
1. 「https://www.tripadvisor.jp/」にアクセスし、日本語のサイトを開きます。
2. 日本語で自店の口コミを見つけたら、アドレスバーの「https://www.tripadvisor.jp/~」の「jp」の部分を「com」に直します。
3. すると、英語のサイトが開きます。
ぜひ一度、チェックしてください。
設備を見直し、説明を付ける
随分前の話ですが、筆者の知り合いの飲食店で、シャワー付きトイレを設置したところがありました。海外の人にも概ね好評だったのですが、ある外国人がトイレを利用し、びしょびしょになって出てくるという事件がありました。
どうやら止め方がわからず、あれこれと操作しているうちに、シャワーを浴びてしまったようです。センサーで止まるようになっているはずだったのですが、なぜか止まらなかったと・・・。
実は、シャワー付きトイレは日本独自のもので、海外へ輸出することを前提に作っていないため、操作パネルに「止」の文字はあっても、「STOP」などの表示はありません。
最近は海外でも、「日本のトイレはシャワーが付いている」と噂になっており、ぜひ使ってみたいと考える方は多いようですが、止め方までは知らなくて当然です。何らかの形で使用方法を明示するなどの工夫が必要かもしれません。
また、店内の装飾には触れない、というのは日本人にとって常識ですが、海外の方は気軽な気持ちで触ってしまうケースもあります。これは文化の違いなので、触れて欲しくないものには、注意書きを設置するなどの工夫が必要です。
店内を見渡し、誤解されそうな箇所がないかをチェックするようにしてください。
まとめ
インバウンド対策は、「海外からの旅行者がもっと増えてからでいい」と考える方もいるかもしれませんが、これからは少しずつ増えていくことは確実です。気がつけば普通に利用されるようになり、結局はドタバタと準備を進めなければならないのではよいものはできません。
特に、モバイルオーダーなどは、今日必要性を感じたからといって、明日から使えるというものではありません。
早くから準備するからこそ余裕を持ち、さまざまな事に気づけるもの。ぜひ、早いタイミングから対策をして行ってください。